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アイスクリーム・イン・ザ・サラダボウル  作者: 志登 はじめ
【第一章】ボーイズ・アンド・ガール・ミート・ア・ガール
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6話 ここから始まる

 時が止まっていた。俺も、琴さんも、京太郎も、部屋にいた女たちも。カラオケ画面の宣伝映像で(やかま)しく喋るタレントと、ただ一人を除いて。


「この後どうすればいいですか?」


 玲の声で我に返る。初対面かつ身元不明の人間の誘いに、軽々と頷く彼女の将来が心配になる。


「あ、えーと、え? あぁ、これからね。うん。えーと……琴さん、どうすんでしたっけ」


「え? そ、そうやなぁ、とりあえず連絡先でも交換しとこか」


「ソッスネ」


 俺は携帯電話を取出し、自分の連絡先を画面に表示させた。


「とりあえずメッセージ送っておきますね」


 玲から送られてきたメッセージに文字は無く、何かゆるいキャラの画像が添付されていた。いとも容易く、なんの引っかかりも無く、玲の連絡先を入手することに成功してしまった。


「えっと、週明け、また連絡します」


「はーい」


 そう言って手を振る玲に見送られながら、俺たちは部屋を出て行った。その様子を女たちはただ眺めていた。静かに扉を閉め自分たちの部屋へと戻ると、三人はお互いの顔を見合わせる。


 俺は身を屈め、わなわなと震えてから、


「~~~~~~~~~~~~~~~んよっしゃぁああああ!!! ッげほッげほ」


 体を大きく反らし、両の拳を高々と掲げ、おそらく人生で初めての派手なガッツポーズを決めた。そして激しく(むせ)た。

 何だかよくわからないが、あの奇跡の様な歌声を持つ少女を勧誘することに成功したのだ。あぁ、本当に何で成功したのか、これっぽっちもわからない!


「やったやん朔ぅ! 突撃かましたうちに感謝しいや!」


「ありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございます」


「何がわかんねーけど良かったな、朔! ってかあの子、普通にめっちゃ可愛かったんですけど?」


「可愛いとか! ど・う・で・も・い・い・の! いや、よくないけど! いいの! Do you Understand?」


「お前のテンションがI Can’t Understand! 酔いすぎだろ、お前」


「酔ってません~~」


「うっざ」


 胸の真ん中がぞわぞわする。じっとしていられない。声を出さずにいられない。京太郎は彼女の歌声を知らないから、そんな風に冷静でいられるのだ。


「よかったやないの、ノリのええ子で。あの部屋入った瞬間、何や香水やら化粧品やらの臭いで吐きそうやったけど、あの子はえぇ感じやったわ」


 死臭とアルコールの臭いの混ざったこの部屋に比べれば何倍もマシなはずだが、俺も京太郎も突っ込むことはしなかった。


「確かに、何か不思議な感じの子でしたね」


「いやいやいやいやいや、あの子の評価は、歌声を聞いてからにしてもらいましょう!」


「お前、どこから目線で言ってんだよ……」


「あはは、急にプロデューサー面とか、とんだお調子(もん)やねぇ。そんながっついてたら、あんな可愛(かい)らしい子、すぐ逃げられてまうで」


「そ、それは困ります」


 一旦落ち着こう。そもそも、衝動に任せて勢いだけでここまで来てしまったのだ。でも彼女、玲と呼ばれていた彼女の歌をもっと聞いていたい、この思いは本物だ。確信がある。


「で、あの子が来たらどうすんの? 何か、意外とあっさりOKもらえちゃって、拍子抜けしてんだけど」


 ファーストコンタクトが成功した今、重要なのはこれからだ。

 現時点で玲は、バンドや音楽に対して強い意志を持っているわけではないだろう。そんな彼女にバンドの面白さをわかってもらわなければいけない。


「とりあえず、新歓ライブで一緒にバンドを組もうと思う。まずはコピーから初めて……」


「バンドメンバーはどうするつもりなんだよ」


「そこ重要だよな~。どうしよう」


「何や、朔。ずいぶんつれないこと言うんやねぇ」


 琴さんは不満そうに、俺の顔を覗き込んでそう言った。


「ギターにベースにドラム、ここに全員そろってるやん」


「え?」


「うちらじゃ不満かて、聞いてるんや」


 正直驚いた。だが、この発言に一番驚いていたのは京太郎だった。


「え? 俺も入ってるんすか?」

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