第2話 異世界移住を希望する?しない?
異世界転移!!
私、堀ゆうきはラノベのようなこの展開に踊り出したい程の歓喜を覚えた。
5歳の時に家族との交わりを諦め、7歳の時に他者とのかかわりを諦め、10歳の時に動植物とのふれあいを諦めた私は、多生の縁が切れるというその言葉だけで第二界とやらへ行こうと決意した。
たとえ、命の保証をされても元の世界へ帰りたいとは思わない。
あ、家族との交わりを諦めたとは言っても、衣食住に不自由を感じることはなかったし勉強や習い事などはおそらく普通よりもさせてもらっていたと思うので、そこは誤解してほしくない。
父も母も兄も妹も、ただ、私が要らなかっただけで暴言や暴力は一切なかった。
優しい言葉も、叱ることも、褒めることも…そもそも必要最低限の連絡や指示以外に私に声をかけることがほぼ無かったのだ。
うん、私はあの世界では要らない子だったね。
第二界とやらでも要らない子かもしれないけどね。
宝くじは買わなきゃ当たらないっていうし、とりあえず行ってみればなんとかなる…かもしれない。
なんともならなかったとしても、要らない子扱いは慣れているからどうってことない。
私はあっさりと第二界への移住の決心を固めたけれど、ほかの人はそうそう即決できる事ではなかったようだ。
「うちに帰りたい……けど、生きられる可能性が1/4って低すぎる」
「異世界でチート生活ひゃっほーしたい。したいけどなぁ。せめて、絶対に生きてないって状況なら開き直れるのに」
「もし死んでたとしても、さっきの話の感じだと来世?輪廻転生?とかでまた家族や友達に会えるんでしょ?」
「そんなの、覚えてなきゃ会えたって分かんないじゃん」
「じゃ、それ要らないって言えるのかよ」
「私、帰る。生き残れることを信じて帰る」
「四人に一人だもんな。生きてる可能性に賭けるのも、それほど分が悪い訳じゃないんじゃないかな」
ほうほう、皆さん今までの生活に未練があるようで羨ましい限りです。
だけど、1/4の確率に賭けるのも怖い。うん、そりゃそうだ。
このバスには30人の生徒と先生一人と運転手さんの計32人が乗っていた。
全員が戻ることを望んだら、単純に考えると8人が生還できる。
ただねぇ……言い回しがちょっと気になったんだよ。
半数はすでに死亡し、残りの半数のさらに半分が瀕死って、命を繋ぐことの出来る1/4だって無傷じゃないでしょ、おそらく。
8人が確実に生還できるとも言ってないし、怪我の状態によっては五体満足とはいかないんじゃないかと、そう思うんですよ。
声だけの人。
嘘は言ってないとしても、丸々信じていいもんかなぁ。
「俺、行くわ。その第二界とかってところ」
そう言ったのは佐伯君。彼はいままで考え込むばかりであまり発言をしていなかったように思う。
「24人もの死者が出るような事故で、生き残りが怪我してないわけないっしょ。奇跡的に軽傷って可能性も無い訳じゃねぇけど、まず重傷で下手したら重体。病院に搬送されて治療してもらってたとしても障害が残るかもしんねぇし手足の一本や二本、無くなってるかもしんない。だったら、新しい体で新しい世界で生きてやる」
あ、私と同じこと考えてたんだ。
だよね、奇跡的に軽傷ってほぼあり得ないからこそ【奇跡的】なんだろうし。
「あ…あー、そっか、そうだよね。命が助かったとしても、状態は分かんない…よねぇ」
「それでもいい。私は帰る。知らない世界に行くくらいなら、もとの世界で死んだほうがマシ」
「死ぬのやだ。死んでなくても状況が怖い。俺も、行こうかなぁ、第二界ってとこ」
「だよなぁ。生きてればそれでOKってわけじゃねぇもん」
移住希望者の方が多い様子。
元の世界に未練はあっても、やっぱり死ぬのも重傷負った体で生きるのもつらいもんね。
「先ず、第二界がどんなところなのか知りたいな、俺は。何も知らない状態で選択できない」
右手を上げそう発言したのは柳君。
これもごもっともだね。
私は元の世界に小指の先ほども未練がなく、柵が切れて新しい人生を歩めるなら第二界だろうが角界だろうが三千世界だろうが構わない(角界はどう考えても無理だけど)。
他の人たちは元の世界に帰りたい気持ちと生存率の低さ、生きていたとしてもその予後の不安に対し、第二界がどんな所かも分からず一から基盤を作っていくことの不安もあるだろう。
情報を得てから天秤にかけたいのは当然か。
絶対に帰りたいという人たちも含め、私以外のみんなが欲しい情報の洗い出しを始めた。
私は隅っこでそれを見ている。
あまりに周りにスルーされるので実は私は幽霊なんじゃないかと思ったことが何度もあるが、必要時には声をかけられるので多分生きてる。
彼らも私の家族と同じで私に悪意があるわけではなく、ただ単に必要時以外には目に入らないだけ。意地悪されたことも苛められたこともない。
ひょっとしたら私はぬらりひょん属性なのかもしれない。
元の世界に戻るか第二界へ旅立つかの二択を迫った声は、あれきり何も話しかけてこないが、質問すれば答えてくれるのかな?
答えを待ってるのだろうから、声をかければ反応はあるか。
さて、彼らの求める情報は
1.第二界とはどんなところか
ずいぶんとざっくりだな。日本との相違点とか聞いた方がよくない?
元の世界だって、国によっていろいろと違うし。
2.なぜ第二界へと招致しようとしているのか、なぜ我々なのか
これは私も知りたい。とんでもない理由じゃない限り行くつもりだけど。
3.行くと決めた全員が同じ場所から始められるか
これ、Yesじゃありませんように。
4.行くと決めた者が元の世界で命を繋いでいる場合、残った体はどうなるのか
あー、そっか。植物状態でずっと入院なんてことになったら家族が困るね。
5.今の時点で死亡したもの、瀕死の者がだれなのかを教えてほしい。生きている者の状態も知りたい。
教えてくれる気があるなら、たぶん最初から言ってるんじゃないかな。
6.戻った者が命を長らえた場合、第二界へ行った者の事を家族に伝えてもよいか。また、移住希望者からの伝言を持って行ってもらうことは可能か。
これもYesじゃありませんように
家族は私からの伝言なんて要らないだろうけれど、無いと体裁が悪いだろう
「先ほどの声の方、私たちの質問に答えていただけませんか?」
中空に向かって声を上げたのは安藤さん。
「第二界へ行くか元の世界に戻るかの判断材料にしたいんです」