チャプター8 イメージ映像 蹴られる少女
弱いスポットライトに照らされて、少女は膝を抱えてうずくまっている。
肩が小刻みに震えている。遠目からも泣いていることが分かった。
美しい黒髪は乱れ、右目には眼帯が痛々しい。美しいはずの左目は涙と共に絶望を湛えていた。かつてと同じ黒いドレスはボロボロで、短いスカートの膝元には青痣が確認できた。
宝石のような、瑠璃色の爪だけがアンバランスに輝いている。
少女はおびえた顔で後ろを振り返る。何かを叫んでいるようだ。慌てて両腕で頭を抱え、全身を丸くして防御の姿勢をとっている。少女の体が強く振動しているのが見える。少女の背中に強い衝撃が伝わる。誰かに蹴られているようだが、加害者の姿は見えない。
背中を蹴られたせいで、丸めていた姿勢が伸びた。今度は腹を蹴られているようだ。何度も、何度も。
悲しみに満ちていた少女の表情からは、次第に何も読み取れなくなった。少女の感情と反比例するように、こちらは強い怒りに駆られる。
『守らなければいけない』
なぜ少女が凶行にさらされているのか、その理由など関係ない。少女を悲しませるものが何であれ、それは絶対悪だ。少女に駆け寄ろうと試みるが一歩も近づけない。無力感に包まれた。
『世界が壊れてしまう』
助けなければいけない。生理的な衝動に突き動かされ、少女に駆け寄ろうとしたその時、不意に視界が塞がれて辺りが見えなくなった。急激な浮遊感。少女が離れていくのが分かる。少女の気配は小さく、遠くなった。
そして、少女に関する記憶も薄れていった。




