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アイスクリーム・イン・ザ・サラダボウル  作者: 志登 はじめ
【第十章】ノー・ペイン・ノー・ゲイン
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123話 即断!即決!即行動!

「君たちの活動に僕の名前が入るということがどういう意味を持つのか、ちゃんと理解しているのかい?」


「わかって……いるつもりです」


「じゃあ君たちがこれから何をするべきかも、わかっているね」


「はい」


「そうと決まれば即行動だ。川島くんも、手伝ってくれるかい?」


「……もちろんです!」


「自分も! 自分にも手伝わせて欲しいっす! 何をすればいいっすか?」


「んー、君はさっき僕に対して酷いことを言ったからなぁ。何様だ、だっけ?」


「そ、それは……! 言葉の綾って言うか勢いと言うか……」


「土田さん、その発言パワハラですよ」


「え、マジで?」


 これで俺の役目はひと段落、とはいかない。まだまだスタートラインに立ったばかりだ。


 土田さんのプロデュースの元、マリッカの活動中止によってキャンセルになったライブの穴埋めをするということがどういう結果を生むのか、少し考えればわかる。


 所謂(いわゆる)炎上。


 cream eyesというバンドは、莉子の病気で活動中止になったマリッカの話題性を利用して、自分たちの名前を売り込もうとしている不謹慎者である。しかも、そのプロデュースを行うのは「天才を殺した男」として悪名高い土田 雅哉。何ともけしからん連中だ。事情を知らない者から見れば、俺たちのZIPPER Tokyoでのライブはこんな風に映るだろう。きっと世間からの非難は免れられない。


 土田さんはそのことに対して覚悟を問うたのだ。


 だが、玲は言った。マリッカが世界平和を目指すなら、自分たちは世界征服を目指すのだ、と。それなら、最初から俺たちは悪役だ。

 悪役上等。メンバーの誰もそんなの似合わないけれど、それでもやってやろうじゃないか。


「と言うわけで、ZIPPER Tokyoでのライブを取り付けたぞ!」


 シルバー・ストーン・レコードの本社ビルを出て、バンドのグループメッセージに直談判の結果を報告すると、すぐさま返信が返ってきた。


「うおおおおお! GJ!!」


「ようやったな。お疲れさん」


「さすが朔さん! 私も明後日から路上ライブ頑張りますね!」


 キャパ3,000人規模の会場でやるということに、誰も怖気づいたりしない。頼りになる仲間たちだ。


 そしてこの瞬間から、俺たちはZIPPER Tokyoでのライブへむけてプロモーション活動を開始した。

 まずはSNSで告知……の前に根回しだ。サラダボウルの全体グループメッセージに、ライブの決定を投稿する。すると、サークルの皆から応援の声が続々と寄せられてきた。


「ZIPPERってマジ!? しかもワンマン!? めちゃすげぇ!」


「絶対行きます! チケットください!」


「俺もZIPPERでやりたいんだけど。バーターで出してよ」


 一部応援かどうか怪しい声もあるが、まぁいいだろう。そこにメンバー全員からのお願いと言う形でメッセージを追加投稿。


「この後バンドのSNSでもライブの告知をするから、全力で拡散して!」


 良く言えば賑やかし、要するにサクラの依頼である。SNSでムーブメントを起こすには初動が大事だ。情報には鮮度があり、投稿初期の段階で多くの人がそれを話題にしていると認識してもらう必要がある。サラダボウルの会員数は100人程度だが、それだけの人数が「シェアする」ボタンを押していれば、第三者も気軽にシェアができると言うわけだ。

 せこい作戦だと思われるかもしれないが、なりふり構ってなどいられない。これもひとつの「やれること」なのだから。


 根回しが済んだところで、cream eyesのSNSアカウントでライブの告知を開始する。


「12月4日 (土)ZIPPER Tokyoで初のワンマンライブ開催決定!!」


 根回しの甲斐もあって投降はすぐさま100件以上シェアされ、150件、200件と順調にシェア件数を伸ばしていった。その間も、俺たちは中学・高校時代の友人やバイト先の同僚や親戚等、伝手をフルに使って拡散を依頼していく。

