「どけ、どけ、どけ!」
「幸村はおるか」
「はっ、これに」
「なに、幸村。その頭はどうしたのだ!」
「未来の里に合わせ、髪を切ったのです。これで殿と同じになりました」
「…………!」
幸村はバッサリ断髪をしたのであった。
「もう利休帽は必要御座いません」
幸村は笑って見せた。その後で、
「殿」
「ん?」
「わたくしだけではありませんぞ」
「なんだ」
「佐助、来なさい」
現れた佐助を見てまた驚いた。
「なんだそれは」
「作ってみました」
佐助はスカートを穿いているではないか。
「これをあの歌舞伎の女性たちに履かせようと思うのですが」
「それをか」
「はい。いけませんか?」
「いや、大いに結構」
その歌舞伎座の公演は、スカートを穿いた女性達の踊りが大人気で繁盛し始めた、との知らせに満足した。
これが徳川殿の世なら風紀を乱すと、取り締まりの対象になっただろうが、何しろおれのトップダウンなんだ。取り締まるわけがない。
この日は、秀吉の残してくれた莫大な黄金をどう有効に使うのか。おれは幸村や太郎兵衛と共に考えようと思ったのだ。
これからは経済の発展が欠かせないのだが……
で、ふと、
「そうだ、物流だ」
経済の発展には、物の流れと人の流れが活発になるのが不可欠だ。
そしてまず思い浮かんだのが、国中にレールを敷いて列車を走らせることだ。だが記憶をたどれば、英国のJ・ワットによって蒸気動力による機関車が発明されたのは一七七六年のはず。
蒸気機関車は時代が早すぎて駄目だ。
となるとトラックも無いし、残るは馬か牛か。牛は遅すぎるし馬で荷車を運ぶとなれば、幌馬車ではないか。
それに幌馬車ならおれでも設計出来る!
幸村はおれが何をそんなに興奮しているのかと、いぶかしがっていたが、太郎兵衛はおれの発案に興味を持ったようだ。
さっそく大工を呼び造らせてみた。多分こんなもんで良いだろうと、二頭立ての幌馬車が出来上がった。
あとは道を整備してこの物流を国中に宣伝すれば良い。
おれはさっそく会社を立ち上げた。株式を発行して出資金を集めてもいいのだが、とりあえずは豊臣家だけでやることにした。
豊臣幌馬車運輸株式会社。
社長 豊臣秀矩
専務 真田幸村
社外取締役 大矢太郎兵衛
社長秘書 猿飛佐助
営業部長 小西行長
配達員 騎馬武者
主要な道路は幌馬車で運び、脇道からは宿場ごとに配置しておく荷馬車に積み替え、個別に運ぶというサービスもする。
さらには小さな宅配便は騎馬武者が受け付け、背中に背負って当然馬で走る。
当初は大阪と江戸を結ぶ定期便を考えたのだが、大井川にはまだ橋が無いし、取り合えず大阪と名古屋間を往復することにした。
幌馬車を先導するのは背中に社旗を差した騎馬武者数騎。
「道を開けろ、幌馬車が通るぞ!」
「どけ、どけ、どけ!」
商人達の信用を得るには、定期便が良い。たとえ荷が無くても走らせるのだ。
とりあえず手間賃(送料)は一律にする。そしてオープン記念セールとして、当分の間は半額だ。いや、無料でもいいか。
幌馬車の平均巡行スピードは時速約一〇キロ。道が良ければ一五キロくらいか。一日に百キロから一五〇キロ走行出来る。
大阪から名古屋まで、百五十キロくらいだとすると、早朝に出発して、その日の内にぎりぎり到着することになる。
開業当初は二台の幌馬車を投入して、三日で一往復を目標とした。
大阪と名古屋には営業所を設置し、途中の主だった宿場には積み替え用の荷馬車も用意する。先導する騎馬武者が宅配便も請け負っているので、背中には大きな籠を背負う。
恰好はいまいちだが、文句は言わせない。