「それってパラレルワールドの事?」
「トキ」
「なに?」
「もう一度聞きたいんだけど」
「いいわよ」
「トキは過去にも未来にも行けるんだよね」
「正確には過去ではなくって、出発点に戻るの」
「だとしたら、おれはトキによって初めて過去に転送されたんだから、出発点とは違うんじゃないか?」
これはおれが一番疑問に感じていたことだ。
「じゃあ別な言い方をするわね。殿は大阪から東京まで新幹線に乗ったでしょ」
「うん乗った」
「もしも殿にトキと同じ時空移動能力があったとすると、東京の人を浜松に移動させることが出来るのよ」
「…………」
「東京の人には出発点でなくとも、殿にとっては大阪も浜松も出発点なの」
なるほどそういう事か。
「だったら今度は未来なんだけど、おれの未来は見に行けるのかな?」
「それは無理ね」
「なぜだろう」
「それは未来に行こうとすることで、殿自身がどんどん変わってしまうから」
「…………」
さあ分からなくなってきたぞ。
「未来の事は分からないわ」
「トキにも?」
「私にも同じことが言えるの。行ってみなければ分からないのが未来よ」
そうか、やはり枝分かれの事だな。
奇想天外な発想があふれるSFの中でもパラレルワールドが存在する可能性は、今のところ証明されてはいないが、多くの人々の興味をひきつけてきた。
「それってパラレルワールドの事?」
「近いわね」
「近いって、もう少し詳しく話してくれないか」
これはトキがどう思っているのか、ぜひ聞きたい事だ。
「そうね、広葉樹の苗木を考えてみて。最初の幹は一本でしょ」
「うん」
「それが翌年に先が分かれて二本になり、さらに四本と枝が増えていくんだけど、じゃあ無限に大きくなるの?」
「ならない」
「そうでしょ。小さくする方もそうで、紙を四十二回折り曲げるとその厚みは月にも届くと言われるけど、途中で折り曲げられなくなるの」
「…………」
理屈と実際とでは違うということなのか。
「パラレルワールドがあったとしても、どこかで行き詰まる点が存在すると私は考えているの」
「だけどトキはもっと未来に行くことも出来ると思っていたけど」
「それは出来ないわ。殿が居た社会から先は、私にとっても未知の世界なのよ」
「なるほど」
「行ってみようとしても、限界があるのね」
その言葉を聞いて、急にトキが身近な存在に感じられてきた。
「殿もわたしも、今を生きてるってことでは一緒よ。殿は地球時間で私は宇宙時間と言えばいいのかしら、尺度が全く別だけど」
「…………」
「だから未来に行けるって言うのは、ちょっと違うわね」
「過去に行って、戻ってくるという感じだ」
「そんな感じね」
それにしても、トキは一体どれだけの時間を生きているんだろう。
「じゃあトキはずいぶん過去にまでさかのぼれるんだね」
「それも制約があるの」
「なぜ?」
「例えばこの地球もそうだけど、恒星に飲み込まれたりして無くなってしまったら、その星の過去には戻れないのよ」
「ふう~ん、そうなんだ」
「私が生まれた星はもうとっくに消えて、存在していないから、戻る事は出来ないの」
「なるほどね」