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エミリア・トレバー

ウィルから渡された帽子で耳を隠すことは出来た。不自然に盛り上がっているがまあデザインとしておかしくない程度だからいいだろう。

ウィルとマリーと共に外に出る。夕方に見た街並みと違い慌ただしさと爽やかな朝の風に溢れていた。地面は石畳で舗装されている。おそらくこのあたりの地面は人間用に舗装されているのだろう。

「ここは車は通らないのか?」

俺がウィルに問いかける。そして、ウィルが答える前に

「え?車があるの?」

とマリーが疑問を口にした。ウィルは苦笑いしながら

「車は王都と長距離移動の時しか使わないよ。アレクはともかくマリーちゃんはよく知ってるね」

と言って俺とマリーの手を繋ぎ歩き出した。迷子防止のためかな。

「えっ…何となく、かな?」

少し赤く頬を染めたマリーが気まずそうに俺を見る。そんな目で見られても…。

「ウィル、案内役が両手ふさがってちゃダメだろ。俺が真ん中になる」

話題を変えよう。マリーはどうやら街並みが気になるようでキョロキョロしている。これは確かに手を繋いでいた方が良さそうだ。

俺がウィルの手をほどきつないだウィルとマリーの間に割り込む。

「なんだ、マリーちゃんと手をつなぎたかったんなら早く言えばいいのに」

ウィルがくすくすとこらえるように笑う。どうやら俺がマリーと手をつなぎたがっていると勘違いしたらしい。

「ばっ!そんなんじゃないって!」

慌ててウィルのか軽口を否定するとマリーが戸惑いがちに俺の手握る感触を感じた。驚いて振り返ると頬を赤く染めたマリーが手を握ってはにかんでいるのが見えた。つられて自分の頬も熱くなるのを感じる。

「わかったわかった。マリーちゃんはお前に任せるからさっさと買い物を済ませて家に戻ろう。午前中で全部揃えないといけないんだからな」

俺の空いている方の手を取って引っ張るように街を進んでいくウィル。曲がり角を曲がろうとしたとき、小さな女の子とぶつかって少しよろけた。少女の方は走っていたようで息を切らしている。

「あっ!ごめんなさいっ!よそ見してて…!」

謝っている間もしきりに後ろを振り返り気にしている。ぺこぺこと頭を下げる幼い少女にウィルは

「スリは感心しないな。誰の命令だ?」

と言ってスカートのポケットを断りもなくまさぐり中から薄いベージュ色のポーチを奪い取った。おそらくウィルの持っていた財布だろう。

「ヒッ…!……ごめんなさい!!」

少女はウィルに、というよりウィルの背後に謝るようにして逃げるように走っていった。ウィルは後ろを振り返り何もない路地裏であるのに小さく舌打ちして

「アレク、マリーちゃんを連れてトレバー洋服店に行け。トレバーさんに俺からそこで待っているように言われたと言ったら待たせてもらえる。すぐに行くから!」

と俺に叫ぶように伝え、走り出した。少女が走っていった道を人込みをかき分けながら。

「……アレク。トレバー洋服店って…どこにあるか、分かる?」

残されたマリーが不安そうに聞いてきた。それもそうだ。マリーはこの国の名前はおろか言語さえわからなかったんだから。

「わからないけど、聞いて回ればいずれたどり着くよ。行こう」

俺も文字はそんなに読めないけど看板の文字ぐらいはわかる。それに俺とマリーの見た目は10歳前後に見えるから子供のお使いと思って優しくしてくれる人も多いだろう。

控えめに俺の手を握り返すマリーがかわいいが店を見つけるのが先だ。とりあえず近くにいた若い女性に声をかけよう。しっかりとした服を着てるし変な人ではないはずだ。

「美しいお姉さま。道を尋ねたいのですがよろしいでしょうか?」

子供らしい声で女性に声をかける。優しそうな微笑みを浮かべた女性は子供だけでいる俺たちに不思議そうな顔をしながら

「ええ、大丈夫よ。お使い?どこに行きたいの?」

と言ってしゃがみ俺たちと目線を合わせてくれた。どうやら子供好きらしく俺の頭を撫でる。

「あの、トレバー洋服店っていうお店なんですけど…分かる…分かりますか?」

敬語は慣れない。城の従者としか会話したことがないせいだが。

「あそこならこの道をあっちにまっすぐに行って赤い服を着た人形が店の前に飾られてる店よ。大きい人形だからすぐにわかると思うわ。がんばってね、お兄ちゃん」

ぽんぽんと頭をたたいて立ち上がった女性。俺は男性が女性にお礼をするときの所作を思い出して

「ありがとうございました、レディ」

短く言って右手を取り、白い手袋の上から軽くキスを落とした。おそらく間違ってはいない。何度か見かけたから。

「まあ…。小さな紳士ね。私はケイト。この街の警備隊に所属してるから何かあったら教えてね」

嬉しそうに手を振る女性に困ったように笑い手を振り返しながら歩き出した。どうやら兄弟だと思われたらしい。髪の色は金と赤で全く違うし、瞳の色は同じ青だが俺は緑が混じるような青緑色だが、マリーは深い海のような青色だ。兄弟には見えないだろうに。

