第1話 真っ白な世界
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そこは真っ白な世界だった。
天井や床・壁が白いというわけではない。
そもそもそこが部屋の中なのか屋外なのかもわからない。
一人きりでこの空間にいたら神経に異常をきたすのではないかと思われるほど異質な世界だ。
前を向いても後ろを見てもただただ白いそこに三十数人の男女が伏していた。
彼らが現れてからどの位の時間がたったころだろうか、制服姿の少女が顔を上げた。
「ここ…どこ?」
その声を切っ掛けに倒れていた人々が次々と顔を上げる。一様に不安げな表情で周囲を窺っていた。
「なんだ……ここ。俺らなんでこんな所にいるんだ」「知るかよ。こんな場所なんて見たことも聞いたこともねぇ」「怖い」「帰りたい。どっちに行けば帰れるんだろ…」
「バスに乗ってたよね。あ…先生っ、ここ、どこなんですかっ」
先生と呼ばれた女性が弱弱しく首を振る。
「先生にも分からない。運転手さん、なにがあったか覚えてらっしゃいますか?」
尋ねられた男は両手で額を押え、必死で直前の事を思い出す。
「……高速道路で前を走っていたトラックが急にふらついたかと思ったら火を噴いて、慌ててハンドルを切って、それで」
男は頭を抱えたままいやいやをするように首を振り、言葉を切った。
「事故…?オレたち事故で死んじゃった?ひょっとしてここって死後の世界とか」
「そんな、やだっ、お母さんっお父さんっ」
「ヤダって言ったってどうしようもねぇだろう」
「本当に死んじゃったのかな」
泣き出す者、呆然としている者、唇をかみ何かに耐えるようにしている者。
全ての者が、ここが生者の世界ではないであろうことをゆっくりと飲み込んでいったときに、空から声が響く。
―ここは狭間
―生でも死でもない場所
突然の声に皆が救いを求めるかのように声の主を探したが、どこを見回そうと一面の白い空間に第三者の姿は見つからない。
「…だれ、ですか?狭間とはいったい……私たちはこれからどうなるのですか?」
パニックに陥りそうな己を教師であるという一点を拠り所に冷静さを保つ努力をしていた女性が、姿の見えぬ誰かに問いかける。
―あなた方の想像通り、皆さんの乗ったバスは事故に遭いました
―現時点では半数の方が生命活動を停止しています
―残りの半数の方のさらに半数の命の灯が消えようとしています
―選択肢は二つ
―ひとつは四分の一の確率の生にかけ、元の世界へ戻る道
―命を拾えなかった場合は、輪廻の輪へと誘われることでしょう
―もうひとつは、こことは異なる別の世界…第二界と呼ばれる場所へと送られる道
―第二界の管理者が他界からの移住者を求めています
―もちろん強制ではありませんし、移住される方にはわたしと第二界の管理者からギフトを差し上げましょう
―新しい体と第二界で生きていくための知識、あちらで役に立つ能力を与えます
―ただ、後者を選んだ場合は、もう二度とこの世界の輪廻に戻れず第二界に組み込まれます
―今まで結んできた多生の縁はすべて断ち切られ、家族や知己との邂逅は未来永劫叶いません
―どちらを選びますか