第100話 レーグルの重大発表
エドさんやサジさんに散々っぱら不憫がられているので、柳君たちの言いたいことも分かる。親兄妹の言いようが無情だとか不人情だとか、おそらくそういうたぐいの事だろう。
「あのですね、私は気にしていないし、大丈夫です。なんならどうでもいいんです」
とりあえず私のスタンスを表明。
「こちらの管理者さんに聞いたんですけど、私は元々オルダの人間なんだそうです。例の次元嵐で飛ばされてあちらの世界に辿り着いたとか。でもって、私はこの世界の自然の力が強いんだと聞きました。だから馴染めなかった。私のせいではないけれど、私の方が異物だった。ある意味、あの人たちは被害者です。我が子と、妹と、姉と言うべき人が他所の界から来た異物だったんですから」
なにが悪かったのかと問えば、答えは次元嵐だと答える。或いは運が悪かったとも。
巻き込まれた私も、あの人たちも悪くない。
「学校でもそうだったでしょう?私は、ほぼ居ない者扱いで関わろうとする人はいなかった。柳君たちも、オルダにいる今だからこそこうしてお話も出来ますけど、あの頃はどうでした?クラスメイトは学校にいる数時間だけですけど、あの人たちは15年間もの間ずっと異物と暮らしていたんですよ。――あ、柳君たちを責めてはいないですからね?」
学校の話をした途端に目が泳いだ彼らに慌てて言う。彼らを非難するつもりは毛頭ないのだ。失言だった。
「皆さんに、あの人たちを責める気持ちがあったとしても、それは要らない気持ちです。お気遣いは本当に嬉しかったです。ありがとうございます」
「けどよ、ホリィ」
文句を言いたげなエドさん。これだけ言っても分かってもらえないか。あの人達を庇ういい子ちゃんに見えるのだろうか?憤れば納得されるのだろうか?
なんだかなー。私はいい子ちゃんなのではなく、どうでもいいことには無関心だというただの冷淡な女なのですが。
「エドさんはオルダにいる私しか知らないから不憫に思うんだよ。ほんっとうに仕方がない事だったし、私は大丈夫だから」
エドさんとサジさんにだけではなく、柳君たちにも視線を送ってきっぱりと言う。
「私はオルダに帰ってきて、本当に幸せです。あちらの世界での家族に恨みも無いし、むしろ異物の世話をさせて申し訳なかったとも思ってます。私のせいじゃないとも思ってるけど、あの人たちのせいでもない。私は今が幸せ。あと、何か問題あります?」
「お前が幸せなら問題は無い。――けど、何かムカつく」
子どもかっ。
「そうよねぇ。ホリィちゃんの家族は私たちだもの。問題は無いのよ……でもちょっと不愉快よねぇ」
サジさんまで!
「俺はさ、堀さんの家族の事を言える立場じゃないけどさぁ。同じバス事故でこっちに来た身としては、保険金が入ってラッキーって態度は癇に障ったなぁ。しかも、俺たちの一か月後って事は四十九日も済んでないんだぜ?」
それは柳君の気持ちも分からないではない。私への気持ちは置いておいて、常識的には無いだろう。
「俺はただ、ジャスミン?って子にイラッとした」
私に関わりない所で嫌いだって言うならそれは仕方がないよね、久保田君。そこまで私は関知しません。ただ、相手は小学生だという事を少しだけ考慮してもらえると有難い。
「ジャスミンって変わった名前だね」
彼らの中で唯一あの人たちに会っていない吉村君が言った。
「茉莉花って言うんですけどね、本当は。字が茉莉花だからジャスミン、にしたのかな?」
「あー、成程。でも、そういう名前付ける子だったら、見た目もピンクの髪とか青い瞳とかにしそうなもんだけど、普通に日本人だったよ」
「多分、父親の駄目出しが出たんじゃないかと思います。TVとか見ていても整形は勿論、ピアスとかも絶対拒否反応を示す人でしたから」
