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第108話 お前が言うな

 ギルドで仕入れた情報の相手は茉莉花だと分かったんだから、エドさんたち、早く帰ってくれないかな。


 「親しくも無い赤の他人がなぜ喜んであなた方を受け入れると?」

 あー、まだ終わらないのか。


 「い、いえ。――ジャスミン、馬鹿な事を言うのはやめなさい」

 「えー、だってもうこんな生活やだもん」

 頬を膨らませる妹。堀一家の中で一番元気そうに見えるけど、あちこちを転々としているようだし、やはり疲れているのかもしれない。


 「こっちに来たら、魔法でチートで冒険でモテモテでイケメンとロマンスで目茶目茶楽しい筈だったのに、魔法は上手く使えないしガチャはショボいし、冒険者ってお仕事は詰まんないしキツイし汚いし、美少女になってモテる筈だったのにお父さんのせいでダメになっちゃったし、イケメンとの出会いもないし……」

 鬱憤がたまっているご様子。しかし、随分大きな夢を見ていたんだねぇ。こっちに来た時はまだ11歳だったのに、イケメンとロマンスって……。


 【安全第一】【いのちだいじに】をスローガンとしている私が、随分と枯れた人間に思えてしまうではないか。イケメン王子の求婚でロマンスを感じずにストーカー怖いとしか思わず逃げてきた私は、実際に枯れているのかもしれないが。


 エムダさんからの要望は「この世界で生きる事」であり「何をしても、何もしなくても自由」だから、ロマンスを求める妹も安全第一を求める私も間違ってはいない筈だ、うん。


 「もし、本当に探されているのがお姉ちゃんならズルい。私たちがこんなに大変なのに、自分だけ王様に感謝されて王子様にプロポーズされて。きっと、自分だけ美少女になって凄いチートを貰ったんだよ。絶対にズルい」

 いや、ズルくは無いでしょ。

 確かに美少女だしチートもりもりだけど、それの何処が”ズル”なんだかさっぱり分からない。私は確かにエムダさんに厚遇されたけれど、移住者はみな要望を聞いて貰えた筈だ。こちらで実際には思うように事が運ばなかったとしてもそれは自己責任であって、成果を出した人間がズルをしたと思い込むのは心得違いだ。


 「お前が望んだからこちらに来たんだろう。不満を言うのも大概にしなさい」

 父が諭すように言うが、妹は不満顔だ。

 「だって、ズルいもん」

 尚も言う妹に両親も兄も困り顔だけど、そこでちゃんと叱ってやらないと家族以外との人とうまく付き合えないよ?人付き合い歴2年の私に言われたくはないだろうけど。


 「何が狡いのか分からねーな」

 エドさん、素が出てるよ?いいの?


 「15年間も家族から要らないもの扱いされて存在を無視されていた子供が、やっと自分の足で動き自分の世界を作れるようになった事の何が狡い?狡いと言われるような、どんな卑怯な手を使ったって言ってんだ、お前」

 ビクッとした茉莉花が隣に座っている兄の腕に掴まり、顔を隠すようにした。


 「家族に無視されている姉を見て何もしてこなかったお前が、成功した人間を妬んで僻んでんのはよーく分かったがよ、冷遇してきた相手が自分らを喜んで受け入れて?面倒を見てくれて?――本気で言ってんなら頭おかしいだろ」

 エドさんや、相手は幼い女の子なんだから威圧するのはやめよう。見ている方が居たたまれない。大体、何度も言ったでしょう?私はあの世界では異物だったのだから、あの人たちが悪かったのではないと。悪いのは次元嵐だと。


 「おじさんには関係ないもん」

 それでも抗弁する茉莉花。気持ちは分かるがおじさんはやめてあげて。老けて見えるけど、エドさんは、まだ25穢なの。


 「アンタらにも関係ないよな、赤の他人だろう?そう言ったよな?」

 ぐっと黙る妹。自分で赤の他人だと言い切ったあとだから仕方ない。あと、私も頼られても困る。


 「だって……」

 「家族に囲まれている筈なのに居場所のなかった人間の気持ちが分かるか?あいつがどんな思いで過ごしてきたのか想像したことはあるか?辛い思いを一人で抱えて誰にもわかってもらえない事がどんなに苦しいのか、アンタらに分かるのか!?」

