チャプター17 インタビュー DJマイクⅡ
三月の終わりだったよ。ちょうど桜が咲き始めててね。シュウが暮らしてた森林公園って、桜の名所なんだよ。昔は穴場だったんだけど、最近は人がずいぶんと増えた。
あれだけシュウの顔を見なかった時期は無かったね。
本当は、シュウの方から連絡してくるまでは放っておこうと思ってた。
それに、あの計画には準備期間が必要だったし、人志が上達するのを待ってたからね。
ただ、こっちもいい加減、心配になったっつうのが一番の理由かな。こっちから出向くことにしたよ。
店の車で森林公園に迎えに行ったんだよ。あそこの駐車場は広いからね、探すのも大変だった。まあ、こちとら昼間は暇だから、花見がてらぶらぶらするようなもんだ。
あれは土曜だったな。
その後に瀧澤さんとも約束してたから、間違いない。土曜だ。
やっぱり家族連れが多くてね。若い夫婦が俺の前を歩いてんの。こっちも急いでないから、後ろっから何となく眺めてさ。男の子が親父さんに肩車されてたな。横でお袋さんが心配そうに支えてたっけ。
その時の俺には、絵に描いたような幸せな親子に見えたな。
『俺にもこんな人生が有ったのかなぁ』なんて思ったよ。しみったれた話だけどな。
そういうチャンスが無かった訳じゃねぇよ。付き合った女とは真剣にやってきたよ。
どいつもいい女だったんだぜ。これは俺の数少ない自慢だな。
でもよ、女っつうのは子供を欲しがってな。申し訳ねぇけど、俺の方から全てお断りしたよ。
そんなことを繰り返すうち、段々と面倒くさくなっちまった。
・・・なんでだろうな。結局は、俺がだらしないって事なんだろうよ。
ガキの頃は散々嫌な思いしたからね。黒い子が生まれたら、俺と同じ思いさせちまうから。昔に比べたら随分と良くなってるのは分かるけどね。
それに、うちのお袋は朝鮮人だろ?最近はあの国への風当たりが強いからな。
自分が家庭をほっぽらかして、とんずらしちまうのは怖かったな。親父みたいに。
親父にはいい思い出しかないんだけどな、いなくなった理由だけ、訳が分からねぇままだったからよ。
自分の親が生きてるか、死んでるのか分からねぇってのは・・・まぁ、複雑なもんだよ。
もう親父は生きちゃいねぇって諦め始めてたから、探すのも終わりにしようって、その時思ったな。
・・・なんでだろうな。そん時、もういいかなって、突然思ったんだよ。
シュウの車が止まってる場所は人志から聞いてたけどよ、いつも車の中にいるとは限らねぇ。こっちから連絡が取れないから、いなきゃしょうがねぇくらいの気持ちだったな。
駐車場の隅っこの方に停まってたよ。
桜の木が、こう・・・車に覆いかぶさるように生えてた。
問題児はご在宅かな?って中を覗いたら、シュウは助手席に座って、ノートに何か書いてたよ。恐らくリリックだろうな。あいつは俺に気付きもしねぇで、真剣な顔して頑張ってたよ。
しばらく見ねぇうちに、ずいぶんと痩せてたな。かわいそうによぉ。
そのままタバコを一本吸い終わる頃、やっと気付いたと思ったら、えらく驚いてたぜ。
シュウって面白れぇよな。コロコロ表情が変わってよ、頭の中が全部顔に出ちまうから。
あん時の驚いた顔をあんたにも見せてやりてぇよ。




