「私の名前はトキ」
この日おれはちょっとした悪戯を思いついた。
二人を東京の超高級ホテルに連れて行き、ティータイムメニューの数々を味合わせてやろうというものだ。
佐助を真ん中に、三人で受付に行くとほぼ満員だと言う。
「少しお待ちいただいてもよろしければ、お呼びいたしますが」
「じゃあそうしてもらおうかな」
「お名前をお願いします」
「えーと、佐助の名前にしよう。佐助です」
「苗字もお願い出来ますか?」
「猿飛です」
「…………」
「じゃあその辺を見て回ってますから」
受付を離れようとすると、すぐ呼び止められた。
「あの、……お名前なんですが、……本当にこのお名前でお呼びしてもよろしいのでしょうか?」
「そうか、ちょっと問題かな」
「…………」
「だったらおれの名前でいこう。秀矩です」
「苗字をお願いします」
「豊臣です」
「…………」
このタイミングで佐助がおれに聞いてきた。
「殿、ここのでざーとは美味しいのですか?」
受付嬢、「…………」
そして最後に受付前を離れる幸村が身体の向きを変えて、姿勢を改めると、腰をかがめ、
「では、御免――」
受付嬢、「…………!」
このティータイムでは、ケーキなどはバイキング方式だから食べたい放題だった。佐助はもう目移りしてなかなか手が出ない有様。
幸村は両手に皿を持たされ、佐助の後を着いて回っている。立場が完璧逆転していた。
一方おれは適当なケーキを皿に乗せ、すぐ席に戻ると、わきに抱えていたパソコンをテーブルの上に置く。バッテリーの充電は未来に来るたび随時している。
かなり黒ずんでいるキーボードを見つめた。今までずっと気になっていたことをしてみようと思ったのだ。
「パソコンさん、質問してもいいか?」と打ち込んだ。
「…………」
「良かったらおれの質問に答えてくれないかな」
これまでの事を思い起こしてみると、間違いない、おれはこのパソコンに転送されている。今はそれを確かめたいのだ。
「いいわよ」
やった!
「良かった、返事をしてくれたね。ありがとう」
「どういたしまして」
「あの、あなたには名前があるんですか?」
「私の名前はトキ」
「トキさんか」
「トキ、と呼んでくれていいわ」
「分かった、じゃあトキ、なんでおれは転送されたの? それに過去には同じ時点に戻れるのに、未来は違う時代とか行くんだよね。あ、それよりもパソコンの中って一体――」
「ちょっと待って。順番にゆっっくりお話をしましょう」
「そうか、そうだな。気になることが多すぎて……」
それからしばらく、おれは佐助や幸村の存在を忘れてトキと話し続けた。