第12話 スキル習得
本日2度目の投稿です
私は、ひとしきり黒曜蛇に愚痴を言ったあと、気持ちを切り替えてスキルの確認をしようと立ち上がった。
黒曜蛇ちゃんには本当に申し訳ない。
花の蜜か果物を探して捧げ奉るべきか。携行食に入っていたドライフルーツじゃダメかな?
「チートもりもりは嫌だからと言って、習得可能スキルにある隠蔽と偽装は必要だよね」
どうやって習得するのか分からないけど。
インベントリ持ちで山ほどの習得可能スキルがある私には隠蔽と偽装は絶対に必要だ。
あと、特記と称号も隠したい。
鑑定眼もレアなスキルだと第二界常識で分かったけれど、魔法を使える人間が1/10しかいないこの世界では、魔獣の核である魔石を使った魔道具が発達しているらしい。
鑑定の魔道具は大都市の出入りやギルドの登録、教会での洗礼、裁判、貴族が修練の方向性をつかむ為などで使われる。
都市の出入りやギルドの登録ではスキルまでは見えない簡易型の物が使われており、裁判ではややレベルの高い物、貴族はスキル鑑定が特に優れている道具を使うようだ。
全方向に高レベルの鑑定が出来る道具はそれほど数がなく、教会の本部や国の中枢などにあるだけらしい。
一般庶民が高レベルの鑑定を受けることはまずないが、念のために隠蔽と偽装はしておくべきだと思う。
あー、こういうのが面倒だから嫌だって言ったんだよ。
スキルがあるだけで何の実績もないけどさ。
高い能力を持った世間知らずの小娘なんて、庶民を人とも思わない貴族とか悪事に従事している危ない集団とかに捕まってしまうじゃないか、ラノベの中では。
イケメンヒーローが助けに来てくれる展開は、魅了魔法が欲しいと言った同級生(けど貰えなかった)なら喜ぶかもしれないが私には不要だ。イケメンヒーローが助けに来てくれるかどうか分からないし、そもそも実在するかどうかも怪しいが。
ノーフラグ!ノーイベント!
「調薬魔法と治癒魔法もあったほうがいいか。あと、火魔法・水魔法。電気もガスも水道もないもんね。魔法じゃない調薬スキルも必要?身を守るための結界スキルと方向感覚に自信がないから自動マップと、清浄も欲しいかなぁ…………って、スキル不要だと言ったくせにこんなにもりもりと習得する気満々の自分が恥ずかしい―――っ」
思わず顔を覆って蹲ってしまう。
あー恥ずかしい。エムダさんに指摘された傲慢な自分を思い出して恥ずか死ぬ。
黒歴史として何年後でも身悶える自信がある。
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい……
「ありがとね、黒曜蛇ちゃん」
突然取り乱した私を慰めるかのように舌で足首のあたりを舐めてくれた蛇にお礼を言う。
「うん、大丈夫。恥ずか死んでる場合じゃないよね。替えの下着も無い状況で森の中でお泊り出来ないんだから、さっさとスキル習得するよ」
お風呂は毎日入りたい。下着を含む着替えは毎日したい。
何日か森に泊まり込む気だったけど、路線変更だ。そもそも、何も持っていない状況で、私はどうやって野営をする気だったんだ。
第二界のお風呂事情は国により地方により違うようだ。
これは地球でも一緒か。
出来れば日本に近い衛生観念がある清潔な地域だといいなぁ。
さて、スキル習得の方法は、と。
再度自分に鑑定をかけ、習得可能スキルをチェックしてみる。
【火魔法】に意識を集中してみると文字が点滅して、脳内に「このスキルを習得しますか?」とメッセージが流れた。
「うおっ。キモイっ、なにこれっ」
全身にサブイボたったよ。背筋がゾワゾワするよ。
”こいつ、直接脳内に……”なんて言う余裕もないよ。
脳内メッセージに応えを返さずにいたら、【火魔法】の文字点滅が止まった。
「おおぅ。あそこで”します”と答えていたら魔法が習得出来たのか、おそらく」
魔法の素養がある人は全体の3割、魔法を使える人は1割ってことだったけど、鑑定眼があるか鑑定道具でスキルを確認するかしないと習得できないのだろうか。
第二界常識で魔法使いのほとんどは貴族だってことだったけど、理由はこれか。
庶民が高レベルの鑑定道具を使う機会があれば、魔法使いはもっと増えるんだろうな。
やり方が分かったところで、私はゾワゾワに耐えて必要と思われるスキルを習得した。
セルフ鑑定でスキル欄に習得したそれらが追加されたことを確認する。
「魔法はイメージが大事、多分。異世界あるあるで漫画・アニメ・ラノベ・ゲーム好きの日本人は魔法を使うイメージが作りやすい…筈、多分」
ファイア?発火?灯火?そのまんま火?詠唱いる?無詠唱で行ける?
