表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/111

第106話 ストーキング

 結局、ブロワリア国ノラナに一週間もいる。

 なのに声を掛ける訳でなく、ただ様子を見ている。どうしたいんだろうなぁ、私。



 1日目。見かけた堀一家の後をつけ同じ宿屋に部屋を取った。

 2日目。冒険者ギルドへ行った両親の後を付けた。両親が請け負った依頼は薬草採取。鑑定眼は持っていないようで、特徴を書いてあるとおぼしき手帳を見ながら採取していた。

 3日目。兄が冒険者ギルドへ。帯剣している兄は森で角兎を三匹狩った。

 4日目。家族四人で町を散策。

 5日目。妹が兄を引っ張ってお出かけ。服を強請っていたが買ってもらえなかったようだ。

 6日目。市が立つ日だったようで、家族四人で楽しんでいた。



 そして、7日目。


 私は、昼食を取っている冒険者パーティ”堀一家(ファミリー)”が見える位置に席を取り、こちらも食事をしながら様子を見ている。


 茉莉花は13歳になった筈。記憶にあるよりずっと背が伸びていて、もっと年上に見える。凄く楽しそうにお喋りをしながら食事をしている。オルダが性に合っているのかな?

 お兄ちゃんは19歳か。ちょっと痩せたように見える。お父さんとお母さんは、疲れているのか年よりも上に見えてしまう。


 「ここには落ち着いていられるといいねー」

 「だなぁ、あちこちと転々とするのは疲れたよ」

 柳君たちも各地を回っていると言っていたが、彼らは楽しんでいた。堀一家は望まずに移動しているんだろうか。なぜだろう?


 「ジャスミン、今度は大人しくしててくれよ?」

 「私はいつもいい子にしてますー。なんでだか、トラブルが私をめがけてやって来るんだよ!」

 「そうなのよねぇ。茉莉花はどうしてだか巻き込まれやすいのよねぇ」

 「ヤダ、お母さん、ジャスミンでしょ!お父さんが煩いから見た目を変えるのは諦めたんだよ。名前くらいは好きにさせてよ!」

 「あ、そう、そうだったわね」


 やはり容姿を変えることは父が反対したのか。その代りにジャスミンの名前ね。まりかって響き、可愛いと思うんだけど気に入ってなかったのか。


 「そろそろ稼がないと、宿代がヤバくなってきたよ。明日はギルドに行って依頼を見ないと」

 「えー、また、私お留守番?つまんないー。こっちに知り合いも出来ないしさ、お父さんとお母さんとお兄ちゃんは、お仕事でしょっちゅういなくなっちゃうし」

 「仕方ないだろう?働かないと生きていけない」


 冒険者生活、あまり上手くいっていないのかなぁ。十代の兄はともかく、40代後半の元サラリーマンと専業主婦だもん、そりゃしんどいか。貰ったスキルにもよるけど、他のお仕事は無理なのかな?何のスキルを貰ったんだろう。両親はともかく兄はラノベが好きだったし、妹はアニメが好きだったからそれなりに考えてスキルを貰えたと思うけど、それでも森君たちのように「外れスキル」と思っている可能性もある。


 ある程度稼いで、懐が寂しくなるまで家族で過ごして、また稼ぐ。意外と刹那的だなぁ。堅実でまじめなお父さん達のイメージからちょっと外れてる。

 十代で老後の資金を視野に入れてお金を貯めている私の方が変なんだろうか?


 「お兄ちゃん、今度は私も一緒に依頼を受けてもいいでしょー?」

 「お前にもやれそうだったらな」

 「ヤッホゥ。……って、前もそう言って連れて行ってくれなかったよね」

 「仕方ないでしょう、ジャスミン。あなたに危ないことはさせられないもの」


 茉莉花はこの世界でもまだ成人まで二年あるけど、あんまり甘やかすと将来的に本人が困るぞー。大きなお世話だろうけど。


 「ガチャがあんまりいいの出ないからなー。凄いお宝が出てくれれば遊んで暮らせるのに、お金になったのって2回くらいしかないしさー」


 茉莉花のスキルはガチャらしい。森君と木村君もそうだったけど、あまりいい物は出ていないようだ。サンストーンにいる伊藤さんは噂によるとレアものをだしているようなので、幸運スキルがあるかどうかが運命の分かれ道なのかも。

 茉莉花も”ぬののふく”とか”ひのきのぼう”とかだったのかな?


 第二弾の移住者たちもマジックバッグのスキルは貰えなかったんだろうか?エムダさんは、このスキルがあれば職には困らないと言っていたから、一家四人がマジックバッグ持ちだったら結構有利だと思うんだけど。


 明日は、ギルドで依頼を受けるのか。じゃ、先回りして私もギルドの依頼ボード前あたりにいれば、請け負う仕事の内容を見れるかな――って、ちょっとまって。


 ……これ、ストーキングじゃないだろうか?ストーキングだよね?


 グエンダル様に付きまとわれて嫌な思いをしたからって逃げ出した私がストーカーやってる?ダメじゃん!

 ふと我に返ると、何をやっているんだろう、自分……と思う。ストーカーから逃げるように隣国まで来て、そこで自分がストーキングしているとか、笑い話にもならんわっ。そう思いつつ、自嘲がこぼれた。



 ――元の家族の無事も確認したことだし、明日は町を出よう。うん。

 ストーカーな自分を自覚したらどっと疲れてしまった。ああ、恥ずかしい。

 

 顔を覆って一人身悶えていると、堀一家の席に誰かがやってきた気配がした。覆っていた手を下ろして堀一家の方を見ると……エドさん、サジさん、レーグルさん、サライさん。なんで!?


 この国に入って一週間。入国時に身分証は見せたけど、それにしても突き止めるのが早すぎる。

 いや、ぬらりひょん装備をしているから大丈夫……って、ダメじゃん!サライさんにはぬらりひょん効果が無いじゃん!そう思ってドギマギしていると、サライさんがこっちを見て人さし指を口に当てにっこりと笑った。エドさんたちに言わないでくれると思っていいのかな。


 「失礼。あなた方は堀一家というパーティで間違いないか?」


 冒険者姿でなく、騎士服に身を包み髪もしっかり撫でつけているエドさんに声を掛けられ、両親と兄妹は驚いたようだ。


 「はい、間違いありません。あなた様は――」

 「名乗りが遅れたことを詫びよう。私はある国の王命で人を探しているエドヴィリアスタだ」

 「はぁ……王命で人探しですか」


 ええ!?まさか、私のことを堀一家に話す気!?

 私が何のためにぬらりひょん装備をしていると思ってんだ!――って、それは知らないか。にしても、王命かぁ……。やっぱり捜索されてんだなぁ。


 「その者がこの国に入国したところまでは確認できている。ギルドにて黒髪黒目の17歳の少女を探している旨を告知させてもらったところ、堀一家というパーティにそれらしき少女がいると聞き、訪ねて参った次第だが……」

 エドさんは茉莉花を見て首を横に振った。


 「どうやら違ったようだが、あなた方に心当たりはないだろうか?」


 私のことを言う気は無いようだ。良かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