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ピリカ・トトニアとリリア

一階に降りるとウィルが机に難しそうな本を広げていた。ちらりと内容を見てみると魔法についての本のようだ。城には一冊もなかったのに。

「それ、俺でもわかるか?」

俺が声をかけると驚いたようで肩を震わせ振り向いた。完全に油断していたらしい。

「びっくりした…。これか?んー…まだ早いかな。俺が教えるよ」

ウィルはそう言って本を閉じ、黒板のそばに置いてあった高めの椅子に座る。どうやらそこで教えてくれるらしい。

「まずは簡単な分類からだ。昼食の前に師匠が教えてたけど、師匠と俺が教えられることは魔法と魔術と医術だ。だが、魔術と医術についてはまだ詳しく解明されてなくてな。俺は詳しく教えられん。師匠に聞いてくれ」

さっきの話のおさらいだ。魔法ならウィルから教われるのか。だから魔法を勉強しとけって言われたのか。

「魔法は体内と体外にある魔力を使役して使うものだ。呪文さえ間違わなければ大体の魔法が使える。まずは発音と言葉を覚えることからかな。意味もついでに教えていくから覚えていくといい。師匠から測定の神貰ったよな。見せてくれるか?」

呪文を覚えていくのか。覚えられるか不安だがとりあえずウィルに先ほど渡された紙を渡す。ウィルはその紙を熱心に読んでいたかと思うとすぐに驚きの声を上げた。

「お…!お前…!その見た目で、18なのか!?」

それは俺も想定外だった。まさか年齢まで紙に描かれるのか。

「びっくりだよな。ちなみにウィルはいくつ?」

俺は見た目があまり変わらないのだ。18歳はもう成人するかしないかという年齢だ。その頃にはもう大人と変わらない見た目になるはずなのに俺はまだ10歳ぐらいにしか見えないだろう。

「か…かる…。俺は13だよ。くそっおまえのほうが年上なのか…」

かなり悔しそうだ。そうだよな、初対面でガキ扱いしてたもんな。

「別に気にすることじゃないだろ。他には何がわかるんだ?」

それよりも他に何が書いてあるのかが気になる。見たところかなりの文量があった。それだけじゃないはずだ。

「お前の名前、アレックス・クーデルホーク。最適な属性は水みたいだな。あっでもお前の神の加護は違う神みたいだ。これは…幸運?」

属性とは得意な魔法ってことか?

「よくわからないな」

俺が正直に言うとウィルがすぐに補足説明してくれた。

「属性は一番魔力消費の少ない魔法の種類のことだ。消費が少ないから余力を制御に回しやすく扱うのが簡単なんだ。今後は水属性の魔法から教えていくな。神の加護だな。あれは神から好かれてる人間だっていう証拠が目に見えてわかるってだけだ。その神が管理している属性を極めれば恩恵があるだろうけど、幸運か…」

ウィルが思い悩む。そんなに珍しいのだろうか。

「幸運って何をすればいいんだ?」

それに関する魔法があるのだろうか?魔法は噂でしか聞いたことがないため何があるのかわからない。

「ん……。確率の操作とかか?神が普段何をしているのかわかれば多少予想できるんだが、幸運の神は目撃されていないらしいんだ。正直何をしたらいいのかわからん」

よくわからないが神のご加護を受けるには何をしたらいいかわからない、というわけか。

「わからないなら仕方ない。簡単なものから教えてもらえるか?」

俺がそう言うとウィルは水道から水をコップに注ぎ俺に渡してきた。

「最初はコップにある水を操作するところから始める。上位になると水を大気中から集めて作るところからだけど維持に魔力を使うからな。ん……まずは見本を見せようか」

ウィルは俺の手にある水に人差し指を浸け

『生命の源よ。凍てつけ』

知らない言葉だ。これが呪文なのか。ふわりと甘いチョコレートのような香りを感じ顔を上げると

「ん?どうした?」

すぐ近くにいたウィルと目が合う。気のせいかと思い手元のコップを見ると小さな氷がいくつか形成されていた。

「これが魔法、か」

全く冷たくない水から氷ができたのだ。いずれこれができるようになると思うとワクワクするな。

『生命の源よ。凍てついた身を溶かせ』

ウィルがもう一度違う呪文を言うと、氷は瞬きする間と言ってもいいほど早く溶けていった。

「まずはこの魔法を覚えよう。簡単だからすぐにできるようになるさ」

俺がどちらともの魔法を使えるようになるまでそれほど時間はかからなかった。丁度マリーが二階から降りてくるころには溶かすのも凍らせるのもある程度制御しながらできるようになっていた。


「話し、ですか。何を聞かれるのか、楽しみではありますね」

上品に笑うリリア。今、リリアの部屋には俺とリリアしかいない。リリアは楽しそうだが俺は聞きたいことがいっぱいで整理できないぐらいだ。

「まず、なんで俺を誘拐したんだ?」

俺は期待されていなかったとはいえ肩書は王子なんだ。誘拐なんかしたってどれほどの利益があるというのだろうか。

「君を、助けたかった。というのが一番ですね。アレク君と接触する前から城の内部に忍び込んで情報収集していましたが、君の暗殺計画を耳にしまして。それを阻止するために君を誘拐しました」

