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TO ZION  作者: T@KUMI(画)、MIKI(文)
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プロローグ

挿絵(By みてみん) 

 階下の気配が消えて三十分が経つ。そろそろ両親は寝た頃だろう。ベッドからそっと起き出した俺は、タバコとスマホをポケットに入れた。昼に届いたばかりのブルーレイディスクも忘れずに持った。このブルーレイが今晩の主役だ。

 足音を立てないように階段を下り、玄関で靴を履いた。

 散歩と勘違いしたプリンが付いて来ようとする。睨みつけたら諦めた。心の中で愛犬に謝りながら玄関のドアを静かに閉める。

 脱出成功。

 外に出たら、夜中だというのに真夏の暑さが残ってた。せっかく風呂に入ったのに、また汗をかくのは嫌だ。そのままにするとアトピーがひどくなる。


 22時50分。この時間ならまだ哲っちんは起きてる筈だ。

 先週はせっかく行ったのに、もう寝てた。今日は絶対に起きてるように言っておいた。でも、哲っちんの性格を考えると、約束を憶えてるかはすごく怪しい。

 哲っちんとは中三になってから仲良くなった。付き合ってる彼女が同じ部活で、四人で一緒に帰ったのがきっかけだ。

 哲っちんは受験と先生の顔色ばかりを気にしてた俺に、真逆の生き方を教えてくれた。最近、テストの成績が下がってるって先生に叱られたけど、そんなの気にしない。もっと大切な、自分なりの価値観っていうものがあると気付いた。気付かせてもらえた。

 タバコを吸い始めたのも哲っちんの影響だ。哲っちんはキャビン、俺はマルボロメンソール。本当はキャビンにしようかと思ったけど、哲っちんと同じだとからかわれそうだから別のにした。

 俺の家から坂を下ると哲っちんの住む団地が見えてくる。歩いて五分。家が近いから運命の友達だ。

 オッケー。部屋の明かりは点いている。まだ哲っちんは起きてるみたいだ。


 団地の階段を一段飛ばしで上がる。部屋に入ると、案の定哲っちんはまだ起きていた。

 シングルベッドに寝転がりながらテレビを見てる。

 っていうか、甚平着てアイス食ってた。驚くほど似合ってる。

 どうみても中年のおっさん。だけど、これで同い年っていうんだから呆れてしまう。

「おう、ワタル。来たか」親戚のおじさんみたいだ。

「ごめん。なかなか親が寝なかった」

「アイス食う?」

「何アイス?」

「あずき」

「ううん。今はいいや」あずきは無い。夏はやっぱり氷系のフルーツ系!

「じゃあコーラ飲む?」

「うん。飲む」多分ダイエットコーラとかじゃないと思う。


 哲っちんは、その巨体からは想像できないほど軽やかに起き上がると、コーラを取りに台所へ行った。冷蔵庫からコーラを取り出すと、大サイズのボトルごと持ってきた。コップとかは無し。そのまま飲めと差し出してくる。


「持ってきた?」

「もちろん!」

 哲っちんにブルーレイを手渡す。宝物のようにディスクを取り出すと、プレイヤーにセットした。普段のガサツ動作とは真逆の手つきだ。


「それでは・・・・・・・・・始めます」

 俺は拍手で応じた。お互いテンションが高くなってる。再生ボタンを押すと、荘厳なBGMと共に、男性のナレーターが語りだした。


「世界を変えた男・・・・・・その名は今井秀明いまいしゅうめい」ヤバい!いきなりかっこ良すぎる!

「その名を知らぬものは・・・もはやいるまい。しかし、彼の辿った道のりを知る者は、意外なほど少ない」


「上がるな!?」

「うん。マジ上がる!」俺らは眼を合わせて興奮した。


「いまから貴男は目の当たりにするだろう・・・彼らが、いかにして世界に革命を起こしたか。これは、関係者への膨大なインタビューと、それを元に構成された再現VTRで綴る、真実の・・・ドラマである」


 開口のまま呆けた俺たちは、その世界に瞬殺で引き込まれていた。

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