「幸村、動くなよ」
大阪城の一室で、まず幸村の写真を撮った。
「幸村、動くなよ」
「…………」
「そのまま」
「あの、一体いつまで――」
「動くなといったろう!」
「はっ」
少しは笑えと言ったのだが、長時間は無理だ。頬がひきつってくるのだった。
次は断髪一番乗りを上げた若者だ。奨励金を得て満足げな顔を写真に撮った。
男にはいいなずけが居て、その女性が断髪に猛反対だったのだが、奨励金を得て、新居が建てられるとなると態度が激変したと言う。
さらには歌舞伎座の女子達を写真に撮った。スカートを穿いてポーズをとらせた。そして絵師に色を付けさせる事もした為、カラー写真もどきとなり大人気となった。ブロマイドの完成だ。
歌舞伎座の営業小屋で販売すると、飛ぶように売れて品切れだと連絡があった。
そんなに量産は出来ない。さらには評判を聞きつけた一般の子女まで、晴着を着て写真を撮りたいと申し出が来始めた。
断髪は奨励金が終わっても後に続く者が次々と現れ、思惑通りになった。
おれは物販や、その他の商売を始めることにして、会社組織にしようとした。
株式会社豊臣商事だ。幹部は運送会社の役員が当分の間兼任することとなった。ここで初めて株券を発行することにした。大阪城の地下に眠る黄金を思えば、そんなことをして資金を募る必要はないのだが。これは社会を変える第一歩だ。
ところが募集を始めても全く応募者が居なかった。無理もない、訳の分からない株券だ。大阪城出入りの業者に太郎兵衛が説明をすると、やっと少し金を出してもいいという者が現れた。
さすがは大阪商人だ。もちろん配当も出すつもりなのだから、損はないだろう。
うぐいすが鳴き、桜も咲き出した頃、おれは大阪城の一室に居た。照明が無いので、窓の方を向いて明るい所だ。
あつらえたテーブルにパソコンを置き、椅子に腰かけて、腰元のトキと話をしていた。
「トキ」
「なに?」
「トキは自分の生まれた星に戻れるものなら、戻りたいと思ったことはないのかな」
「…………」
「おれはこのまま、この時代で生きて行っても良いと、最近感じるようになったんだ」
「それは殿が今充実して生きているってことね」
「そうかもしれない」
トキを創った博士に再び会いたいと思ったことはあるのか聞いてみたかったが、黙ってしまったので、その話題は避けることにした。
その時、
「殿」
振り返ると佐助がひざまずかないで、そのまま歩いてくるとトキの隣に立った。
すでにこの子の態度はかなり現代っ子になりつつある。もちろんおれもそんなことは一向にかまわないのだが。
それよりもこの、共におれを見て笑っている二人の存在が、微妙に気になる。まあ仲良くしているみたいなんだがな。
「佐助、なんだ」
「何をなさってるんですか?」
「パソコンを使っているんだが、そうだ、教えてやろう」
佐助にパソコン教室を始めることになった。