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第31話 解けた洗脳

 今、キルタにいるサンダリは本当は双子の兄弟であるレーグルだと言うことが腑に落ちない二人と食堂に戻って昼食を取り、私たちはキルタのアジトへと向かった。黒曜蛇ちゃんも一緒だ。彼女の定位置は私の肩になった気がする。


 「聖女よ、お越しを歓迎いたします」


 サンダリ――レーグルが慇懃に迎えてくれた。隣でサナビが低頭している。二人とも逃げる気は無いんだね。私が証拠を出したって、そこにいなければ捕縛も簡単には出来ないだろうに。

 私たちは昨日の応接室で向かい合って座った。お茶を供されたけれど、誰も手を付けない。


 「先ず、名前を聞いても?」


 エドさんの言葉を聞いてレーグルが目を見張り、私を見た。


 「サンダリだと申し上げても意味が無いようですね。聖女よ、あなたのお力ですか?」


 「聖女じゃないですけど、そうですね、私にはあなたの名前が(鑑定すれば)見えます」


 サジさんが息を呑む気配がした。やっぱりレーグルだと思いたくはなかったか、私の鑑定を信じていなかったか。サナビが平然としているところを見ると、彼女はサンダリを名乗っていたレーグル自身の事を知っていたのかな?


 「それをお伺いしてもよろしいですか?」


 「……私にはあなたの名前はレーグルと見えます」


 聖女……とつぶやくレーグル。どんな能力を持っている人が聖女と呼ばれているのか知らないけど、これはただの”鑑定”です。


 「本当に、レーグル様、なのですね」


 涙目になったサジさん。お姉さんの心を救ってくれたと感謝していた相手が誘拐犯だなんて辛いよね。


 「そのお姿は……」


 「姿替えは、まぁ、私のスキルですね。私を見る者の目にはサンダリが映るような目くらましの術です」


 洗脳ってそういう事も出来るんだ。

 レーグルが術を解いたのだろう。サンダリだった姿が全くの別人になった。中庸だった相貌はイケオジ風に、白髪は明るめの金に。

 変わった姿を見てサジさんが「レーグル様、本当に……」と呟く。


 「レーグル。お前の言う弟ってのが、サンダリで間違いないな?」


 「ええ、聖女に見透かされていては虚言を吐く訳にも参りませぬ。エドヴィリアスタ様におかれてはご健勝のご様子、誠に喜ばしく存じます。――できれば、この件とは無関係でいていただきたかったのですが、頑固さはかわりませんね」


 お、知り合い?


 「レーグルは教会の中でけっこう偉いの。俺も、こう見えても軍でけっこう偉かったの、偉いモン同士ってのは色々と繋がりが出来るんだよ」


 偉い人同士でも、エドさんの方がレーグルより偉いっぽいな。呼び方からして。


 「なるほど。でも、なんで偉い人が私を誘拐すんの?子供たちを洗脳すんの?」


 エドさんとサジさんの話ではいい人っぽかったのに。


 「お恥ずかしい話ですが、私も弟サンダリに洗脳されておりました。いえ、支配されていたと言った方が正しいかもしれません」


 申し訳なさそうにレーグルが言った。


 サンダリの犯罪を知った時、レーグルは官憲に訴えるのではなく自分で弟を説得し、その始末をしようとしたものの弟の抵抗にあったと言う。

 そりゃそうだ。何十年も前に決別した身内の説教で「ごめんなさい、もうしません」なんて犯罪者はそういないだろう。

 レーグルもエドさんと同じく被害者が犯罪者側に付いていることで、被害者救済の手段すらなかった。


 膠着状態が動いたのは半年ほど前。レーグルが唆したキルタと対抗する組織の者の手により重傷を負ったサンダリは兄レーグルに懺悔をしたいと申し出た。

 犯罪者であっても袂を分かっていたとしてもそこは兄弟の情がある。共倒れを狙って姑息な手を使ったという負い目もある。レーグルは弟を犯罪者として訴えることが出来なかった自分を恥じていた。


 レーグルはサンダリの元に駆けつけ、そして見たものは無残な弟の姿。


 満身創痍の弟を見てレーグルは心の均衡を乱した。


 己の取った手段で弟の命の火が尽きようとしている。ここで弟が死んだら、弟を殺したのは自分だ。混乱したその隙にサンダリがスキルを発動させ、レーグルはサンダリの人形となってしまった。

 兄を操り人形としたサンダリはその数日後に儚くなったそうだが、術者が死しても洗脳は解けずに操り手がいなくなった傀儡は術者の意思をトレスしてキルタのトップを務めてしまった。


 「浅慮でした。サンダリをどうにかしたいと思うあまりとはいえ、私はなぜあのような手段を取ってしまったのか。今にして思えば、あの時どうして私は弟を自分の力で止められないと思い込んで他者の手を最悪の形で使ってしまったんでしょう」


 自嘲するサンダリは。それでも穏やかな顔をしている。


 「教会で上手くやれない弟を救えなかったから、じゃないですかね?教会から逃げだす前にどうにかできたんじゃないかとか、逃亡した後でも自分が救えたんじゃないかとか、そんな後悔の気持ちがあったんじゃないですか?」


 「そう…かもしれませんね、聖女」


 「あー、それ止めてください。私は聖女ではなく、目立たず暮らす地味よりの一般市民なので……っ」


 エドさんのデコピン、予想外のタイミングで来たから避けられなかった。何で今!?


 「目立たず暮らす一般市民はあんな事もこんな事もやらかさねぇ」


 やらかしてないよ、そんなには。多分。ちょっとしか。

 ちょっと常識に疎いせいで変わったことをしちゃったかもしれないけど、エドさんサジさんレーグルしか知らないんだから、黙っててくれれば問題ないし。


 「えー、ま、それはそれとして、レーグル…さんは洗脳が解けてるって事なんですよね?」


 おかしいな。レーグルが私を洗脳しようとして私がそれを反射して、それで何故洗脳が解けるのだ。私に傅いていた昨日のレーグルはどう考えても異常だったけど、今のレーグルは普通に見える。


 「レーグルとお呼びください、そして聖女……ホリィ様。罪を償った後、御身に仕えることをお許し下され。罪を犯したこの身、もう聖職者とは名乗れませんが神に身を奉じる気持ちに偽りはございません。私を暗き地の底から救い出してくださった御身を通じ、神へのお勤めを致しましょう」


 いや、やっぱり普通じゃなかった。


 エドさん、サジさん、知り合いなんだから何とかして!



読んでくださってありがとうございます


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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
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