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アレクとマリー

「じゃあ、始めましょうか」

食事を終えた俺たちにリリアが微笑んだ。

2階に連れていかれ入ったことのないリリアの部屋に通される。

リリアの部屋は一人用のベッドといくつかの棚、向かい合わせに設置されたソファがあるだけの部屋だった。物はきちんと仕舞われ綺麗な部屋だった。

「そこのソファに座ってください。棚のものには触らないように。危ないですからね」

リリアはそう言って棚から紙を取り出した。真っ白な何の変哲もない紙だ。何も書いていない。

「『魔法使い適性検査』は、どんなものでした?私は受けていないので」

俺たちが座るとその正面に座り紙を二枚机に並べた。

「大きくて透明な魔法石に手を当てるだけだった。大人はその石の反応を見て合否を決めていた。合格者は白く濁るか黒く濁っていた。リリアは受けていないのに魔法が使えるのか?」

俺は自分が受けた検査を思い出した。でこぼこの加工されていない魔法石に手を置いただけで何が起こるのかと期待していなかったが、目に見えて変化したため自分の番が来るのをワクワクしてみていたものだ。結果は不合格で何も起こらなかったが。

「なるほど。私はすでに魔力を持っていることを知っていましたので。学園には私の敵となる魔法使いが多いのでまだ向かう気にはなりませんね」

リリアはそう言って紙に手を置き呪文を唱えた。ふわりと甘い匂いが増す。お菓子のような匂いだ。

「二人とも、それぞれ紙に手を置いてください。いいと言うまで離さないように」

リリアの言葉に頷き手を置く。隣にいるマリーも同じように手を置いた。

すると、紙が光をまとった。うっすらと自ら光だし、マリーが驚いた声を漏らす。

「ふむ。やはりアレク君は魔力があるようですね。私と同等か、それ以上の」

俺が手を置いていた紙には見たことがない文字が書き連ねていた。俺には読めない文字だ。マリーの方にも同じ文字が書いてあるが、俺より量が少ない。

「なんで、『魔法使い適性検査』に合格しなかったんだろう」

俺がつぶやいた。最強と言われるリリアと同じぐらいの魔力を持っているのに。

「魔力が多すぎると結果が出るのに時間がかかるんです。もう紙から手を放していいですよ」

つまり、俺は結果が出る前に魔法石から手を離したから、何も変化がなかったってことか。俺とマリーが手を離すと紙の光は弱まり、やがてただの紙に戻る。文字は紫色でインクがまだ乾いていないようにきらきらと輝いている。

「あの…私は、どうでしたか?」

隣のマリーが不安そうに聞いた。マリーは俺のついでに調べたのだろうが魔力は持っているのだろうか。

「えっと、名前はマリーちゃんでしたね。マリーちゃんに魔力はありません。代わりと言っては何ですが、秘術適性が高いですね。医術について極めれば職に困らないとは思いますが…」

リリアの回答はマリーにとって期待通りではなかったようだ。シュンと落ち込んでいる。

落ち込むマリーにリリアが慌ててフォローする。

「あっあの…気にしないでくださいね。半分ぐらいの人は魔力を持たないので。魔法が使えなくても、貴方を無理に追い出したりはしませんから」

リリアの声にほっとするマリー。彼女も、帰る家がないのだろうか。

「マリーちゃんは神からの加護が付いていますね。私のところでなくとも、医術を教えてくれるところはありますよ。むしろ私は医術が専門外なので術師を紹介しますけど…」

リリアが少し困った様子で話す。神からの加護がどれほど貴重なものかわからないが、俺は聞いたことがない。

「リリアさんに…教わりたいです。フォーチュンからは何も言われてませんけど…」

マリーはまだ不安そうだ。リリアが困っているからだろうか。

「そうですか…。わかりました、ならこの後教会に行きましょう。医術は神と契約する必要がありますので」

困っていたのは今後の計画についてのようだった。俺も医術については詳しく知らないため口出しができない。

「神…?宗教的なことですか?私、特に神様を信じてないんですけど…」

マリーが不思議そうな顔をする。神に会ったことがないのだろうか。

「信仰は自由だよ。神も人間なんてどうでもいいて言ってたし」

俺があったことがあるのは小さいころだ。『魔法使い適性検査』を受ける前。


「君が新しく生まれた猫の子だね」

俺のこの獣のような耳は生まれた時から生えていたわけではない。最初は耳らしいものがなかった。普通の、人間のような耳すらない。なのに音は聞こえていた。

「猫の子って、なあに?」

周囲を見回しても何もいない。いつもの自分の部屋だ。耳がないのは身体的欠損であるため俺に王位を継がせる気はないらしく、兵舎の中にある一室をあてがわれた。狭い方が落ち着くためそれでよかったが出かけるたびに見張りの兵に行き先を聞かれ俺が王子だと知らない新米が遊んでくれたりたわむれに知識を与えられたりしていた。

今だって部屋でおとなしく兵士から貰った本を読んでいた。内容は軽いが言葉が難しく読むのに時間がかかる本だった。

「君のことだよ。アレックス」

どこからか聞こえる声は続ける。男の声だ。猫とは何だろうか。生き物か?

