第35話 初調薬に挑戦 1
第二界生活4日目。今日は初調薬に挑戦するのが目標だ。
先ず、調薬スキルをチェックしよう。意識を向けると、モニターと言うかウィンドウの様なものが出てくる。
【調薬】
薬効のある素材を乾燥させ粉砕して練り合わせてから形作る。
ほうほう。細かくして擦りおろして混ぜる感じかな。あ、そういえば調薬魔法もあったっけ。出来上がりが同じなら魔法で作ったほうが楽ちんかも。
――こうして人は楽な方に流れていくのね……。
ゾワゾワしながら調薬魔法を習得。そしてチェック。
【調薬魔法(Lv1)】
薬効のある素材を薬に変換する
ほーら、やっぱり楽ちんだ。素材を刻んだり砕いたり混ぜたりは、手間もそうだけど道具もいるもんね。魔法で作るなら道具要らずだ。チート万歳。って……どこまで流れていくんだろ、私。安全第一・いのちだいじにを忘れずに!
でもね、早々に糧を得る手段を決定しなきゃいかんのだよー―と自分で自分に言い訳してみた。
さあ、ぱぱっと素材集めしてみよう。何を作ろうかなぁ。やっぱり風邪薬とか傷薬とか?とんでもない物を作ってエドさんにデコピン食らうのは避けたいから、無難なものにしよう。自分でも必要になりそうなものは風邪薬かな。傷はヒールで治るし。
いや、人前でヒールを使うのは避けなきゃならないんだから、傷薬も持っておくべきか。うん、最初は風邪薬と傷薬にしよう。
材料は
【風邪薬】 タタラの根 マラン木の皮 シナモン ピティアスの葉 クミタ草 生姜
【傷薬】 紫花の根 トーキの根 セミン油 オーク油 蜜蝋
と出た。
これらが薬種問屋さんに置いてあるのかな。幾らするんだろう。自力で採取出来ればお金が浮くんだけどどうだろうか。まだ収入ゼロで使うしかしていないのに更に出て行くのか……エムダさんからの支援金がまだあるとはいえ、収入を得る道が確定するまでは慎ましくいきたい。
素材の一つ一つを確認していくと、半分以上はそこここにあるもののようだ。セミン油やオーク油、蜜蝋は買うしかないかな。油を取る方法も分からないし、魔法でできるとしてもセミンの種を集めたり買ったりするよりセミン油を買った方が効率がよさそうだ。オーク油なんて、オーク討伐に行かなきゃならんとか無理。
草や根など自然に生えているものは自力採取を頑張ってみよう。
冒険者ギルドのコルクボードに採取依頼が出ていたから、あそこに行けば分布図なんかの情報が手に入るかな?そこで分からなかったら医薬ギルドか薬種問屋に当たってみるか。
メモ帳とペンが欲しいな。意識を向ければ表示されるとはいえ、中空を眺めて確認するのも傍から見ておかしいだろう。ここで異世界通販!――なんてしたら安全第一が真っ二つだよね、分かってる。この世界の物を使わないといかんですよ。不足している物、必要な物が毎日出てくるなぁ。インベントリがあって助かった。宿暮らしなのに荷物が増え過ぎは困る。
黒曜蛇ちゃん、今日はたぶん町の外に行ってみるよ!付き合ってね。
◇◇◇
「ホリィちゃんったら、本当に調薬したことが無かったのねぇ……」
朝食を取りに来て、またサジさんに会ったのだ。エドさんは依頼を受けて町の外に出ると昨日聞いていたが、サジさんはお仕事はいいのかな?まさか、最初に会った時に「こいつを見ておいてくれ」と言ったエドさんのセリフがまだ実行中なんてことは無いよね?まさかね?
今日は、初調薬挑戦の為に素材収集に行こうと思うと話したら、サジさんに呆れられた。ですよねー。”初調薬”なんて錬金薬師になろうとしていた人間の言う事じゃないですねー。
いや、まだ完全に諦めた訳じゃないよ?取りあえず目立たない薬師になって常識を学んで、物知らずから脱却したら錬金薬師への道も見つかるかもしれないもん。
錬金薬師って、なんかちょっと格好いいからやってみたいし。厨二の病と言わば言え。
「えへへ。大丈夫、何とかなります。で、冒険者ギルドで薬草の分布図とかありませんかね?情報だけでもいいんですけど」
「分布図はどうかしらねぇ。情報はあるでしょうけど、部外者に教えてくれるのかしら?何だったら、冒険者登録してみたらどう?依頼を受けてついでに自分の分も採取してくればいいじゃない。タタラの根やマラン木の皮の採取なんて、それこそ子供がお小遣い稼ぎにやるような依頼ですもの、危険はないでしょうし。私が付いて行ってあげてもいいし」
「いやいや、一人立ちの邪魔しちゃいけないんですよ、サジさん。お気持ちだけありがとう」
やっぱり”私を見ておく”続行中かい。気にしなくていいからお仕事してくださいよ。
「情報を得られるなら嬉しいですけど、採取以外の仕事をする気も無いのに登録なんてしちゃっていいもんですかね?迷惑なんじゃないですか?情報入手は冒険者ギルドじゃなくてもいいんですけど」
「登録料は銀貨五枚。半年に一度依頼を受ければ登録抹消は無いわ。こんなこと言ったら気を悪くするかもしれないけど、薬師としてやっていくまで多少でも稼いだ方がいいんじゃないかしら」
眉をひそめてサジさんが言う。
あー、成程。
調合経験のない成人したての女の子が薬師になるなんて簡単に言うもんだから心配してくれるんだ。サジさん、いい人だなー。会ったばかりの私の心配をしてくれてアドバイスしてくれて。
ギフトの【幸運】っていい人との出会いのことかもしれないなぁ。
エドさんもサジさんもお人好しだ。何の関係も無い子供(に見える私)の世話焼いたって何の得にもならないのにね。
「ありがとう、サジさん。子供がお小遣い稼ぎで出来るような依頼があるなら、私でもやれそうな気がする。冒険者登録してみるよ」
薬師を目指して薬草採取はこれからもするだろうから、一緒に冒険者ギルドの依頼分を取ってくればいいんだもんね。小遣い程度でも日銭を稼げそうなのも嬉しい。中身が減っていく一方のお財布なんて寂しすぎるよー。
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