暗殺計画。初耳だ。でも、納得はできる。俺は生きていたって邪魔なだけだろう。

「俺のことは以前から知ってたんだよな?なんでだ?俺が外に出ることはあんまりなかったんだけど」

例の『魔法使い適性検査』の時ぐらいにしか城の外に出ていない。城の中ですら制限が厳しく特定の人間としか接していない。

「今はまだ伏せておきますが…君を調査するように依頼されたことがありまして。それで君の顔と魔力量、その耳を知っていました。詳しく調べたのは誘拐の前ですね。研究資料の奪還のついでに救出できるならしておこうかと思い接触しました」

事前に俺のことを調べられていた?俺を調査する必要のある人間なんているのか?

「君は、何者なんだ?ピリカとリリアの関係は?」

俺は同一人物だと思っている。二人から全く同じ匂いがしたからだ。今まであった人にそんな人はいなかった。

「そう、ですね。あなたには教えておきましょう。ウィルは知っていますが、マリーちゃんはまだです。いいですね?彼女が気づくまで、話してはなりませんよ」

リリアはそう言って部屋の奥、暗くなっているところに置いてある大きめのベッドに掛けられていた布団を引きはがした。

そこには、目を閉じて横たわるピリカの姿があった。

「それは…」

手招きされたので近寄る。遠くからだと眠っているのかと思ったが、違う。死んでいる。これは死体だ。

「ピリカ・トトニア…。正しくはピリリアルカ・グレート・トニアという名です。これは50年ほど前に三次世界大戦の戦場で死にました。終戦後、ピリカの弟子が遺体を回収して修繕を施し、同じ魂を持つ私の帰還を待ち望んでいました」

50年前に死んでいるというのにピリカの体からは死臭がしなかった。

「私がここに戻ったのは3年ほど前です。私は拠点らしい拠点は作っていませんでしたが、ここは一番弟子が住んでいた店なのでどうしてるのかなーと気になりまして。私が戻ると嬉しそうにこの死体を見せてきましたよ。本気で怒ったのはこの時ぐらいですねぇ」

自分の死んだはずの死体を見せられるのはなかなか堪えるだろう。というよりも…。

「リリア、的外れな疑問なら申し訳ないが、なんで生まれる前のことを覚えてるんだ?魔法使いってそういうものなのか?」

俺の問いが予想できないものだったのか、驚いた表情をしている。

「私は生まれる前のことを覚えているんですよ。最初に魔法使いになってから、ずっとね。どれほど前なのかわかりませんが、記録上は2000年ほど前ですかね。その話を弟子は覚えていて、体を保存していたのでしょう。年齢を若いころに固定していたのでここにある死体も若いままです。動かしてみせましょうか」

リリアはそう言って小さく呪文を唱えた。歌うように、それなりに長い呪文だった。

そのままリリアはピリカの枕元に座り、後ろに倒れこんだ。慌てて彼女を見ると、息をしていなかった。

「これが、俺とリリアのからくりだ。理解できたか?」

ピリカがパチリと瞼を開いた。灰色の瞳がこちらを見つめる。

「理解、できない」

ゆっくりとピリカが体を起こした。まるで寝起きのようにあくびをする。

「俺はすでに50年ぐらい前に死んでいる。この体は死体だ。そして、リリアとして生まれ、この死体に乗り移ることで行動することができる。リリアが表の仕事、つまりは町の人間の人助けや領主としての仕事をしたりして、ピリカは裏の仕事をしている。町の警備隊の隊長や貴族連中から依頼される危ない仕事を請け負っている。この体はすでに死んでいるからな。動かなくなったらリリアに戻ることが簡単だから危ない仕事もできる」

ピリカが自身の胸に手を当てすらすらと答える。死体だからできること、なのだろうか。

「最初は使うつもりはなかったんだが、ウィルが父親を欲しがったからな。あいつを安心させるためってのもある。……今の話、内緒だよ?」

口に手を当て、シーと動作をする。ピリカが恥ずかしそうにはにかむ。ピリカとウィルは同じ髪色だからか。

「多少年齢が上がったら伝えるつもりだ。本人は孤児だと知っているはずだがまあ、分かっていても心のよりどころは誰でも欲しいからな」

そう言いながら俺の頭を撫でるピリカの手は大きく、温かかった。

「俺を、どうするつもりだ?魔法を教えて、その後は?」

俺の問いにピリカは首を振るだけで答えなかった。教えられないのだろうか。ふっと意識を失うようにピリカが倒れ、すぐにリリアが起き上がって伸びをした。入れ替わったらしい。

「元に戻るために魔力は使いませんから早いんですよ。さて、そろそろ教会に行きましょう。マリーちゃんの契約をしないといけませんからね」

リリアはそう言ってさっきのピリカと同じように俺の頭を撫で、手を引いて部屋を出た。


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