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アイスクリーム・イン・ザ・サラダボウル  作者: 志登 はじめ
【第八章】プット・ア・スペル・オン・ミー
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86話 予感的中

 みはるんは京太郎の隣に座ると、目を輝かせて話し始めた。


「ドライバーが必要なんだってね」


「え、みはるん免許持ってたっけ?」


「ん? 持ってるわけないじゃん」


「ほんならあんた何しに来たん……」


 呆れ顔の琴さんにも怯むことなく、みはるんはドヤ顔で言い放った。


「私なら今から免許を取りに行っても、みんなのバンド活動には影響ないでしょ? それに家にある車でっかいから、みんなの楽器も多分乗せられるよ」


「は?」


「だ・か・ら! 私が免許取ってみんなのドライバーになってあげるって言ってるの!」


 唐突の救世主の登場に、俺たちは一瞬固まってしまった。


「マジかよみはるん! お前ってやつは……」


「あのね、私考えてたの。みんながツアー言ってる間、京くんと会えないなんて耐えられないって。ドライバーとして同行するなら、誰も文句はないでしょ?」


 文句も何も、願っても無い申し入れだ。俺の目にはみはるんが聖女の様に輝いて見えた。ギャル聖女。新ジャンルが開拓できそうだ。


「でも、免許取るのってすごいお金かかるんじゃ……」


 玲がもっともな心配をしても、みはるんはドヤ顔を崩さない。


「大丈夫。貯金してるし、どうせいつかは免許取りに行こうって思ってたし。それに、この前のライブの時にもらったお金もあるしね」


 前回のライブの時、みはるんに渡したお金は3万円にも満たない。免許取得費用の足しにするには心もとないにも程がある。それでもみはるんは京太郎のために、そしてcream eyesのために力を貸してくれると言う。


「どうしてそこまで……いや、京太郎のためってのはわかるんだけどさ。いくら彼氏のためだからって、普通そこまで尽くせるもんなの?」


 俺がみはるんの立場だったら、いくら好きな相手のためでもきっとそこまではできない。この前の炎天下でのビラ配りもそうだし、みはるんのモチベーションの源が純粋に疑問だったのだ。


「うーん」


 みはるんは少しだけ考え込んだように唸った後、俺の問いに答えた。


「私さ、今まで本気で頑張ったこと無いなって気づいたんだ。ってゆーか、一生懸命頑張るとかダサっみたいな感じだったの。なに頑張っちゃってんの? みたいな。あはは、今考えると性格悪いねー私。まぁとにかく、毎日テキトーに楽しければそれでいいって思ってたわけ」


 相変わらず、ものすごく軽いトーンで話す。


「でもさ、京くんやcream eyesの皆を見てたら、本気で頑張るって良いなって、かっこいいなって思うようになったんだ。何かこう、キラキラしてるって感じ? あ、今の言い方ダサい? まぁいいや。で、私も何かに一生懸命になってみたいって思ったんだけど、そういうのってすぐには見つからなくて。だったら、今一生懸命頑張ってる京くんたちを本気で応援してみようって思ったの。そうしたら、いつか私も自分が一生懸命になれるものを見つけられるかもしれないって」


 何だか心が晴れるような、爽やかな心地がした。自分たちの姿を見て、こんな風に思ってくれる人がいたなんて。

 ケラケラと笑いながら話すみはるんは、その言葉がどれだけ俺たちにとって価値があるのか理解していないんだろう。いや、そんな打算的な思いが無いからこそ言えることなのかもしれない。


「あれ? みんなどうしたの? なんで黙ってんの?」


「みはるんさん、大好きです!」


「おっとー??」


 玲の熱烈なハグが炸裂。正直、俺だって同性ならそうしたい気持ちだった。


「どうどう」


 みはるんは玲の頭をくしゃくしゃにしながらそれを受け止めていた。相変わらず緊張感の無い緩んだ笑顔で。


「ほんまにありがとうね」


「マジで助かる。本当ありがとう」


「ふふーん、もっと感謝してくれていいよ?」


 ふと、横にいた京太郎の顔を見ると泣いていた。引いた。


「みばるん、何でいいごなんだ……」


「京くん……私はいつだって京くんの味方だよ。当たり前じゃん」


 180cm超えの男が人目を憚らず涙を流す姿は、傍から見て中々にキツイものがある。正直、バンドメンバーでなければ他人のフリをしたいところだ。それを戸惑うことなく抱きしめる彼女の姿も同様に。


