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「何故そう思うんだ?」



 おれは今回の戦の黒幕である黒田利則の居城、城井谷城の周辺を抑えるようにと、宇喜多秀家、長宗我部盛親の軍に指令を出した。

 長崎に出張っている忠之の背後を脅かして、動揺を誘う考えだ。ただし城井谷城は攻めがたい城であるから包囲するだけで、無理に攻める事はないと言っておいた。

 長崎港に停泊していた軍船五隻は兵士を上陸させるとすぐ外海に出てしまったようだ。イギリスの軍船が来ていると分かった以上、湾内に留まっているリスクは避けたいからな。


 毛利秀就の軍には小早川の動向に注意せよと指示を出した。平戸に戻ったおれは隊を指揮して東に向かった。勝永の率いる豊臣軍とは四日から五日で合流出来るだろう。そして平戸の商館に置かれたロンドン東インド会社が襲撃される心配はほとんど無いとの判断で、イギリス軍は少数の兵士を残しただけで同行して来た。彼らにとっては外地なのだから無理もない。


「ショーグン、この方角なのですか?」

「そうだ」


 もっともそう言ったおれも初めての土地だったのだが……


「どの位でその軍とは合流出来るのですか?」

「多分4日から5日くらいだ」


 イギリス軍士官との行軍中の会話だ。イギリス人なのだから英語だと思うが、ほとんど聞き取れない。英語ではないように感じる。指を四本出したりして会話をしていた。多分そういう内容だったと思うが、隣のトキがうなずいているからきっとそうだ。

 太郎兵衛も英語は知らないはずなのだが、筆談で数字を突き合わせれば取引は成立すると言っていた。最も今では簡単な会話くらいなら出来るようだ。勝家はさらに頑張って、日英語の辞書まで作り始めているらしい。


 このイギリス海軍士官は名前をパインと言った。


「パイン」

「なんですか、ショーグン」

「スペインやポルトガルとはどうなんだ?」

「どうなんだと申しますと?」

「勝てるのか?」

「スペインは無敵艦隊などと申しておりましたが、既にイングランド海軍に敗れております」

「そうだな」


 トキに助けてもらいながら会話を続けていた。


「ショーグン」

「ん?」

「一つ疑問があります。お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「何かな?」

「ショーグンはなぜか、この時代の方とは思えないのですが……」


 ――ドキ――


「何故そう思うんだ?」

「考え方や、イギリス人に対する態度は、他のアジアの人とは明らかに違います」

「…………」

「その余裕がなにか途方もない、大きな世界を見て来ている方のような感じなのです」


 おれは思わず、実は、と言いそうになって、ぐっとこらえた。まだ早い、今このイギリス人にまで話したら収拾がつかない事態になりそうだ。

 もっともパインはこの戦の後すぐ退役して商人となったのだが、おれはタッグを組んでもいいと思い始めていた。


 パインはシャム・シルクの売込みに欧米ファッション業界で奔走して注目を浴び、徐々にシルクの人気が高まっていく。佐助のデザインするブランド「サスケ」が一七世紀の欧米ファッション界をリードすることになるのだ。

 だが、そのような活躍の後もアジアの経済界を舞台に暴れまわったのだが、途方もない財を成しながら、ある日シャムの自宅から忽然と姿を消し、大規模な捜索活動にも拘らず、その姿は二度と発見されることはなかった。


 イギリスの諜報機関に所属していたとの噂もあり、失踪当時もイギリスの諜報関係らしい者と接触を持っていたこと、政変が繰り返されていたシャムの反政府指導者に知人が多かったことなどから、事件は謎に包まれたまま解決される事はなかった。

 もちろんそれはまだ先の話だ。


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