第37話 初調薬に挑戦 3
戻ってまいりました冒険者ギルド。
カウンターでギルドカードと採取してきた薬草を出し、依頼完了処理をしてもらう。
もちろん、町に入る前にインベントリから採取袋は出して手に持っている。
「お待たせいたしました。報酬は銀貨5枚となります。こちらが内訳です」
「ありがとうございます。また宜しくお願いします」
採取の報酬は5千円くらい?自分が使う分は除けてあるので中々の収入じゃなかろうか。子供の小遣いと言うより高校生の放課後バイトくらいにはなってる気がする。このお金で、帰りに不足している素材を買って宿で調薬をしてみよう。
「おかえりなさい、ホリィちゃん。無事に登録は出来た?」
宿に戻るとサジさんがお出迎えしてくれたけど、この人、本当に仕事はいいのかな?とはいえ、「おかえりなさい」が嬉しくて仕方ない。第四界でぬらりひょんだった私は、こういう普通の挨拶にちょっとドキドキする。
「ただいまです、サジさん。ちゃんと登録して、採取も済ませてきましたよー。初仕事、バッチリでした」
「偉い偉い」
頭を撫でてくれるサジさん。嬉しくてこそばゆい。
エドさんといいサジさんといい撫でるのが上手で有難い限り。だけど、他の人に撫でられたことがないので、相対的なレベルは分からんです。でもってサジさんが私を撫でてくれるのはエドさんの指示なんじゃないかと疑っている。初めて撫でられたと言った時に随分と不憫がってくれたからね。
私は根が冷たいのか、いない子として扱われていた時にもダメージはそれ程なかったし、今となってはナートゥーラの力が強くて馴染めなかったんだと言う理由も知っている。――ナートゥーラの力とやらが未だに分かってはいないけど。
だから大丈夫だよー、心配要らないよー、サジさん。と言いたいけど事情が説明できないので言えない。
決して、ナデナデが気持ちいいからという理由では、無い、よ、うん。
◇◇◇
宿の部屋に戻り、床に清浄をかけた上で素材をインベントリから取り出した。
風邪薬は口にするものだからまず洗わないと。傷薬用の薬草もついでに洗おう。
「水」
空中に水を出して薬草を入れる。
「水流:弱」
優しく水を回す。綺麗になったら薬草を取り出す。
「蒸発」
水が消える。
いや、魔法って何でもありなんだなぁ。ひらめきのまま「こうなって欲しい」と思う事を口にしただけなのに、本当にその効果が表れて自分で自分の魔法にびっくりだ。理論ありきの科学と違って、思念でどうにかなる魔法の便利さは尋常じゃない。私は何も考えずに使っているけど、この世界の魔法使いさんたちはどうなんだろう?
3回魔法を使ってMPはどのくらい減るのだろうと自分を鑑定してみたが、偽装なしステータスでのMPは5000/5000のままだった。これは使用MPが極々僅かだったのか魔力超回復(Lv1)のせいなのか。何となく後者の様な気がするが、それならそれで便利だから良し。
チートの便利さに流されている私です。
「清浄」
私の手と薬草に清浄をかける。薬草はお水で洗ったけれど念の為です。日本人として、口に入るものの衛生管理は無視できません。あ、魔法で部屋をクリーンルームにしたりも出来るかな?
「清浄 無塵状態固定」
部屋全体を清潔に。いや、ちゃんとお掃除されていてきれいな部屋だけども、埃は何処からでもやって来るし見えない所で舞っていたりするからね。
「清浄」
部屋をクリーンルームにしたところで薬草にもう一度クリーンをかけた。しつこいかな?でも、しつこい位に安全管理をしたい。自分で使う分だけならともかく、私の作ったもので万が一にも誰かに健康被害が出たりしたら申し訳ない。風邪薬を呑んで別の病気になるなんてとんでもないよね。
風邪薬用の薬草を一つまみ分ずつ取り分け、清浄をかけた薬包紙の上に置いて……さあ、初めての調薬だ!
「調薬魔法:風邪薬」
六種の素材が一瞬の間に粉薬になった。
キラキラエフェクトでも出るかと思ったけれど、それは無かった。残念。あ、いや、安全第一を考えたら目立たず地味に魔法が使えるのは良い事だよね。だけど、エフェクトがあったら格好いいなーなんて思ってしまったのだ。ガッカリと安心がないまぜになってしまったけれど、安全第一だから!と自分に言い聞かせる。
「鑑定」
出来立てホヤホヤの風邪薬に鑑定をかけてみる。
―風邪薬―
風邪の諸症状によく効く薬
1日2回、食前にお湯または水で服用
等級:S
おおっ、等級Sだって!やった、大成功だ!私、薬師の才能あるんじゃない?…って、スキルが優秀なんだろうけどさ。……ん?素材は全部Aだったのに出来上がりがSってどういう事?それに、等級にSがあるなんて知らなかった!探知魔法で等級Aを指定したのは失敗だったか。等級に関しては要調査だ。図書館とか本屋さんとかないかなぁ。SSとかSSSとかSRとSSRとかあるんだろうか。
薬がこぼれないように薬包紙で包むと、やり遂げた感でいっぱいになった。まだ一回分のお薬を作っただけなのだけど、これで薬師への第一歩を踏み出せたかと思うと、とても嬉しい。
「よし、この調子で採ってきた薬草をお薬にするよ!」
ベッドの上の黒曜蛇ちゃんに宣言して、また調薬再開。
一包ずつ調薬魔法をかけるのは面倒なので、薬包紙の残り29枚並べて薬草をその上に取り分け、まとめて魔法をかけてみよう。駄目だったら数を減らして最大で何個までを一度に作れるか検証しよう。
と思ったら、29個の風邪薬が一遍に出来ました。凄いな、調薬魔法。
包むのも纏めて出来ないかなぁ。シーラーがあればいいのに。魔法で出来る?やってもいい?
第二界常識さんをチェックすると、薬包に限らずシール止めは一般的ではなさそうなのでやめておこう。穴だらけ落丁だらけの第二界常識さんだけど、私のこの世界の知識は穴だらけどころか枠状態だから取りあえず信じるよ。
複製スキルがもっと優秀で劣化コピーにならなければ、これも複製するんだけどなー。劣化状態のお薬なんて怖い物は作れません。
ちまちまと薬包を折って包み、30個の風邪薬が完成!もちろん全てが等級Sだ。薬師への道、第一歩を踏み出すどころか3歩くらい進んでない?
薬が出来たことをサジさんに報告だー。エドさんが帰ってきていたらエドさんにも見てもらおう。そして安心してもらおう。私は薬師としてやっていけるから、本当に大丈夫だよと伝えよう。
そう思ったのに。サジさんは顔を覆って深いため息をつくし、帰って来ていたエドさんに至っては
「お前はっ!常識をっ!学べ――っ!!」
だった。デコピン飛ばしてアイアンクロー付き。
頑張ったのに理不尽だ。
読んでくださってありがとうございます。




