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第32話 キルタ瓦解

 「あー、えーと、私に洗脳を解く力なんて無いんで、レーグルさんは自力で解いたんじゃないかなーと、そう思うんですよ」


 反射がきっかけになったとしても、それで洗脳が解けるとは思えない。教会のお偉いさんらしいレーグルは時間がかかってもきっと自分で何とかしたんじゃないかな?或いは時間薬でどうにかなったかも。洗脳をかけたサンダリはもうこの世にいないんだし。


 「ホリィ様、どうぞレーグルとお呼びください」


 「レーグルさんこそ、様付けは勘弁してください」


 「では、聖女とお呼びしても?」


 「もっとダメに決まってます!」


 自分を治してくれた(と、思い込んでいる)からって初対面の胡散臭い女を聖女扱いしちゃ駄目でしょう。大体、そんなことは一聖職者が決められることじゃないだろうし。私は安全第一・いのちだいじにモブ市民を全うするんだから!


 「レーグル様、ホリィちゃんは市井で目立たず暮らしていきたいと思っているんです。こんなんだけど、その努力を無にしてはいけないかと……」


 サジさん、フォローなんだかディスってんだか分からないよ!


 「自分を分かっていないわ常識は無いわ考えずに行動するわで色々とやらかしているが、本人はそう思ってるそうだ」


 エドさんはフォローの欠片もないねっ。

 しかし、レーグルは二人の言葉を聞いて頷いてくれた。


 「ホリィさんのご希望でしたら従いましょう。では、キルタの面々なのですが……」


 レーグルはすでに信者の洗脳を解いたと言う。家族のいる子供たちはそこへ戻すが、問題は犯した罪である。幸いなことに、エドさんを刺したことが一番大きな罪で、洗脳されて凶行に走った子どもを罪に問う気は無いと刺された本人が言っている。サンダリがどういう計画を立てていたのかは今となっては知る術とてないが、実際には強請り集りや嫌がらせ程度で、重罪になるようなものはなさそうだ。


 サンダリは結局は小物だったのかもしれない。

 洗脳で周囲に崇められ、小さな犯罪を広範囲でやらせて金を吸い上げ、その金で自分の欲を満たす。


 洗脳時に行った犯罪に対して刑罰はどうなっているかを問うと、責は洗脳した側にあるそうだ。犯行時に洗脳されていたかどうかはどうやって分かるのかな?洗脳後に鑑定をかければ分かるかも?


 「彼らの犯した罪は私のものです。彼らにも彼らの家族にも謝罪いたします。どうか、彼らが元の生活に戻れるように証言していただきたい」


 「レーグルさんも洗脳されていたのに、それは考慮されないんですか?」


 エドさんに訴えると、うーんと考え込んだ後に


 「実際に刑罰を言い渡すのは俺たちの仕事じゃねぇからなぁ。官憲や裁判所がどういう判断を下すんだかは分からん」


 と言った。


 「全ては弟を己一人でどうにかしようとした私の罪です。神妙にお裁きを受けましょう」


 「……あと、ちょっと聞きにくい事なんですけど」


 殺人の罪について聞いてみる。エドさんへの傷害が一番の重罪だとしたら、レーグルの犯行はこの半年に犯したものではない。では、いつ行われたものなのか。それはすでに償ったのか。


 「弟を殺したのは私ですよ?償える罪ではありません」


 そうじゃないかとは思っていた。自分が殺したと思えば【殺人犯】の名がステイタスに付いてしまうのか。


 「でも、レーグル様が手にかけた訳じゃ」


 「いえ、直接手にかけるよりももっと残酷で惨たらしく慈悲の欠片すらない行いでした。この命尽きたとき、地下の獄にとらわれた弟と再会することでしょう。サンダリもそこにいることに間違いないですからね」


 サジさんが庇うもレーグルは己の罪から目を逸らすことなく言う。


 誘拐犯だからキルタトップだからということで心の中で呼び捨てしていたけど、今の姿を見て改め、レーグルさんと呼ぼう。お願いだから目を覚まして、レーグルさん!どうかどうか聖女だのお仕えするだの言わずに放っておいてください。



 ◇◇◇


 「なんか、すっきりしないわぁ」


 レーグルが治安維持詰所に出頭するのに付き添ったあと、3人で宿屋に戻る途中にサジさんが言った。


 「レーグル様は操られていただけだもの。大きな罪にはならないわよね?でも、主犯のサンダリがいない今、キルタは解散、誘拐事件は解決と言われても、なんか、ホント、すっきりしない」


 サジさんにとってはキルタ解体や事件の終息よりもレーグルさんの関与が辛かったんだろうと思う。表情がさえない。お姉さんと仲が良かったようだし、大事な人の心を救ってくれた恩人が、操られていたとはいえ誘拐実行犯でエドさん襲撃犯の黒幕だもんねぇ。


 頭…を撫でるには私の身長が足りないので、肩のあたりをヨシヨシと撫でてみた。


 頭を撫でられるのが気持ちよかったから、サジさんにもしてあげたかったのに。この小さな体が……いや、この世界の人の大きな体が恨めしい。同級生男子諸君は私よりはずっと大きかったけど、一番の高身長でもサジさんくらいだったような。大丈夫かな?


 ギフトで「見た目イケメン」「細マッチョ」「武術に向く体」といった男子の希望は、こちらの世界の基準の体格にもなっているかなぁ。ま、女子と違って男子ならば15~6歳は成長期、きっとこれからも大きくなるでしょう、多分。


 「ありがと、ホリィちゃん」


 サジさんがお返しというように私の頭を撫でてくれた。ああ、やっぱり気持ちいい。猫だったら喉を鳴らすところだ。


 出頭したレーグルさんだけれど、今回の件での聞き取りや捜査がどのくらいかかるのか、判決が出るまでどのくらいなのかを聞いてみると、およそ3ヵ月から半年位だろうとエドさんが答えてくれた。


 それまでに彼の”聖女様熱”が下がっていることを祈る。


 まあ、その頃にも私がここにいる保証はないけどね。キルタの件が早々に片付いたので、明日からは町を見て回って、それからここを仮住居にするかどうかを決定するのだ。


 王都?行く予定はないよー。エドさんにもう一度釘を刺しておかなければ!


 黒曜蛇ちゃん、できれば私とずっと一緒にいてね。私は肩に乗っている初めてのお友達の頭を撫でた。


読んでくださってありがとうございます。

ブクマ・評価もとても嬉しいです。


これからも、読んでいただけるよう頑張ります。

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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
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