「殿、何処に行ってたんですか?」
大阪城の広間には、やはりおれしか転送されていなかった。
まずいぞ、今度は佐助がたった一人で、あの時代に取り残されてしまった。
だが、こんなこともあろうかと、ふわっときた瞬間、とっさにとった行動がある。
おれは胸にしっかり抱きかかえていたパソコンを見た。バッテリーが内臓されていればしばらくは使える。このパソコンを起動させても、データーをダウンロードすることなどは出来ないだろうが、何が起こるのか試してみることにする。
「殿!」
「ん?」
突然、後ろから声を掛けられた。
「幸村」
「やはり殿でしたか、その身なりは……、いったい今まで何処におられたのですか」
「いや、それはだな」
「皆が探しております」
「分かった、またゆっくり訳を話すから。もう少し待ってくれ、今は急いでるんだ」
おれは抱えていたパソコンを見た。
電源はオンになったままだ。
畳の上に置き、鶴松とキーボードを打ってみると、既にダウンロード済みのデーターが画面上に点灯し始め……
「やった!」
ネットカフェに戻って来た。もちろんパソコンは両手でしっかりつかんでいる。
「殿!」
「佐助」
佐助は涙こそ流してないが、半べそ状態でそこに突っ立って居た。
「殿、何処に行ってたんですか?」
「それはまたゆっくり話そう」
佐助を傍に呼びよせ、パソコンのキーボードを操作する。おれ達は再び、大阪城に戻った。
「殿、ここは」
「どうだ、言った通り戻っただろう」
「…………」
「どうした、うれしくないのか?」
「あの、それでは、さくらミルクラテはもう――」
「なんだそんな事か、いいや、まだまだ飲めるぞ」
「本当ですか」
「本当だとも、デザートだってな」
「でざーと」
「そうだ、でざーとだ」
「殿!」
振り向くとそこに、幸村がこれ以上ない驚愕の表情を浮かべ固まっていた。
「やっと収まるとこに納まった」
「そうね」
「転送が始まった時は佐助が来ていないじゃない、と思ったけど。殿はなかなかやるわね」
「で、これからどうするの?」
「さあ」
「そんな他人行儀なこと言わないで――」
「だって、今の私たちはパソコンなのよ。あなたが勝手にこんな狭いとこに入ったんじゃない」
「それはそうだけど……」