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第11話 持ち物を確認しよう

叫んでも現実は変わらない。

ぼやいても愚痴ってもどうにもならない。


分かっちゃいるけどさー。

ここには私と黒曜蛇しかいないのだから届かない文句を垂れ流すくらいは許してもらいたい。


「ねぇ、黒曜蛇ちゃん。私、言ったんだよ?何回も何回も言ったよ?

分不相応なギフトは要らないって。あ、いや、ギフト自体はね、有難かった、うん。

でもさ、私はちっちゃい人間で、対人スキルも社会経験も自慢できるような才能や特技も無くて、それなのにこんなに大きな荷物背負わされたら潰れちゃうよ、ホント。

黒曜蛇ちゃんもそう思うでしょ?人間には分ってもんがあるんだよ。ちっちゃい人間はちっちゃいなりに生きていくんだよ。

そりゃ、まだ15歳だからさ、伸びしろがないとは言わない。あると思いたい。けどね……」


ペタリと座り込んで小さな蛇に愚痴を言う姿は見られたもんじゃないだろうが、だれも見ていないから良し。

しかし、この子は優しいな。会ったばかりの私の愚痴に付き合ってくれるだなんて。本当に魔獣なんだろうか。甘いもの好きのようだし、魔獣と言っても一括りに人を襲うもの認定しなくてもいいのかな?


「黒曜蛇ちゃんだって体ちっこいもん。重いモノ乗せられたらいやだよねぇ。ところで黒曜蛇ちゃんはここで何してたの?何処かへ行く途中?帰る途中?ごめんね、愚痴に付き合わせて」


ウダウダ言ってても仕方ない。現実を見よう。

見たくないけど。


あー、アイテムボックスはレアだって言ってたよねぇ。

インベントリなんて、世界で3人しか持ってないとも聞いた。


そのインベントリが何で私のスキルに入ってるのかなー。はははっ。は…ははは……。


「インベントリ」

諦めて唱える。


―インベントリ―

・携行食 ×15

・蓋つきタンブラー

・財布

・身分証明書

・手紙


取りあえず全部を出してみる。

携行食は干し肉や堅パンかと思いきや――異世界あるあるだよね?――”お湯または水で戻す”と表記のあるフリーズドライフードが主だった。

紙で個包装されており、シチュー・カツの卵とじ・パスタ・スープ、唐揚げ・炊き込みご飯などなど、あ、カレーもある。

結構においの強いものも多いんだけど、匂いで危険生物が寄って来るとかないんだろうか。


あ、日本食無双予定の人いたけど、大丈夫かな?

これらの携行食を見て心が折れないといいけども。


シリアルバーやドライフルーツ、ナッツやチーズ、チョコバーもある。


携行食でこれなんだから、第二界(オルダ)の食文化に希望が持てそうだ。


蓋つきタンブラーには水が入っていた。

説明書によるとこれは魔道具で、蓋の中央に填め込んである魔石の力で常に水が供給されるらしい。

飲料に関しては水場を探す必要はなさそうだ。


手を洗ったり洗濯したりお風呂……は無理でもせめて行水くらいはしたいから川か池が近くにあるとありがたい。


あ、着替えがない。


早めに買い物が出来るような町に出なきゃならないな。3~4日は能力の確認に費やしたかったんだけど。


財布。

金貨10枚、小金貨10枚、銀貨10枚、小銀貨10枚、銅貨10枚、小銅貨10枚。


管理者さんは一月暮らせるくらいのお金って言ってたけど、第二界(オルダ)常識では【夫婦と子供二人の庶民の生活費――小金貨8枚/月】ってなってるよ?

どの階級の一か月分の生活費だ。

多い分にはありがたいし、着の身着のままだから揃えるものもあれば宿代だってかかるから助かるけど。


身分証明書は名前、生年月日、性別、職業、出身地と賞罰歴が書かれている7cm×10cmくらいのカードだ。



手紙……は見なかったことにしてインベントリに戻したい。

が、それは悪手であろうとも思う。


有益なことが書いてあるかもしれないよね。もう、これ以上メンタルを削る方向の内容じゃないかもしれないもんね。

封を開け、一枚の紙を取り出して読む。


◇◇◇


第二界への移住を希望してくださってありがとうございます。

管理するものの一員としてたいへん喜ばしく思います。


私共は界の管理をしておりますが、それ即ち個人の管理ではございません。

移住後は手助けすることはもとよりお目にかかることもありません。


皆様方が第二界でどのように過ごされるのかは全くの自由で、当方からの干渉は一切ございません。

ギフトを使うも使わぬも、第二界の人々に交わるも個を貫くも全てお任せいたします。


ただ留意していただきたいこととして、第二界の住民には界渡りについての知識がございません。そのため、異世界からの来訪であることをみだりに明かしますと煩わしいこととなる可能性がございます。

この件に関しては慎重になされますようお願い致します。


尚、この手紙は第二界時間で5日後に消滅いたします。


皆様が第二界の生活を享受されます事をお祈り申し上げます。


◇◇◇


「普通のあいさつ文だった。この文面だと、みんなが貰ったんだね」


気負うことなかったな。要は”好きに生きていいよ、ただし別の界から来たことは人に言っちゃダメだよ”ってことね、うんうん。了解です。


5日後には消えるらしい手紙を封筒に戻そうとした時に、封筒の内側に走り書きがあることに気が付いた。



◇◇◇


ナートゥーラの申し子ちゃんへ


「ギフト要らない」ってあれよね?「押すなよ、絶対押すなよ」ってヤツよね?

ご希望にお応えして、ギフトてんこ盛りにしてあげたからね

楽しい第二界生活を!


第二界管理者エムダ


◇◇◇



違う……「絶対押すなよ」じゃない。そもそも何故そんなことを知っているんだ。


脱力した私は、またしても黒曜蛇に愚痴を聞いてもらったのだった。


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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
― 新着の感想 ―
良くしてもらって愚痴ばかり言うなよ、と思う。よくして貰わなかったら、遠くない時期に野垂れ死になっていたくせに、と思うよ。
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