第17話 大丈夫、自重します!
「お人よしが過ぎるわ警戒心はねぇわ、それも含めて演技かと思いきや本当にヒールを使いやがる。水と食料を置いていこうとしたのも裏無くやろうとしたんだろ?
で、お兄さんは心配になったの。こんな世間知らずの子供を一人で放置しちゃ早晩攫われるか、それに無駄な抵抗して死体にでもなるかと思うと流石に心が痛む」
「お兄さん?」
「ああ?文句あるか、お兄さんだろうが、俺は」
エドさん、多分三十過ぎだよね。15歳から見たらお兄さんじゃなくておじ……。
「お・に・い・さ・ん」
デコピン食らった。
「って、問題はそこじゃねぇだろう。馬鹿かお前は」
「スミマセン」
お前って言われたよ。馬鹿って言われたよ。エドさんから遠慮がどんどん消えていく。
いや、遠慮は最初からなかったか。扱いがどんどん雑になっているというか。
「だいたいその顔だけだってあくどい奴に攫われる理由には十分だっていうのに、その上治癒魔法とか、なのに本人は自覚無しっつー怖い状態」
その顔ってどの顔?
私の顔なら、この世界で浮かないように同世代の平均になってる筈。
まだ見てないけど。
だよね、エムダさん?
それにしても治癒魔法レベル1のヒールがそこまでレアだとは思わなかった。今後、キュアとかリカバーとかやれば出来そうな気がするけど、きっとそれもマズイんだろう。
水とか火とかは大丈夫なんだろうか。エムダさんは『あれば便利』くらいに言ってたから大丈夫だと思いたい。
習得してないけど、風と土属性も使おうと思えば使える。多属性の魔法を使うのは大丈夫だろうか。
魔法のある世界だけど、さすがに異世界通販とかガチャはまずいと思っていた。その程度の認識だったのに、ヒールでこれじゃ魔法に関してはもっと世情を知ってからじゃないと使うべきではないのかもしれない。
あ、でも、鑑定眼と錬金術は錬金薬師なら普通だよね?
第二界常識はこと魔法に関しては信用ならなくて怖いぞ。
「ホリィ……。お前さん、まだ何かあるんだな。いや、言わなくていい。ったく、どんだけトラブルの元を持ってんだ、お前は」
「濡れ衣です。私のモットーは【安全第一】【いのちだいじに】なので、平和に街の片隅でひっそりと生きていくんです」
「やっぱ、お前バカだろ。そういうモットーがあるなら、俺にヒールなんぞ使ってんじゃねぇっ!」
「うおぅっ」
デコピン、さっきより強いよ。痛いじゃないか。
「痛ぇなら自分にヒールでもかけとけ」
「なるほど、ヒール!」
痛みが無くなった!便利だな、やっぱり。
そう思ったらデコピンが3連発で来た。
「自重しろっ!」
「ヒールかけろって言ったのエドさんなのに酷いっ」
「ホントにかけるとは思わなかったんだよっ。なにが”平和に街の片隅でひっそり”だ。その積りがあるんなら、人前で魔法を使うんじゃねぇっ」
だって、エドさんはもう知ってるんだしさぁ…。そう思ったけど、さらなるデコピンが来そうだから黙っておく。
「あんまり聞きたくはないが聞いておく。ソイツは従魔か?」
エドさんが黒曜蛇ちゃんを指す。
チロチロと舌を出して、私の腕にすり寄っている姿が可愛い。
従魔?ってアレだよね。テイマーが従えた魔獣。
私はテイマースキルは習得していないので首を横に振る。
「いえ、この子はこの森で会いました。なんか懐いてくれたんですよー、黒曜蛇って初めて会いましたけど、人懐こくて可愛いですね」
最初の子とは違う子かもしれないけど、そう言っておく。
人差し指で黒曜蛇ちゃんを撫でると、今度は指に舌を這わせてきた。
「魔獣は人に懐かない」
「あ、やっぱりこの子、魔獣ですか。MPがあるからそうなのかなーとは思ってたんです」
エドさんはまたも長い溜息をつく。
知らないままに色々とやらかしていた私を心配してくれて有難いけど、このまま一緒にいるとエドさんは心労で禿げるんじゃないだろうか。
鬣のようなその髪が抜けて行ったら残念だし、やはりここら辺でお別れするべきじゃないかな。
世話焼きっぽいエドさんは私に関わっていたら心の休まる暇が無くなりそうだ。
いや、やらかすつもりは全くないんだけど。
私としては揉め事は全力回避のつもりなんだけど。
こんな事態に陥ってるのはなにもかもエムダさんのせいだ。
自分でも納得してギフトを貰ったけど、こんなてんこ盛りは拒否したかった。それでも、習得を強制されたわけじゃないんだから、恨むのはお門違いだと分かっちゃいるけどっ。分かっちゃいるけどねっ。
「鑑定も持ってるんだな」
「えっ、何故それを!」
実はエドさんは読心術の使い手だったり?
「初めて見た生き物の種族名が分かって、MPがあることを看破しておいてそれはねぇだろうよ。ってか、隠しているつもりだったのかよ」
おー、成程。
会話スキルって大事だなー。
「いえいえ、隠すつもりはなかったんですよ。言ってないのに見破ったエドさんが凄いなぁとおもいまして。私、鑑定と錬金術を持っているから錬金薬師になるつもりなんです」
もう、ここまでバレバレなので告白した。
これで、錬金薬師を目指す私を無謀だとは思わずに納得してくれる筈。
あとは町の方向を聞いてお別れだ。あ、でもその前に。
「エドさん、何なら食べられます?パスタやスープはどうでしょうか。ご飯の方がいいです?」
「あ?」
「ほら、携帯食ですよ。シチューが嫌そうだったから、なにか他のものを。で、見返りに町の方向を教えてください。もう、私が錬金薬師を目指すことは納得してくれたでしょう?
大丈夫。これからは見ず知らずの人にヒールを使ったりしません。警戒心もちゃんと持ちますから安心してください」
自信満々に胸を張って言う。
「あ、ひとつ質問いいですか?この子を町に連れて行っちゃ拙いですかねぇ?こんなに慣れてくれているし、従魔かと聞くってことは、町に魔獣が入ること自体はダメじゃないんですよね?故郷を出て初めて出会った子なので、もしもこの子が来てくれるなら一緒にいたいなぁなんて……エドさん、どうしました?」
「お……お前はバカか――っ」
怒鳴られた。
ギブ&テイクの要求なのに理不尽だ。
会話って難しい。




