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第101話 なんちゃらの会

 「最初に申し上げておきますが、私は彼女に力を使ってはおりませんよ?」

 レーグルさんは、私が”彼は洗脳の力を使ったのでは?”と思った事を見通したように言った。

 エドさんにもよく考えを読まれるけれど、私はそんなに思っていることがダダ漏れか。


 「彼女はホリィさんの素晴らしさに自ら気付いて慕っているのです」

 「そうです、聖女様!私は聖女様をお慕い申し上げております!」


 よく分からない。私を崇拝しているレーグルさんと私を聖女として慕っていると言うサライさん。そこからしてもうおかしいのに、何故その二人が結婚したんだろう。


 「サライは平民ゆえに気付かれなかったのですが、魔力感知のスキル持ちでございます」

 「私が見えているものが他の人には見えないという事を知ったのは子供の頃でしたが、それがスキルだという事はレーグル様に教えていただくまで知りませんでした」


 サライさんは、私を初めて見たときの事を語り始めた。


 「聖女様はあの火事の事を覚えていらっしゃるでしょうか。私はあの火事にあった家の近くに住まいするものなのですが、皆で水をかけても治まらない炎、おばさんは助かりそうもないやけどを負っていて、子供はそんなおばさんにしがみついて泣いていました」


 火事……。リズ様に会う少し前に、確かに火事現場に居合わせたことがある。しかし、その時はちゃんとぬらりひょんのブレスレットをしていた筈。


 「誰もがおばさんの命を諦め、火事が少しでも燃え広がらないように懸命になっていた時です。暖かな光が大きな水の玉になり火を鎮めてくれました。それだけでなく、更に光が水の膜になって何度もおばさんを包んで、そのたびに火傷が恢復していく光景に皆は奇跡だと、神の御業だと天に感謝を捧げました」


 そうだった。あの女性を助けられた事を思い出して嬉しくなった。あれは王都に来て数カ月くらいにあった事だから、もう一年以上前になるのか。あれからヨルが黒曜蛇からブラックサラマンダーに進化?したり、サンストーンへ行って流行り病の薬を作ったり、タマコがドラゴンになってその背で空のお散歩をしたり、王様の病気を治したりと色々あって濃い一年だったなぁ。


 「奇跡だ神の御業だと皆は言っていましたが、私には見えました。最初の火事を消したときの光の元に聖女様がいらした。一度目にすればもう目を疑いようもなく、聖女様が放たれた光を持つ水の膜がおばさんを癒やして下さった。私がその時に声を上げなかったのは、聖女様ご自身が衆目を集めることを避けているように見受けられたからです」


 彼女のいう事は正しい。確かに私は人目に付かないようにしていた。魔力感知のスキルとやらで彼女にはバレてしまっていたのだが、黙っていてくれる人で良かった。


 「ですから、私は陰ながら聖女様を仰ぎ見ることにしたんです!幸い、私の持っているスキルなら聖女様がどのように忍ばれようと魔力の色でわかりますから!お歩きになった直後でしたら道に魔力の痕跡が残っておりますのでその跡を辿れば必ず聖女様に辿り着けます。日々の仕事もあるので、そうそう聖女様を追いかけることは出来ませんでしたが、何日かに一回は聖地詣では致しました。最初の頃は宿屋に滞在なさっていたのでそちらへ、このお屋敷に越されてからはこちらに。あ、もちろん聖女様のお住まいを他人に漏らす様なことはしておりませんのでご安心ください」


 今の話のどこに安心できる要素があったんだろう?

 ストーカーがストーキング対象に付きまとっていますと告白している状態のどこが大丈夫なんだと言うのだろう。女性であるからまだマシか?マシなのか!?いや、そうじゃないでしょう!?


 おまわりさん。このひとです!


