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アイスクリーム・イン・ザ・サラダボウル  作者: 志登 はじめ
【第八章】プット・ア・スペル・オン・ミー
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87.6話 REC Track 03 KYOTARO

「それじゃあサクっと終わらせてくるわ」


 そう宣言した京太郎は、言葉の通り開始から5時間ですんなりとレコーディングを終えた。持ち時間を3時間も残しての余裕のフィニッシュだ。


 だが、京太郎は決して手を抜いたわけでも妥協をしたわけでもない。短時間で終わらせられるだけ、自分のコンディションを仕上げてきたのだ。

 京太郎は琴さんのレコーディングの時も俺の時も、ひたすら個人練習に精を出していた。もうちょっと他のパートも聞いていて欲しいと内心思ったりもしたが、今日の出来を見せられてはそんな気も失せる。


 しかも今回、件の新しいアンプを購入するため、手元にあったエフェクターの大半を売り払ったらしい。コレクターにも近い感覚で機材を収集していた機材マニアの京太郎からすれば、それは大きな決断だったに違いない。


「俺がcream eyesに求める最高の音を出すには、どうしてもあのアンプが必要だったんだよ。だから実際に使ってるエフェクター以外は、前に持ってたアンプも含めて全部売ったんだ。手持ちの金だけじゃ頭金が足りなかったからな」


 結構いい額になったんだぜと笑っていたが、手放したものの中には再入手が困難なレアな品も多数含まれていたはずだ。「コレクターがコレクションを手放してまで得たかった実利」がいかほどの物か、今回のレコーディングで思い知らされた。


「残りの時間はどうする? 無理して使わなくてもいいんだけど」


 オーナーの小林さんが問いかけると、京太郎は即答した。


「玲ちゃんのセッティングを先行させてください」


 この時、俺は京太郎がなぜここまで自分の持ち時間を短縮することに拘ったのかを理解した。


 前回のレコーディングの際、玲はかなりの苦戦を強いられた。今回と違い制限時間が無かったからという理由もあるが、まるまる二日間もの時間を必要としたのだ。

 玲はギター初心者なので仕方ないことだが、時間に制限のある今回において鬼門になってしまうことは皆が予感していた。


 セッティングだってまだ慣れていない。使い慣れたアンプが置いてある大学のハコや、いつも利用しているスタジオならともかく、今回使用する予定のレコーディングスタジオのアンプは玲が今まで使用したことの無いものだった。

 セッティングに時間がかかれば焦りが生じ、演奏に悪影響が及ぶことだって考えられる。それでギターの収録に手間取ってしまえば、肝心の歌入れのモチベーションにも関わってくるだろう。


 だからこそ京太郎は、最高の音で、最高の演奏を、最短の時間で収録しきることに拘ったのだ。弟子である玲に、よりよい環境でレコーディングに取り組んでもらうために。


「やるじゃん」


「当たり前だろ、俺を誰だと思ってんだ」


「そのドヤ顔、腹立つわぁ」


 いつもだったら突っ込みを入れたくなるその台詞に、今日ばかりは感嘆せざるを得ない。


「さすがだな、師匠」

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