いや、森の中で火魔法とかやばいか。まずは水にしよう。
両掌を上に向けお椀型にして取りあえず「水」と唱えてみたら、手の平一杯の水が湧いて出た。
「おおぉ」
初魔法だ!
私、魔法使えた!すごいな、異世界。
「飲んで大丈夫なのかな、これ。えーと、鑑定」
―水―
美味しい水
飲用
美味しい水と出たので早速口を付けてみる。
うん、本当に美味しい。嬉しい。
「黒曜蛇ちゃん、私、魔法使えたよー。凄い?ねえ、凄い?」
よし、次は隠蔽と偽装だ。
― 堀ゆうき (名前変更推奨)―
人間
年齢 : 15
性別 : 女
職業 :
Lv : 1
HP : 500/500
MP : 620/620
スキル
【鑑定(Lv3)】【錬金術(Lv3)】
【調薬魔法(Lv1)】【治癒魔法(Lv1)】
【火魔法(Lv1)】【水魔法(Lv1)】
【清浄(Lv1)】【探知(Lv1)】
―――――
シンプルになった。よしよし。
第二界常識によると、成人したての若年層のHPは300~1000と幅広い。真ん中よりやや下くらいでいいだろう。
魔法を使う職に就いている人のMPの下限は150くらいだが、上は数千とも万単位だとも言われていて、はっきりしない。
これは、私が貰った第二界常識が庶民のもので、魔法職はほぼ貴族の物だからだろう。
庶民常識で分からないと言えば、魔獣知識もほぼ無い。
魔力を持つ獣が魔獣と言うくらいで、黒曜蛇という名前も鑑定しなければわからなかったし、この子が魔獣かどうかの判断もつかない。
庶民の知っている魔獣は肉屋や装飾品店、武器・防具屋の店先に並んでいるもので、こんなちっこい蛇はそのどこにも並ばないからだ。
MPにつけた数字は適当で、下限では職に就くときに不自由するかもしれないということ、MP量が多い人の数値は数千はあるようなので、庶民の私の数値としてはちょっと高めかな?位の数字にしたつもりだ。
偽装前の5000などという埒外の数字は、なかったことにしたいと切実に思っている。
職に関するスキルのLv3は、一人前の目安だ。
Lv1は見習い程度、Lv2で駆け出しの新人、Lv3で一人前。
ちなみにLv10がマックスだという。
鑑定レベルが一人前の値を持っていると、規模の大きい商館や商業ギルド、冒険者ギルドなどでも職を得ることが出来るようだが、そういうところは人との関わり方が分からない私が選ぶべきところじゃない。
錬金薬師として、ひっそりと作業場を持ちそこで薬を作りそれを売って糧を得よう。
どうやって作業場を持つか、どうやって売るのかは町で暮らしているうちに見えてくる――と思いたい。正直、今は全く見通しがつかない。
幸い、お金は結構あるしね。
さあ、どこにあるか分からないけど町に行こう!