 だがシェア件数が500件を超えたあたりから、不穏な投稿が散見されるようになった。


「ちょっと待って。12月4日のZIPPERってマリッカがライブするはずだったところじゃん。莉子ちゃんの病気にかこつけて会場乗っ取ったってこと?」


「cream eyesってマリッカの前座やってたバンドだよ。まぁ無名だし、会場埋まる訳ないよね」


「あーこれは調子乗って自滅するやつだわ」


「マリッカの後釜とか、こいつらじゃ荷が重いだろ」


 いい気分はしない。当然しないのだが、これは想定の範囲内だ。だが、ここで想定外の事態が発生する。俺のスマートホンに、一件のメッセージが届いたのだ。

 差し出し人は土田さんだった。川島さんか日下部さんから俺の連絡先を聞いたのだろう。


「僕もSNSのアカウントを作ったんだ。cream eyesのアカウントにフレンド申請送っといたから、承認よろしく」


 了解しました。と返信する前に、土田さんのアカウントを確認しに行く。新しくフレンド申請を送ってくれたユーザーの中に「土田 雅哉」とそのまんまの名前で表示されていたため、すぐに見つけることができた。

 そして申請を返すために土田さんのユーザーページに移動した俺は、そこに書かれていた自己紹介文(プロフィール)に度肝を抜かされることになる。


「フリーランスの音楽プロデューサー土田 雅哉です」


 最初はわずかな違和感だった。


「……ん?」


 一見何でもない内容に見えるが、その意味がわかると同時に手の震えが止まらなくなった。


「ふり和ランスてどういうことでか!?」


 震えのあまり誤字ったまま返信。


 俺が驚いたのは、プロフィールに記載されていた「フリーランス」という文字。土田さんはシルバー・ストーン・レコードに所属する人間だ。彼の自由な人間性は別として、社会人としてフリーではない。それなのにどうして……


「会社に辞表を出してきたんだよ。まだ正式には受理されてないみたいだから、発表するのはフライングなんだけど」


「辞表!? なぜ!?」


 メッセージのやり取りがまどろっこしい。先刻別れたばかりだが、電話か直接会って話を聞きたい。

 と言うか、本当に別れたのはついさっきなのにもう辞表を提出したってどういうことなんだ。展開が早すぎる。


「会社に所属したままじゃ、企画がどうだの契約がどうだので動けるようになるまでに時間がかかるからね。10日後のライブになんてとても間に合わない。だから辞めた。フリーになれば、今すぐにでも君たちと仕事が出来るだろう?」


 俺が返信できずにいると、追加でもう一通のメッセージが届いた。


「なんだかんだで、会社もそれを望んでいたみたいだし。あぁ、そう言えば君たちはメジャーデビューが目標なんだっけ。シルバー・ストーンからのデビューは難しくなってしまったかな。それについては申し訳なかった。でも他にもメジャーへの道はいくらでもあるから安心して欲しい。何しろ、僕がプロデュースすると決めたんだからね」


 大船に乗ったつもりで、という事だろう。いきなり会社を辞めるとは驚いたが、土田さんのメッセージからはすさまじい情熱が伝わってきた。大船どころか、絢爛豪華なクルーズ船に乗った気分だ。


「俺たちのためにそこまで……ありがとうございます!」


 会社を辞めるという事は、安定した収入を手放すという事でもある。土田さんの性格的に貯金を貯め込んでいるとも思えないし、本来ならそう易々と決断できることではないはずだ。それでも実行してくれた。この熱量なら、きっと川島さんも大いに喜んでいるに違いない。


 ……川島さん?


「そういえば、川島さんはどうするんですか? 一緒にフリーに?」


「川島くんはそのままさ。色々手伝ってはくれるけれど、彼女はまだマリッカの担当だからね」


 土田さんがまたアーティストのプロデュースを再開することを心待ちにしていた川島さんは、今どんな心境なのだろうか。もちろん喜びは大きいだろうが、尊敬する大好きな相手が離れてしまう、そのことに喪失感を覚えているかもしれない。


 そのきっかけとなったのも俺たちだ。なおさら責任は重い。


 俺は改めてcream eyesのグループメッセージに書き込みを行った。


「土田さんが会社辞めた! 緊急会議をやります! 今日これから!」


 さすがに三人とも混乱していた。無理もない。俺だって相当に驚いた。


 そして、フリーになった土田さんにも不遜ながら呼び出しを掛けて、その日の夜に打ち合わせを行う流れとなった。

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