 熱いね、エドさん、でもさぁ……


 「お前が言うなっ!」


 あ、言っちゃった。ずっと我慢してたのに、つい。


 「え?」

 「ホリィちゃん……?」


 エドさんとサジさんがこっちを向いた。彼らはぬらりひょん効果を知っているので、私を認識しにくいこの状況でも、声の主が私だと分かる。サライさんは「あーあ」とでも言いたいような表情で苦笑している。レーグルさんもサライさんから聞いていたのだろう、困った顔をしているけれど驚いてはいない。私はぬらりひょん装備を外して立ち上がる。


 「私は、何度も言ったよね!?堀の家族は悪くない、次元嵐が悪かったの!運が悪かったの!」

 「で、でも、お前……」

 「この人たちも言ったでしょ?私たちは赤の他人なの!たまたま堀の家に生まれたけれど、私は堀一家のメンバーじゃない、縁も所縁もない人間を保護して衣食住を与えてくれたことに感謝こそすれ、恨みは一切ない。無関係の人に何で文句言ってんの!?私の家族だったのはエドさんとサジさんでしょ!」


 ああ、もう、止まらない。


 「堀の家族より酷いのはエドさんだよ!サジさんだよ!私が嫌がっても断ってもそれを無視して、私のいう事を聞いてくれなくて!私にダメージを与えた家族ってのはあっちの人たちじゃなくて、エドさんたちだったでしょ!なんで赤の他人を責めるの!?”辛い思いをさせた”なんて私を傷つけたお前が言うなっ!私を傷つけたのはアンタたちだっ」


 「……おい、俺が言ったことよりお前の言葉のほうがあいつらに損傷を与えているって分かってっか?」


 見れば、両親と兄が項垂れている。え、ごめん。


 「それはそれとして――スマン。俺が悪かった」

 「ごめんね、ホリィちゃん」


 「その謝罪は何に対して?」

 とりあえず謝っておけばいいとは思わないでほしい。口先の謝罪で宥めて国に連れて帰ろうなんて、そうは問屋が卸さない。


 「お前の気持ちを考えずに兄上との婚姻を勧めた」

 「嫌がっているのに、なんの手助けもしなかったわ」


 「エドさんは私の気持ちを考えずにって言うけど、私はちゃんと何度も口に出してたよね?で、それを無視していたよね?私の家族である事よりも、あの方の弟であることを選んだことは仕方ない。実際にエドさんとあの方は兄弟なんだから。だったら、そっちを選んだ時点でもう私のことは放っておいて。サジさんだってそう。傍観者でいるつもりなら家族じゃないから」


 家族設定を言いだしたのは私だけれど、二人ともそれを受け入れたじゃないか。


 「ねー、あれ、お姉ちゃん?マジで?ほら、お父さん!やっぱり美人になってる方が得じゃん!王子様と結婚してらぶらぶな人生を潰したのはお父さんだから!」


 茉莉花……ぶれないね。この美少女顔については、とってもとっても言い訳したい。そう思った時点で頭が冷えた。気も抜けた。


 「……えーと、エドさんが身勝手にもあの人たちの事を詰るのでつい言いたい放題しちゃいましたけど、私もエドさんたちに依存していたことを自省しました。ごめんなさい。なので、もう私のことは放っておいてください。今までお世話になりながら恩返しもしないで申し訳ないです」


 あーあ、甘えすぎを反省した筈だったのになぁ。エドさん、サジさん、ごめんなさい。


 「ホリィさん、みなさん、場所を移しませんか?お店のご迷惑になりますから」

 サライさんに言われて周りを見渡すと、お客さん達もお店の人たちもこっちを見ている。確かに迷惑だ。


 「いえ、もう言うべきことは言ったので話すことは無いです」

 「ホリィさんがそうでも、堀一家の方々もエドヴィリアスタ様達もここでさようならと言う訳にはいかないでしょう、言いたいことを言ったなら、あちらにもその機会を与えてあげないと」

 なるほど。私だけが言いたい放題して去るのはそれこそ”ズルい”かもしれない。私が頷くと、エドさんがホッとしたように肩の力を抜いた。


 「堀一家の皆さんはどうですか?」


 サライさんに問われて顔を見合わせた両親も、ぎこちないながら頷いたので、私たちは場所を移動することにした。




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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くていつも楽しみにしています。 [気になる点] 近々での話がよく理解できなくなってきました。 特になぜここでさようならではダメなんでしょうか? サライさんの言ってる事の意味が解りません…
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