「幡野三郎光照と申す者でございます」
おれは佐助と並んで、いまだ硬い表情の幸村と、大阪城の広間で対面し座った。佐助はジーンズが窮屈なのか、足を曲げにくそうに正座をした。
最初は幸村が声を出した。だがたった今目の前で起こった出来事が信じられないようで、声が若干ふるえている。
「で、では、説明をして頂けるでしょうか」
「うん、おれと佐助は未来から、あ、いや、未来の里から戻って来たんだ」
「みらいの里」
「そう、現代の未来なんだけどな」
「はっ?」
「つまり未来に行って、また戻って来たという訳なんだけど……」
「はあ」
もちろん頭の中がほぼパニック状態だろう幸村には、これ以上返事のしようがないのか。
おれはパソコンを前に押し出すと、
「このパソコンがどうも連れて行ってくれたようなんだ」
「…………」
頭脳明晰な幸村ではあるが、その表情は明らかに理解不能状態としか見えなかった。
たしかに今すぐ理解してもらうのは無理だろう。それは当然のことだった。とにかく無事帰って来たんだし、服を着替えて皆に会おう、となった。
「兄上、何処に行ってらしたんですか?」
「殿!」
「若君さま」
「一体どうされたのですか?」
「皆が心配しておりました」
「その髪型は、一体?!」
「まさか神隠し……」
「とにかくご無事でなによりでした」
おれは皆が落ち着くのをひたすら待った。
神隠し騒ぎも一段落したある日、幸村が小西行長と共におれの前に進み出た。その行長の横に控えている者がいる。
「幡野三郎光照と申す者でございます」
行長が言った。
「この者がぜひ殿のお耳に入れたい事があると言うので、連れてまいりました」
「何かな、申してみよ」
「はっ、実は……、そのことなのですが……」
いかにも実直そうな武士なのだが、なんとも歯切れが悪い。
「どうした、早く殿に申し上げないか」
行長がしきりに気にしている。
「大変申し上げにくいのですが、お殿さまとだけでお話ししたいと……」
「なに、わしらには聞かせられないと言うのか!」
「ははっ」
行長に語気を強められ、光照は頭を畳にこすりつけた。
「よい、分かった、その方達は下がっておれ」
「しかし」
「かまわぬ」
興味を持ったおれはすぐ話を聞いてみたかった。
幸村が光照に向き合う。
「念のためだ、腰の物を預からせてもらうぞ」
「はっ」
光照は自身の脇差を幸村に差し出した。