「俺のこと?」

理解が追いつかない。本を閉じてどこから聞こえるのか探ってみたがさっぱりわからない。

その時、開けたままにしていた窓から誰かが入ってきた。もう、顔は覚えていないけど藍色の髪がきらきらと日の光に照らされていて綺麗だったことは覚えている。

「初めまして。君に加護を与えに来たよ。俺じゃなくて、この子がだけど」

彼はそう言って肩に乗る生き物の喉を撫でた。生き物は気持ちよさそうに目を細めている。

「わらわは人間などどうでもよいがな、直々に来てやったのだ。感謝するがよい」

舌足らずな少女のような声だった。その生き物は白い毛皮で被われており、瞳は黄色で三角の耳と長くて細い尻尾を持っている。

「この子は水の神だ。君に加護を与えるんだって。でも与えられるのはこの子の加護じゃないけど」

男はそう言って肩に乗る生き物の首を掴み俺に差し出してきた。生き物は不服そうな声を漏らす。

「わらわをこんなに雑に扱うのはお前ぐらいよ。まあいい。さっさと済ませねばな」

生き物はそう言って前足を器用に動かし手招きのような動作をした。不思議に思いながらその生き物に近づくと俺と生き物の鼻をチョンと触れ合わせた。それだけで、自分の中に何かが流れ込んだとわかる。

「今、何を…?」

俺が問いかけても男は静かに微笑むだけで何も答えなかった。

「君に幸福が訪れることを祈ってる。お前の神に、いつか会えるといいな」

男はそう言ってそのまま窓から出ていった。静寂が部屋を包む。

「俺の…神?」

よく理解できなかった。あの白い生き物が俺に何をしたのか。

「アレックス?どうかしたのか?」

俺とよく遊んでくれていた兵の声がした。今の会話を聞いていたのだろうか。部屋のドアを開け、すぐそこにいた兵に答える。

「今、男が来たんだ。水の神?を連れていて、俺に加護を与えるとか言って…」

俺の姿を見るなり、ヒッと声を上げた。ついさっきまで遊んでいたというのに。

「神の…加護?まさか、その耳は…」

恐る恐るという感じで兵は俺の頭に触れた。彼の手が髪に触れる前に、何かに触れられた感触があった。たしかに、今までそこには何もなかったはずの場所だ。

「猫の姿をした神は各地に多く存在している。この国にも確認できているだけでも二人存在している。その神からの加護を受けたものは神の力の一部を使えると聞くが…」

気になって同じ場所を触れるとふわふわの獣のような感触がした。丁度、さっき見た白い生き物のような。

「……私の一存ではどうすることもできない。報告は済ませておくから、アレックスは今まで通り過ごしているといい」

兵はそう言って通りがかった兵に見張りを変わらせどこかへ走っていった。報告に向かうのだろう。

「なあ、猫って何?」

見張りを変わった兵は知らない顔だった。子供の俺が見張られていて驚いているようだったが、俺の質問には答えてくれた。

「絶滅したと言われている生き物だよ。幻想種って呼ばれててすごく数が少ないんだ。丁度、君の頭についてる耳も猫のものと似てるよ。珍しいから、怖がる人も出るかもなあ…気にしないでね?」

どうやら優しい人だったらしい。俺はお礼を言って部屋に戻った。備え付けの鏡を見ると、俺の頭に黒い耳が生えてるのがわかった。

「これ、耳…なのか。普通の耳じゃないなら、どうせ王に認められることはできないだろうな」

触ってみるとふわふわとしていて暖かい。動くし感覚もある。これ、ずっと俺の頭についたままになるのか?

その後、獣耳を見たことのない従者に恐れられるようになるまで、時間はかからなかった。


「そうですね。神はあくまで好きな人間の手助けをするだけですから。加護は特に気に入っている人間に与えます。マリーちゃんと、アレク君もですね」

リリアが俺の発言の補足をする。俺に加護があるってこと、なんで知ってるんだ?検査に出たのだろうか。

「じゃあマリーちゃんと話があるので、アレク君は部屋を出ていてもらえますか?ウィルと魔法について勉強していなさい」

リリアが俺の紙を渡しながらそう言った。マリーは素性もよくわからないしその辺を聞くのだろうか。

「わかった。終わったら教えてくれ。俺もリリアに話があるから」

俺が答えるとリリアが頷いて手を振りマリーも微笑んだ。


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