12話
買ってきたケーキをテーブルに並べ、私と部長はソファーで、春生ちゃんはカーペットの上にちょこんと座って食べ始める。
「このモンブラン美味しい」
春生ちゃんは部長オススメのモンブランを口に入れて目を丸くしている。
「でしょ〜、私の一押しなの」
そしてそんな彼女に部長は得意げに言った。
「お姉さんが食べてるチョコミントケーキも美味しそう」
「これの良さが分かるのね!一口どうぞ」
部長は更に気を良くして春生ちゃんにスプーンで掬った自分のケーキを差し出した。
それをごく自然に口にする春生ちゃん。
チョコミントケーキって美味しいのかなと思いながらその光景をぼんやり見ていると、モヤっとしたものが体の奥の方からせり上がってきた。
それにつられるようにずんずん沈んでいく気分。
せっかく美味しいケーキを食べてるのにこれじゃ駄目だと慌ててそのモヤモヤを意識の外に追い出す。
「部長と春生ちゃんは知り合いだったんですね」
「「え?」」
話題を変えようと口にした言葉に2人は同時に首を傾げた。
なんか思っていた反応と違う。
「私達さっき知り合ったばっかりよ」
「…え?」
「うん、さっき電車で初めましてした仲だけど」
「…え?!」
2人の言葉に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
さっき会ったばかりの人を数十分後には家にあげてるって…さすが部長。
「じゃあどういった仲なんですか?」
私の質問に2人は同時に対照的な表情をした。
部長はさっきよりも笑みを深くして、春生ちゃんはどこか気まずそうに目をそらす。
「この子が香菜に用がありそうな顔してたから連れてきたのよ」
部長は面白そうに春生ちゃんを一瞥して言った。
「用?」
「いや、その、…」
珍しく歯切れの悪い春生ちゃん。
何故か部長の方を向いて『おねーさん性格悪い』と恨めしげに呟いている。
「ええと…」
「…いつか話すから今は見逃して」
覚悟したように私の目を見て、その真剣な瞳とは不釣り合いな弱々しい声でそう言った春生ちゃん。
事情はよく分からなかったけれど頷くと、彼女は安心したようにへらっと笑った。
その年相応な笑顔が可愛くて胸がどきりと弾む。
(ああもう……)
そろそろ無視できなくなってきた感情に胸がいっぱいになって何故か涙が出そうになった。
相手は私より全然年下だし、まず女の子だ。
20代も後半に近づいてきた私が好きになっていい相手じゃない。
そう自分自身に言い聞かせても制御できない気持ちが苦しい。
いっそのこと捨ててしまえたら楽なのに。
「あ、そうだ」
思考の沼に沈みかけていた時、部長が急に大きな声を上げた。
驚いてビクッと身体が跳ねる。
それを見ていたらしい春生ちゃんがブハッと噴き出したのが視界の端で見えて、羞恥で身体が震える。
睨んだけれどあまり効果はないみたいだった。
「今日2人ともうちでご飯食べていかない?」
名案とばかりに部長は私たちの顔を見回す。
「やったー」
既にご馳走になる気満々の春生ちゃん。
身体を左右に揺らして顔に満面の笑みを浮かべている。
香菜も食べてくわよね?と有無を言わなぬ笑顔で迫ってきた部長を前に私はただコクコクと頷くことしかできなかった。
久々に続き書いたけどどんどん話が逸れてくような…