「それ、他所(よそ)でやってくれる?」


 口ではそう言いながらも、そのキツイやり取りを見るのは嫌いじゃなかった。多分、呆れ顔を隠そうともしない琴さんも同じだろう。


 予想外の救世主の登場により、俺たちの前に横たわっていた問題には解決の糸口が見えた。万全ではないかもしれないが、進むべき道はきまったのだから。


「よっしゃ! それじゃあ細かいとこ詰めていくか!」


 その後、ピックアップしたレコーディングスタジオの一つに連絡を取ると、何とも幸運なことに二週間後から一週間ぽっかりと予約が空いているとのこと。俺はすぐにその日程を抑えた。


「これは流れ来てるな」


「追い風感じちゃいますね!」


 今回のレコーディングでは以前にも収録した「Beautiful」「The Catcher in the Route246」「残光」に「グラジオラス」と「Hello, Mr.Postman」を加えた5曲を収録し、ミニアルバムとして発表することにした。

 taku氏には写真のイメージが湧くようにと収録曲の歌詞を送り、撮影の日時や場所は後日連絡をもらうことになった。


「音源化してない二曲は、スタジオで仮音源を取ってtakuさんに送っておこう」


「了解です」


 そして、その日は一旦解散となった。


 道筋が見えてくるとモチベーションも上がると言うもの。俺の頭の中はどうすれば良い音源が録れるかとか、どうすれば良いライブができるかとか、もうバンドのことで一杯だった。


「新しく録る2曲も前みたいに練り込んでおかなきゃ。今度は時間無制限って訳じゃないし。音にももっとこだわりたいよなぁ。レコ―ディングもそうだけど、ツアー先の会場はそれぞれ機材が違うだろうから何か対策を考えないと……待てよ、この前のライブでお金も入ったことだし、いっその事アンプヘッド買っちゃうか? みはるんの車に機材が乗せられるなら移動も楽だし……」


 ここまで全て独り言である。顔はにやけており、きっとすれ違う人にはひどく不気味な人物に映った違いない。明日ネットで検索すれば、不審者情報として警察が発表するホームページで公開されていてもおかしくないだろう。だが、そんな風に考えを巡らせることが楽しくて、独り言を止めることが難しかったのだ。


 そして13日後。


 レコーディングを翌日に控えたその日、もうすぐシーズンが終わってしまうチョコミントアイスを買おうと立ち寄ったコンビニで、俺は置いてあった雑誌の表紙に目を奪われた。


「マリッカ ~新時代の夜明け~」


 赤文字でデカデカとそう書かれた音楽雑誌。表紙には、メンバー4人の写真が載っていた。

 そう、4人のメンバーだ。マリッカのメンバーはボーカルの莉子、ギターのマシュー、ドラムのダンボの3人のはずなのに。


 この雑誌に目を奪われたのは、単にマリッカが表紙を飾っていたからではない。写真の一番左に堂々と写るもう一人のメンバーを、俺は知っていたからだ。


「牡丹!?」


 前回共演したライブから一ヶ月も経っていない。あの時に比べると、化粧のせいだろうか、随分印象が違って見える。だが、何度見ても表紙の女性は牡丹だ。見間違えているわけではないだろう。テリーの娘が双子だなんて話は聞いたことが無い。彼女の所属するバンドはlalala(ラララ)palooza(パルーザ)ではなかったのか。


「君たちとはまたすぐ会いそうな気がするんだ」


 ライブが終わった後、牡丹が言っていた台詞を思い出す。彼女はこのことを予感していたと言うのか? いや、そんなはずはない。川島さんは俺たちに会うまでマリッカとcream eyesが一緒にツアーを回ると言う案を聞かされていなかったし、マリッカもそのことは知らないと言っていた。偶然にしては出来過ぎている気もするが……


 気づいた時にはチョコミントアイスと共にその雑誌を小脇に抱え、俺はレジに並んでいた。様々な疑問が頭の中をグルグルと回る中、店内に流れる販促のBGMがやたらと耳に残った。

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