第33話 私的完璧計画
昨夜はお風呂も堪能できたし、ご飯もしっかり食べた。睡眠もバッチリで便通も良し。窓の外を見ればお天気も上々。今日は町探索日和だー!
あ、あとパジャマを買わなくては。着替えは2着買ったけど、パジャマを買い忘れたので寝るときにパンイチだったのだ。
こうやって不足を補いながらこの世界に馴染めたらいい。
お風呂上がり、鏡に映る美少女を見ることにはまだ慣れなかったけど、それもそのうち気にならなくなるでしょう。
第二界生活3日目。先払いした宿代は一週間分なのでその間にこの町で暮らすかどうかの見極めをしなくては。ここまで付いてきてくれた黒曜蛇ちゃんが、別の町へも付いてきてくれるかどうか分からないので、出来ればこの町に仮住居を決めたいところ。エドさんとサジさんという知己も得たしね。レーグルさんとは、彼の目が覚めるまでは会いたくないけど。
身だしなみを整えて食堂に行くとエドさんとサジさんがいた。
「おはようございます」
「おはよう、ホリィちゃん」
「おう」
席に座るとすぐに宿の娘さんらしきお嬢さんが朝食のプレートを持ってきてくれる。
「今日も美味しそう、ありがとう」
お礼を言うと嬉しそうに会釈をするのが可愛い。12~3歳かな?お家のお手伝いをしていて偉いね。
第二界常識によると、この手の宿は家族経営プラス従業員という形が多いようだ。ご主人が料理して奥さんが掃除や受付などの切り盛りをして、子供たちはお手伝い。それで賄えない部分は従業員を雇う。
年中無休だったら大変そうだ。
「ホリィちゃんは今日はどうするの?」
「魔道具の買い出しだな」
いやいや、エドさんが勝手に決めないで。
「サラクの町を見て回ろうと思ってます。ここで暮らすかどうかは町を知らないと決められないので」
「あら、他所に行くことを考えてるの?」
「別に行く当てがあるわけじゃないんですけどねー。私、郷里とここしか知らないし郷里には絶対に戻れないんです。どこにも帰る場所が無いからどこに行っても同じですし、町の様子を見て暮らしやすそうだったらとりあえずの棲家にしようかと思ってます」
落丁だらけの異世界常識を補完して錬金薬師のスキルで生活費を稼ぎつつ安全第一に暮らすのだ。あ、ここで非常識をあぶり出してから他の町に行くってどうかな。新しい町で常識人としてモブ市民生活をする!おお、なんて素晴らしい計画だ。
何が常識で何が非常識かは暮らしているうちにわかるだろう。
ただ、黒曜蛇ちゃんが付いてきてくれるかどうかだけが不安だ。
非常識をあぶり出さねばならないということは
「サラクでは好き放題していいってことで……」
「おい、何でそうなる」
「え?」
「サラクで好き放題っつーのはどういう事だって聞いてんだよ」
「あれ?声に出してました?」
素晴らしい私的完璧計画を思いついたせいで、ついうっかり心の声が漏れてしまったようだ。気を付けねば。
「エドさん、聞いてくださいよ、私の完璧な計画を!」
サラクで非常識をあぶり出し、別の町で常識人として再出発作戦を胸を張り嬉々として話したら何故かデコピンが来た。か弱い乙女の額にどうしてそんな無遠慮にデコピンかますかな、この人。
「あ、分かった!エドさん、そのデコピン癖のせいで彼女が出来ないんだ!」
サジさんがプッと吹きだした。
そうだよね、暴力ダメ、絶対。地位やらお金やらムキムキマッチョの肉体やら精悍な顔立ちやらがあっても、DVする彼氏なんかやだよねー。彼氏いたことない女が言うなだけど、なでなでだけしてればモテるだろうに。いや、この世界の女性が細マッチョ好きだったり、ワイルド系より洗練されたタイプを求めるとしたら駄目かもしれないな。ご愁傷様です。
「……それは、いま、関係、ねえだろっ!」
あらら、図星?痛いところ突いちゃったかも?ごめんね、つい口から出ちゃった。
「ホリィちゃん、私、エドがデコピンするのなんて他で見たことないわよ。それに、この男は憎たらしいことに凄くモテるの。靡かないのはよっぽど理想が高いのか、他所に男がいるか、どっちかしらねえ?」
サジさんがくすくす笑う。そうか、エドさんはモテるのか、意外に。そういえば冒険者ギルドでそんな話をしている人がいたっけ。そしてデコピンは他所ではしないのか、私限定デコピン、ぜんっぜん嬉しくないぞー。
「あのな、お前が馬鹿な事いったり、アホな事やらかしたりしなきゃ俺だってデコピンかまさねぇ。で、お前が今までやった非常識から考えて、好き放題やらかしたら貴族や豪族、商人や教会から目を付けられる。三顧の礼をもってのお迎えだとしたって逃げられやしねぇぞ?有無を言わさず連れて行かれる可能性の方が高い。
更に、良識ある面々ならまだしも、平民なんざ貴族の役に立つなら使ってやろうとしか考えないような不心得者もいる。血統しか誇るもののないお貴族様ってやつだな。
もっと拙いのは犯罪組織に目を付けられ攫われることだ。お前は人間としてでなく便利な道具として扱われるだろう。そこで成り上がれるだけの器量は今のお前には無い。さあ、どうする?」
こわっ。
好き放題した後の行く末が具体的でこわっ。
「じ……自重、します。なるべく」
「あと、お前がやろうとしている仕事はな、なるだけで目立つ。使い手が少ないって言ったろ?町の片隅で地味におとなしく目立たぬ一般市民ってのは、それだけでもうアウト。やりたいなら、目立つ覚悟が必要だ」
お…おおぅ。それは何となく察してました。魔法わーい錬金薬師ひゃっほーって盛り上がっちゃったけど、冷静に考えれば魔法職ってのはそれだけで他者から際立つよね、そりゃ。
周囲に人がいるからか、錬金薬師だの魔法、魔力という言葉を出さないエドさんの細やかな気遣いが有難い。私もそういう部分で気を回せるようになりたい。いや、ならねば。
今は思ったことが直に口から出てくるもんな。それではイカン。
錬金無しの薬師なら大丈夫かな?いけるかな?
錬金薬師になったらエドさんを優遇する約束はどうしようか。普通のお薬ではダメかな。
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