 魔力が分かるという事はあれか、ダンジョンにぬらりひょんで潜った時にも魔物がアタックしに来るのと一緒か。魔物と一緒にしちゃいけないけど、魔力感知のスキルを持っている人には私のぬらりひょんが通じないという事は分かった。


 私が歩いた道を辿ることが出来るなら、そりゃ家だってバレますよねぇ……。


 リズ様はこの女性の事を知っていたようで平然と笑っているが、エドさんとサジさんを見ると唖然とした表情をしている。きっと私も似たようなものだろう。

 レーグルさんはうんうんと頷きながらニコニコとしてサライさんの話を聞いている。あのー、あなたの奥さんが怖いんですが。


 「レーグル様に初めて会ったのは、火事のあとすぐでした。お仕事が休みでしたので、聖地で聖女様に祈りを捧げておりますと聖女様がお出かけになったので、私も陰ながら随行しましたら、後に随うのは私だけじゃなかったんです!それがレーグル様とアズーロ商会の従業員だという事を知らなかった私は、何の力も無いけれどこの身を盾にしてでも聖女様を守らねばならないと気合を入れました」


 それ、出待ちと追っかけっていいませんか?それと、この身を盾にとか止めてください。私、防御力だけは自信あるし。


 「あの時の光景は衝撃的でした。レーグル様が聖女様に跪き、割って入った男を聖女様があしらい、レーグル様を従えて颯爽と歩む神々しい姿……今も瞼に焼き付いています」


 うん、サライさんは目に問題があるね。視力じゃなくて、何かおかしなフィルターがかかっている。私の薬で治療可能だろうか?是非、私にその目の治療をさせて頂きたい。治せる自信はあまりないけれど。


 「その時に分かったのです。レーグル様は私の同士だと」

 「はい?」

 「聖女様を聖女様として知り、そして崇める仲間です。ですので、レーグル様が聖地を出るのを待って声を掛けたんです」


 もう、どうしていいのか分からない。エドさんとサジさんを見るも二人とも私から目を逸らした。ちっ。過保護者なのに助けてくれないのか。

 リズ様は相変わらずニコニコとしているし、レーグルさんは……サライさんと同じ目で私を見ているので、そもそも戦力外だ。


 「私も、ようやく巡り合えたサライという同士のおかげで、聖女様……ホリィさんの事を語る仲間が出来、とても嬉しく思いました」

 「私こそ、聖女様が隠していることを誰彼構わず話せる訳が無かったので、レーグル様とお話が出来てすっごく有難かったです」


 つまり何か?私は縁結びの神だったって事か。分かった。もうそれでいいから、陰で何を言っているかは聞こえなければ問題ないから、どうぞお二人で仲睦まじくお過ごしください。


 「この二人はね、聖女様をお慕いする会の会長なのですってよ」

 助けにならないリズ様の言葉は聞かなかったことにしたい。


 「二人だけなんだよな?そのなんちゃらの会のメンバーは」

 ”聖女様をお慕いする会”とは言いたくなかったのだろうエドさんが確認する。私だって嫌だいっ。


 「布教して広めたいという事でしたけれど、それではホリィが困りますものね」

 困るどころじゃない。そんな活動を始めたらすぐにばっくれるから!


 「ど……どちらが会長なんですか?」

 サジさん、そんなのどっちでもいいよ。というか、なんちゃらの会の話は掘り下げないでぇー!


 「どちらも譲らなくて、どちらも会長なんですって」


 「はぁ……。会員二人で二人とも会長ですか。面白い会、ですねぇ」


 私に見えない所で、私に聞こえない所でやってくれるなら、もう、どうでもいい。

 ちょっと自棄気味に私は思う。


 ストーカー二人が別々に私に付きまとうのではなく、二人できゃっきゃうふふやってくれているなら、その方が実害はない――と思いたい。


 王都に私を追いかけてきたレーグルさんが私の目の前にはあまり現れなかった理由が、サライさんと言う同士を見つけてなんちゃらの会で満足しているという事なら、有難い事なんだろう、多分。


 全然嬉しくないけれど、心の平穏の為に私はそう思い込むことにした。


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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
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