そこからはお互いにこれまでの事やこれからの事などを和やかに話し、私の調薬を見た吉村君は大興奮で、またいつか会えるといいねと言って、彼らは去っていった。佐伯君の時も思ったけれど、オルダを楽しんでいる同郷人に会えたことがとても嬉しい。
佐伯君は今もインスタントラーメンの屋台をやっているんだろうか。聖女様をやっている安藤さんは、王弟殿下とその後の進展はあっただろうか。伊藤さんはガチャでどんな物が出ているんだろう。森君たちはその後、腐らずにレベル上げを頑張っているだろうか。林さんは幸せな結婚生活を送っているといいな。土屋君たち、真っ先にスキルを貰ってオルダへ飛んだ5人はどうしているだろう。
みんなが幸せだといいな。私みたいに。
「まだムカついてるんです?」
口数の少ないエドさんに聞くと、答えは是。
「なんか納得がいかねーんだよ。お前が平気な顔をしてんのもムカつく」
そこをムカつかれても困る。平気だから平気な顔をしているだけなのだ。
「そうなのよねぇ。因果応報降りかかれ!とか思っちゃうのよ」
いやいや、あれだけ説明したのにまだそんな事を言いますか。ま、いいや。エドさんたちに納得してもらう必要はないし、会う事も無いだろうからそのうち忘れてくれることでしょう。それにしても、オカンもオネエも私が”家族”という言葉を出してから、余計に第四界での家族に当たりが強くなってしまった気がする。私の保護者は、本当に過保護者だ。
「元同級生たちに対するのと同じ気持ちですよ。いや、それよりはちょっと低いかな。元同級生たちは”一緒にオルダに来た同士”って感じだから、ただ同郷だって言うだけよりは上ですもん。それでも、元同郷の者として、オルダで楽しく幸せになってくれればいいなーと思ってます。最終的にはどうでもいい気持ちの方が強いですけど」
結局”どうでもいい”に戻ってしまう情のない私。
まだ納得のいかない様子のエドさんたちはもう放置だ。
そこにリズ様が、レーグルさんと22~23歳位の可愛らしい女性を連れてやってきた。
「ホリィ、先ほどの子たちはもう帰りましたのね?大丈夫でしたの?」
「大丈夫ですよー、リズ様。楽しくお喋りできました」
エドさんとサジさんの表情が、”楽しくお喋り”を否定しているように見えるけど気にしない。
「お久しぶりです、ホリィさん、お元気でしたか?陰ながら御跡を偲んではおりましたが、お目にかかりますとこの身が歓喜に震えるようです」
――相変わらずの人だなぁ。王都での再会後は会う度に私を賛美はするけれど、押しかけてくることは無かった。たまに後を付けてくることがあるのは、タマコやヨルが感知してくれていたので知っていたけれど、実害が無いので放っておいた。
「レーグルさんもお元気そうで何よりです」
当たり障りのない返事を返す。彼からの賛美に反応すると、更なる美辞麗句が降ってきて収拾がつかなくなるからだ。
「本日は突然の訪いにもかかわらず拝顔の栄を賜りありがとうございます。私事で恐縮にございますが、結婚のご報告をさせて頂きたく参りました」
「けっこん」
「はい」
けっこんって結婚だよね?誰が?誰と?
「初めましてホリィ様。この度レーグル様と婚姻を結びました、サライと申します。お目にかかれましたこと、本当に嬉しく思います。町娘ですので、聖女様にふさわしい言葉遣いが出来ないですが、どうぞお許しください」
は?
「おい、レーグル、お前がこの娘と結婚、でいいいんだな?」
状況が呑み込めない私の代わりにエドさんが尋ねてくれた。
「え?年の差幾つよ?親子ほども離れているじゃない!」
うんうん、サジさんもそう思うよね。何かの間違いなんじゃないだろうか。それに、この人、私のことを聖女様って言ったよ。騙されてない?まさか、洗脳!?
100話達成です!
大体100話くらいで終わる予定だったのですが収まりきらず、もう少し続きます
宜しくお願いします(≧▽≦)




