「これを拙者がかぶるのですか」
おれはある日、幸村と豊臣政権の今後について話し合っていた。
「幸村」
「はっ」
「異国に行ってみる気はないか?」
「異国ですか」
「そうだ」
「どちらの異国でしょうか?」
「未来の里という異国だ」
「…………」
「私と一緒に行こうではないか」
豊臣の未来を考えるのに、実際の未来を見てみるのも良いのではないかと考えたのだ。
「しかし、それがしは年寄りで御座います」
「だから何だ」
「もっと若い者を、お誘いになるほうが良いのでは御座りませんか」
「もちろんそれも良いのだがな」
なぜか幸村の腰が引けている。
「まずは幸村、そなたからと思ってな」
「…………」
「どうだ」
「あの、それがしの身体が消えるのでしょうか?」
やはりそれが本音だろう。
だが幸村の疑問はもっともだ。彼の目の前で、おれや佐助が消えたり現れたりしたんだからな。無理もない。
「怖いのか?」
「いえ、こう見えても、それがしは忍びの頭で御座います。怖いなどと」
「そうか。では行こう」
ただ問題がある。和服と草履は良いとしても、髪型はどうしようもない。仕方がない向こうに行ったら、すぐに帽子を買ってかぶってもらおう。
こうして、幸村の未来の里行が決まった。
「佐助、幸村の隣に居ろよ」
「はい」
「では、幸村、行くぞ」
「――!」
再び綺麗な芝生の上に三人は居た。
「幸村」
「はっ」
返事をしながら、まだ目をつぶっている。
「もう目を開けていいぞ」
「……!」
幸村は片方ずつ目を開けた。
とりあえず帽子を探そうという事ですぐタクシーに乗った。幸村はずっと平静を装ってはいるが、ほぼ無言で固まったロボット状態だ。
タクシーの運転手に帽子屋はどこかと聞いたが、知っているのか知らないのか。
適当な所で降ろされたと思ったんだが、目の前が帽子屋だった。
だが先ほどからちょんまげの幸村が、人通りの多い街中では明らかにチンドン屋、目立つことこの上ない。
急いで中に入ると今時珍しい店だ。周囲の壁一面に帽子が展示してある。
カンカン帽か利休帽かと迷ったが、幸村は利休を知っているから利休帽にした。これなら和服にも合うし、良いだろう。いや、武士がこのようなものをかぶるのはと、抵抗があるのかな。
「これを拙者がかぶるのですか」
「なんならなくても――」
「いや、かぶります」
やはり最初は渋ったが、ちょんまげがいかにこの世界で目立つか、身をもって知ったからな。