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短編・ショートショート

悪魔とギャンブラー

作者: ギャンブラー

 俺はギャンブラー。どんな勝負も負け知らずで、その世界じゃ知らない者は誰もいない……と言いたいところだが、実際はなんとか日銭を稼ぐのがやっとという有様だ。やれやれ、現実は甘くないぜ。

 俺が道をぶらぶらと歩いていると、反対側から歩いてきた子供に声をかけられた。


「随分とお困りのようですね」


 何だか知らないが、やけに大人びた口調で話しかけてくる子供だ。俺は不審に思ったが、好奇心がわいたので話をしてみることにした。妙なことには首を突っ込む。これが俺のギャンブル道だ。


「人間ってのは何かしら悩みを抱えてるもんだぜ。大人をからかうのはよしな」

「助けてあげましょう」

「何?」


 俺は耳を疑った。


「おいおい。いったい何ができるって言うんだ?」

「はい。実はわたくし悪魔でして。あなたの願いを三つだけ叶えてさし上げることができるんです。もちろん、その後で魂をいただきますがね」


 はっ、馬鹿馬鹿しい。子供のイタズラか。

 俺は言ってやった。


「それじゃあひとつめだ。飛んでみせろ。もちろん、その場でジャンプするんじゃなくて、空中を飛ぶってことだぜ」

「お安い御用です」


 言うが早いか、その子供はふわっと宙に浮き、空高く飛んだのち、ぐるっと旋回してから元の場所に降り立った。


「さ、二つ目の願いは何ですか?」

「――おいおいおい!」


 し、しまった。なんてムダなことに願いを使っちまったんだ。

 俺は激しく後悔したが、過ぎたことは仕方がないと思い直した。それに、ただの子供が本物の悪魔だなんて誰が想像できる。

 なんにせよ、これはまたとないチャンスだ。

 俺は、じっくり考えてから次の言葉を口にした。


「悪魔だと言ったな?」

「はい」

「他の奴には見えてるのか?」

「いいえ、あなただけにしか見えないようにしてます」

「そうか」


 俺は言った。


「これは願いとは関係なく、単にルールの確認なんだが、俺の魂を取ると言ったが、それはいつの段階でなんだ? 寿命まで待ってくれるのか?」

「いえ。わたくしの場合、三つ目を叶えた直後に魂をいただきます」


 なんてこった。それじゃますます一つ目の願いがもったいなかったじゃないか。

 いや、だが、ものは考えようだ。願いを「寿命まで」という期限付きにすれば何の問題もない。

 俺は考えた挙句、ギャンブラーらしい結論にいきついた。


「これから俺がやる全ての勝負を、俺の勝ちにしてくれ」

「なるほど、分かりました」


 俺は早速酒場へ行き、カードの勝負をした。十数回やって全て俺の勝ちになったため、相手は全員捨て台詞を残して去っていったが、証明には十分だった。また、何度やっても勝てないとなるとあらぬ疑いをかけられるかもしれないため、勝負の回数を減らす必要があると感じた。

 俺は次の日から、あちこちに顔を出して少しずつ金を稼いだ。ある程度の金を稼ぐと、それを賞金として、「俺に勝ったらこれをやる」というふれこみで勝負をした。一日一勝負。もちろん全て勝った。そのうち、強い奴がいるという噂が広まったのか、対戦相手の格が上がったが、それにつれて自然とレートも上がっていった。それでも俺は負けない。いつしか俺は、大勢のギャラリーをひきつれた、街の名物男になっていた。


 ある日、俺はとうとう伝説のギャンブラーと対決することになった。普通に戦えば俺なんか足元にも及ばないだろうが、もちろん、今の俺は無敵だ。過去最高のレートとギャラリーのもとで勝負は始まった。

 俺は自分のカードを見た。間違いなくいい手だ。決着をつけるにふさわしい。


「悪いな。あんたの伝説は今日で終わりだぜ」

「ほう。やってみろ」

「さあ、ショウダウンだ」


 俺達は互いに手札をさらした。その途端、ギャラリーがざわつく。


「ああっ!」


 俺の叫び声は、ギャラリーの歓声によってかき消された。相手の手役は最高のものだったからだ。

 イカサマしているはずがない。イカサマした相手は、常に俺に気付かれるようなミスをした。だとすると、何だこれは。


「悪魔、おい、悪魔はいるか」


 俺は人目も気にせず、夢中で悪魔を呼んだ。しかし、奴は出てこない。

 いや、いた。

 ――ただし、相手側にだ。

 呆然としている俺を尻目に、そのギャンブラーは賭け金――俺の全財産に近い金――を持って立ち去ろうとした。


「ま、待て。今のは何だ。どういうことなんだ」


 そのギャンブラーは、ニヒルに笑うと、俺にこっそりと耳打ちした。


「この悪魔は、元々俺についてたんだよ」

「なに! だ、だが、俺だって契約……」

「残念だったな。先に言ったほうが強いってルールだ」


 呆然としていると、そのギャンブラーは続けた。


「俺は、悪魔にこう言ってやったのさ。『金に飢えたギャンブラーに話しかけて、金を稼がせてやれ。ただし、俺と戦うことになったら、そいつとの契約は白紙に戻し、俺に絶対負けるようにしろ』ってな」

「そ、そんなルールが……」

「あったんだよ。まあ、これからもギャンブラーとしてやってく気なら、ゲームのルールはきちんと確認することだな」

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