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第15話 初めてのヒール

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ブクマが30を超えました

読んでいただけて、本当に嬉しいです

 男は大きなため息をついた後、また首を振った。


「お嬢ちゃんに警戒心を持たせることは難しいと分かった」


 いやいや、こんなに親身にアドバイスしてくれる人を警戒しろと言われても無理です。

 最初は怖かったけど、いい人だよね、この人。


 男は大儀そうに傍にある高さ10cm位の円筒形をした道具に手を伸ばし、側面にある光る石を半周回した。すると光が消えてただの水色の石になった。これが障壁の魔道具かな?


 ほうほう、あの石がスイッチなんだね。

 …って、障壁解除した?

 いいの?


「先ほどは厚意を無碍にして悪かった。ヒールをかけてもらえるだろうか?」


 ええ?何故こんなに急に信頼されたんだろう。

 ギブ&テイクの精神からか?

 私には警戒しろとしつこく言うくせに、私のことを警戒しなくていいんだろうか。


 私は私に害意がなく純粋にヒールをかけるつもりでいることを知っているから問題ないけど、この人こそ警戒心を持った方がいいのでは?


 ああ、それよりも深刻な問題があった。

 私、本当にヒールを使えるだろうか。


 ここまでの問答の後に私のヒールが発動しなかったら、せっかくの信頼がパーになってしまうじゃないか。治るかな、治せるかな……?

 ええい、ままよ。


「ヒール」


 唱えてみた。


 今度は遠くまで飛ばす必要はないので、手の平を相手に向けてみた。

 でも、何故か出てくるのはシャボン玉。

 おかしいな、魔法はイメージが大事なんだよね?私、シャボン玉をイメージした覚えはないんだけどな。


 目の前の男もびっくりしている。

 うすうす思ってはいたけど、ヒールってやっぱりシャボン玉じゃないんだ。

 これ、本当にただのシャボン玉だったらどうしよう。


 真っすぐ飛んで行ったシャボン玉は男にぶつかると、障壁の時のように弾けるのではなく全身を覆う膜となって滲みこんでいったように見えた。


「おお……すげぇな。本当にヒールだ」


 何故かため息をついて男は言う。


「ヒールをかけてもらったことは何度かあるが、こんなに抵抗のない回復は経験したことがねぇ」


 へぇ、そうなんだ。ヒールをかけられるってどういう感じなんだろう――って、それよりも!

 ヒール成功したよー!やった!黒曜蛇ちゃん、褒めて!


「それに、水の玉みてぇなヒールも初めて見た。お嬢ちゃんのヒールは変わってるな。回復してくれてありがとう。痛みも傷もすっかりなくなった」


 怪我のあった部分を確認しながら男が言う。


「俺はエドヴィリアスタ。エドでいい」


「どういたしまして。私は堀……」


 ああっ

 偽名を考えてなかった。名前の変更を推奨されてたのに。


「ホリィ、最初は本当にすまなかった。で、村か町までの案内、だな?」


 ホリィ、うん、それでいいか。

 将来”若気の至り”を悔やむような名前を自分で付けるよりも、こうして偶発的についちゃった名前の方がいい。


 名前ってそもそも自分でつけられるものじゃないし。


 堀が自分の名前だと認識しているんだから、全く違う名前を付けて呼ばれても反応できないなんて事態は避けたい。


「案内じゃなくて、方向さえ教えてもらえたら自分で行きます。怪我が治ったとはいえ、出血も多かったしエドさんは休まないと……あ、ごはん!ごはん食べたほうがいいです。体力を回復させなきゃ」


 私はエプロンドレスのポケットから出すふりをしてインベントリから携行食とタンブラーを出した。

 マジックボックスだってレアだというのだから偽装しなくては。


 幸いな事に魔道具技術が発展しており、バッグや服のポケットの空間拡張が出来ることを第二界(オルダ)常識によって私は知っている。いわゆるマジックバッグってやつだね。

 賢さが上がった(筈の)私に隙は無いのだ。


 私が出した携行食と私の顔とを交互に見て、エドさんがまたもため息をついた。

 ん?シチュー嫌いだった?違うもの出そうか?


「で、ホリィはどこのお屋敷から抜け出してきたお嬢様なんだ?理由は知らんがお前さんのような若くて可愛い娘さんが一人歩きなんぞするもんじゃねぇぞ?世の中には悪い奴がいっぱいいるんだ」


 さらっと可愛いって言ったぞ!ここの人はイタリア男気質なんだろうか。


「お嬢様でもないし屋敷に住んでいたことも無いです。ここからはずいぶん遠い田舎育ちなんですが、村が魔獣の被害に遭いまして、村の仲間と15人で脱出して、その仲間ともバラバラになって」


 とりあえずエムダさんの作った設定で話してみた。

 村が魔獣襲来で壊滅的な被害が出た為に脱出。落ち人で作られた村で中央に知られておらず、僻地で超田舎から出てきた者だから、常識はずれな事しても悪気じゃないの、ゴメンねって感じで。


「それ無理があるぞ。その超田舎からやってきたばかりにしては小ざっぱりし過ぎてるし、外と交わらない村出身にしては服が立派過ぎる。町娘の形だろうが素材はかなり良さそうだ。加えてマジックポケット付きの服だなんて幾らするんだ。羽振りのいい商人かお貴族様、じゃなきゃ魔法士とかな。とにかく金持ちでないと無理がある」


 あれ?

 マジックバッグは()()なんだよね?

 魔道具は発展しているってことだよね?

 もしかしてこれもレアなのか。


 エムダさんっ。第二界(オルダ)常識でそんな情報なかったよ!貰った常識に穴があるよ!


 魔道具発展=普及ではないのか。


 小ざっぱりの理由はどうしよう、それと服が立派か……、こっちで浮かない服の筈なんだけど。


「言いたくない事は言わんでいいぞ?」


 黙ってしまった私にエドさんが言う。


「ただ、嘘は上手くつかないと自分で自分をおいつめるからな?で、ホリィは嘘が上手くないと見た。だったら、言いたくない事は誤魔化すんじゃなく無言で通した方がマシじゃねぇかな」


 ご尤もです。

 嘘をつく機会なんてなかったしね。

 ああ、さっき賢さが上がったと思ったのは間違いだったか、あるいは上がってもこれか。


「……ハイ。あの、言えない事情はあるんですが、私に家族は本当にいません。血縁は一人もいないんです。お嬢様でもないです。服は貰いものなので価値を知りませんでした」


 本当はマジックポケットじゃなくてインベントリだけど、その方がもっとマズイことは分かる。


 ……貰った常識が本当にこちらの常識とマッチしているかも不安だ。

 エムダさんちょっと変わった人だったし。


 誰か、私に本当の一般常識を下さいっ。


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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
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