第110話 エドの謝罪
いつもの時間に予約したつもりだったのですが、予約投稿時間を間違えました><
さてと、次はエドさん達だ。
堀一家に別れを告げた後、私はエドさん達がいる部屋に向かう。きっと彼らはやきもきしているだろう。
ノックすると、いくらも待たずにドアを内側から開けられた。ドアノブを持ったままのサジさんが困ったような笑顔で招き入れてくれる。
「お待たせしちゃってすみません」
「いいのよ。あちらは大丈夫だった?」
「はい、ちゃんと説明して分かってもらえました。お互いに元気でやろうねって事でお別れも言ってきました」
「そう……。ホリィちゃんが満足のいく結果なら良かったわ。――今、お茶を淹れるわね」
部屋の中にはエドさんとサジさんだけだった。レーグルさんとサライさんは遠慮したのか、彼らが人払いしたのか。
「エドさん、その服はどうしたんです?」
騎士服は似合うけど。
以前は当たり前だった気安い声かけに、エドさんは少しほっとしたように笑った。さっきはいきなり怒鳴りつけてしまったから気まずいかと思ったけど、話し始めれば何とかなるもののようだ。
「陛下のお声掛かりだからな。いつもの格好じゃ様にならねーってことで貸し出された」
「そうなんです?冒険者をやめて騎士様になったのかと」
「ねーよ、これは借り着だ」
一国の正式な騎士服を冒険者に貸し出しってありなの?国王陛下がする事だからって問題だと思うけどなぁ。
「レーグルさんとサライさんは?」
「これから話をする事考えたらちょっとな。それに、お前を探すために連れて来たのに、サライは見つけたお前を俺たちに報告する素振りが無かった。お前が声を上げなきゃ、情けない事に俺はお前に気付けなかった」
「あー、なるほど。サライさんが私側に付いちゃってるのが気に入らなかったんだ」
それは仕方ない。だって、私はサライさんにとって”聖女”だからね。いや、自分で自分の事を聖女だなんて思って無いです、勿論。聖女はサンストーンにいる安藤さんにお任せだ。
「お茶をどうぞ?」
「ありがとうございます、サジさん」
そういえば、さっきはお茶の用意をしなかったな。堀一家が言いだせるわけはないんだから、私が気をまわせばよかった。冷静なつもりだったけど、テンパってたのかも、私。
「さっきも言ったが、すまなかった」
膝に手を置いた状態で、テーブルに頭が付くかと思うほど深くエドさんが頭を下げた。
「お前が兄上と結婚すれば、本当に家族になれると思った」
「……は?」
「いつか、どこの馬の骨とも知れない男と結婚して離れて行ってしまうのが嫌だった」
エドさん、何を言ってるの?
結婚どころか男の影も無かったですけど、私。
「お前には通して無かったけどよ、縁談が山のように来てる」
「えん……だん……」
それはアレか、見合いとかそういうのか。
「こっちで勝手に潰してたのも、お前の気持ちを無視してることになったよな。それもスマン」
「いえいえ、見ず知らずの人からの縁談は潰してもらえてラッキーでしたけど、本当に私に?」
こちとら引き籠り系薬師だというのにどこから縁談なんてやって来るんだ。
「アズーロ商会の関係者からも王宮からも来てるし、町でお前を見かけて素性も知らずに家に突撃してきた男もいる」
王宮なんて、陛下の調薬仕事のあとは足を踏み入れたことも無いですけど!?アズーロ商会だったらシオンさんとローマンさん?街で見かけて家に突撃って、初耳だし!
「俺はお前がそいつらの中の誰かの手を取るのが嫌だった。でも、それは、俺の身勝手な要望でお前の気持ちを考えてなかった。本当に済まなかった」
頭を下げたままのエドさんの言葉を聞いたけど、なんじゃ、その理由は!?訳わからんぞ?私がオカン設定をつけたせいで、本当に親の気持ちになっちゃったんだろうか。娘が自分で選んで、もしも遠くに嫁いでしまったら嫌だから、近場で自分の選んだ男と結婚してほしかったとか、そういう理由だったの?
「そんなバカな理由だったんですか……」
「スマン」
「エド、そんなに離れてほしくなかったんなら、自分で求婚すればよかったのに」
サジさんが言う。確かに、お兄ちゃんを斡旋するくらいなら……いや、無いな。エドさんと色恋の関係になることは無い。
「なるほど……って、いや、それは無い」
やっと顔を上げたエドさんもきっぱりと言う。
そうなんだよねぇ。私たちの間にそういう感情は全くない。それはサジさんとだって同じだ。
「兄上がダメならサジでもいいとも思ってる」
「あら、私がホリィちゃんを射止めたら、エドに邪魔されないように遠くに攫っちゃうわよ?」
「却下だ」
そんな気は全く無いくせにサジさんが言う。エドさんも真面目に答えないように。
「もう、お前の気持ちを無視したりしないと誓う。だから王都に戻ってきてくれ」
「いや、それは無理」
「無理って……」
私が間髪入れずに拒否したことがショックなのか、エドさんが口ごもる。
「兄上の事なら――」
「いえ、そうじゃなくて、あ、いやそれもありますけど、私はアイオライトに戻る気は今のところは無いです。探してくれたのに申し訳ないけど、陛下にもそうお伝えください」
「じゃ、やっぱり俺のせいか?許せねーか?」
エドさんがしょぼんとしちゃったよ。
「許せるとか許せないとかじゃなくてですね……」
なんて言ったら分かってもらえるかな、この過保護なオカンに。
「初心に戻ろうと思います。オルダにやってきた時に考えていたように、食いっぱぐれの無い職っていうのは薬師としてやっていけそうですし、常識も覚えましたし、この世界で生きていくことは、もう大丈夫だと思うんです」
「それが王都に戻らない理由になるか?」
「なりますね。私はもうあそこじゃ一般市民は出来ないですし」
「じゃ、俺も王都を……っつーか、アイオライトを出るわ。で、お前と一緒に行く」
「なんで!?」
なんでエドさんがアイオライトを出るの!?付いてくるとか馬鹿じゃないの。
「俺たちが家族だからだ」
「馬鹿なの?」
「……」
おっと、直球が過ぎたようだ。
「ごめんね、エドさん。私がエドさんをオカン扱いしたせいで、エドさんは私の保護者になっちゃったよね。でも、思い出してほしいんだけど、堀一家にエドさんはなんて言った?辛い思いを抱えていた私を理解しようとしなかったとあの人たちを責めて、赤の他人だと言ったよ?その辺の事はどう思ってるのかな?」
実際には赤の他人だと言い出したのは堀一家の方だが、それはまぁどうでもいい。
「……スマン」
頂いた感想でぼっこぼこのエドさんですが、更に皆様に嫌われる予感……