「あっ!アレク、あそこがお店じゃない?」

いつの間にか隣に来ていたマリーが前方を指さして示した。確かに赤い人形が見える。

「そうかもな。んー…うん。トレバーって書いてある。あそこが話してた店だろ」

次第に看板が見えてきた。大きく描かれた文字はトレバーと書いており、店の中を窓から覗いても素朴な雰囲気の店だ。おそらく庶民用だろう。

「……いらっしゃい。お使い?」

中から自分と同じぐらいの年齢に見える女の子が出てきた。おとなしそうな雰囲気の子だ。肩の上で切りそろえた茶髪が揺れる。

「…ウィルから、ここで待つように言われたんですけど…」

てっきり店主が出てくるものだと思っていた。女の子は扉を開いて俺たちが入りやすいようにした。

「入って。ママに伝えるから椅子に座ってて」

俺とマリーが中に入り、試着する人用なのか、いくつか椅子が置いてあった。マリーを座らせていると女の子が店の奥に入っていって中から母親らしい年齢の女性が出てきた。

「ウィル坊のお友達かい?待ってる間に採寸を済ませておこうか。お名前は?」

どうやらこの人が店主らしい。マリーと目線を通わせ、

「俺が、アレクで、こっちがマリー」

俺が紹介する。女性は俺とマリーの頭を撫でて

「よしよし、じゃあマリーちゃんから採寸するからね。アレク君はエミリアと遊んでな」

マリーの手を取ってカーテンで仕切られた小さな部屋に入った。そこで採寸するんだろう。

「初めまして。…私がエミリア」

さっき店に入れてくれた茶髪の女の子だ。他に客がいないからか俺のすぐ隣に座った。

「俺はアレク。エミリア…はここの子?」

遊べと言われても俺は人と遊んだ記憶があまりない。軍の下っ端の兵と話すことがあり退屈しのぎなのか何度か会話したり手遊びを教えられたりした。まともに教育を受けていないから俺の言葉使いが上品じゃないのもそのせいだ。メイドから何度か言葉使いの訂正されたが敬語を少し話せる程度でまだ覚えきれていない。

「…そう。アレクは、貴族の子?」

エミリアが帽子から出ていた俺の髪に触れながら問いかけた。そういえば自分で洗っていたものの使っているものはそれなりにいいものだったのかもしれない。髪がきしむようなことはなかったから。

「…まあ、そんなところ。ここは貴族は来ないの?」

特に嫌ではなかったので髪を梳かすように触るエミリアをそのまま好きなようにさせる。

「貴族より魔法使いのほうが多いわ。……リリア様がよくいらっしゃる店だからって」

ふうとため息をついて髪の束をまとめて編んだりとして遊び始めた。

「リリアが来るから?そんなに影響があるのか?彼女は」

リリアの行きつけの店だからと言って洋服が魔法に関係するのだろうか。

「彼女はこの街を管理されている方よ。それに、王都からわざわざこの街の彼女のもとに仕事を任せるために訪ねに来ることもある。彼女が…リリアがこの世界で最強の魔法使いだと、言う人もいるわ」

髪型が奇抜なことになったがエミリアが満足そうにしてるからまあいいだろう。

「管理?街を統治してるのがリリアなのか。それにしても最強の魔法使いか…」

随分と強そうな人に誘拐されたものだ。あの人は謎が多すぎてまだよくわからない。

「アレク君。マリーちゃんの採寸終わったから入っておいで」

カーテンの向こうから女性の声が聞こえた。そしてカーテンからマリーが出てきて俺の頭を見てぎょっとした。随分と変な髪形になったからだろう。

「あなたの髪、きれいね。そのまま長い方がいいと思うわ」

エミリアが少し申し訳なさそうにしながら俺の髪をほどいて元に戻した。癖はつかなかった。

「…ありがとう。切ろうと思ってたんだけど、そういうのならそのままにしておくよ」

男にしては長い髪だ。まあ後ろまで切るのは面倒で前髪しか切らなかったからだが。俺は腰のあたりまで伸びてしまった髪を梳きながらカーテンに入った。

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