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第21話 少年と少女と幼児と幼女、全て大事

 「ぐえっ」


 ギルドの出口へ向かおうとしたら、また首が締まった。

 振り返るとサジさんが私の襟首を掴んでいる。エドさんにもされたな、これ。この国では人を止めるには襟首を掴んで息も一緒に止めさせろと言う教えでもあるんだろうか。


 「ちょっと待って!分かったから!謝るからっ!ちゃんと説明するから!ここであなたを逃がしたらエドに殺されちゃうわっ」


 あれ、サジさんの口調が……。これが素なのだとしたらオネエさん?


 「あーもう、人の話はちゃんと聞くものよ。エドに()()()趣味はないから!

子どもに弱いって言ったって、女の子だけじゃないのよっ」


 「ええぇ……少年も少女もイケるってこと……」


 「違うからっ!」


 「幼児と幼女……」


 「それも違うっ!どうしてそんな発想になるのっ」


 オネエさん半泣きだ。


 「だって、さっき誰かが女っ気が無いとか言ってましたし」


 誰が言ったんだっけ?とギルド内を見回したら、此方を見ている人が多いことに驚いた。

 ああ、また注目を浴びている。エドさんから離れてもこんな騒ぎを起こしていたら目立って仕方ない。

 視線を集めていることに居心地の悪さを感じ、サジさんの服の裾を掴んでコルクボードのある壁側に寄った。やっぱり依頼ボードだ。どんなものがあるのかなー。

 素材収集依頼、討伐依頼、護衛依頼。ふむふむ、定番だね。

 菓子店の新商品アイディア募集って、これ、冒険者ギルドに依頼する案件かなぁ。

 どぶ攫いのような町の清掃関連はない。これも鉄板だと思っていたのに。


 依頼票をチェックしている私にサジさんが何か言いたげにしているが、構わず依頼内容を見ているとため息をついてから話し始めた。


 「わざと険のある言い方をしたことは謝るわ。でも、本当にエドはよく虫がつくの。そして懲りない男なの。だから近づく子供は見極めたいのよ」


 「私、15歳なんですけど。成人ですけど」


 「子どもは大人ぶりたいのよね、それが勿体ない事だなんて、子供の頃は分からないのよねぇ」


 なぜ信じてくれないのだ。


 サジさんの話によると、エドさんがこの町にやってきたのは4年前でその頃はまだ軍人だったそうだ。町から東へ向かうと海があり、エドさんは海軍に所属。


 「海が近いんですか。じゃ、この町は魚が食べられますね?うわー、ごはんが楽しみです」


 「4年前、この辺りで子攫いが頻発したわ。この地の領主さまだけでなく海軍も捜査に協力してくれた」


 私が茶々を入れても全く気にせずにサジさんは話を続ける。


 攫われたのは5歳から10歳くらいまでの子供で、地域も階級もバラバラで目撃情報もなく、捜査は難航したそうだ。解決までに時間を要したその事件は、海軍の上層部の幾人かが関わっていたと言う。犯罪に組した海軍軍人とその裏にいた組織はとある宗教を妄信しており、攫った子供たちは将来の実戦部隊として洗脳教育をしていたそうだ。


 宗教の実戦部隊ってナニ……?

 布教活動ではないんだろうなぁ。

 あ、なにか記憶に引っかかった。


 「キルタ」


 エドさんが言っていた裏家業団体が確か宗教色が濃い組織だった。

 サジさんは犯罪を犯す宗教団体と捉えているっぽい。どっちも似たようなもの、かな?どうかな?


 「……知ってるの?」


 「エドさんからちらっと聞きました」


 と言うか、その一味と間違われました。


 「そう。エドが軍をやめたのもその事件がきっかけだったんだけど、軍内部の問題より攫われた子供をどうにかしたかったからなのよね。分かるかな?宗教って本人たちが入信していると言えば拉致だの誘拐だのには当たらなくなっちゃうのよ。こっちは子攫いの被害者だと思っていてもね」


 攫われた子供たちはどうやってか短期間に洗脳されたらしく、助けの手を救いと認めず組織に残っているものも多いという。エドさんはその被害者たちを救いたいのだと。

 相手方はそれを十分に認識し、エドさん対策には子供を使っている。

 子供に弱いことを町の浮浪児たちにも付け込まれている。

 それを知ったキルタ以外の裏家業団体も便乗して子供を使いエドさんを陥れようとしている。


 「なんでまたエドさんを狙う人が多いんですか。で、何でまたエドさんは理由が分かっているのに付け込まれているんですか。私の事をお人よしだの警戒心が無いだのとよく言えたもんです。あ、そういえば、私、キルタに間違われてエドさんに追い払われかけましたよ?子供に弱いんじゃなかったんですか――って、私はもう成人していますけど、エドさんはやたらと子ども扱いするんですよ」


 「エドが狙われる理由は、まぁ、色々あるのよ。付け込まれているのはエドが馬鹿だから。で、あなたを追い払おうとしたのは、もしかして体調が万全じゃなかったのかしら?子供を守れる状態じゃなければ保護しないもの。その辺りの判断は冷静に出来る人なの」


 「あー、そういえば……」


 って危ない危ない。怪我していたからヒールかけましたなんて言っちゃうところだった。

 寸前で気が付いた私、偉い。


 「そういえば、何?」


 サジさんがにっこり笑う。


 「お腹が空いていたみたいでした。ので、携行食をお裾分けしました」


 「はぁ?お腹が空いていただけ?んな訳……って、エド、お話終わったの?」


 サジさんの声に振り向けば、エドさんがもう近くまで来ていた。


 「あっ。逃げそびれたじゃないですか、サジさんっ」


 「ちょっと、誤解は解けたでしょう!?」


 「はいっ。幼女趣味だと言うのは間違いだと分かりました!エドさんは少年少女、幼児に幼女あまねく大事なんですよねっ。おおぅっ」


 痛い。デコピン来た。


 「なにを話してんだよ、お前らは。にしてもサジ、いきなり素の顔をみせるのは珍しいな」


 やっぱり素はオネエさんか。


 「この子、おかしいんだもの」


 失礼なオネエさんだ。


 「分かる」


 オジさんも失礼だった。




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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
― 新着の感想 ―
[良い点] フルバの1話を彷彿とさせる展開。 喋らない蛇もグッドです。
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