10話
途中で視点変わります
土曜日。
この前のお詫びなのか、部長が美味しいと評判のケーキ屋さんに連れていってくれた。
「ここのモンブランが美味しいのよ」
ルンルンという効果音が似合うぐらい上機嫌な部長は次々にケーキを選んで注文していく。
「そんなに食べるんですか…お腹壊しますよ」
「ふふ、半分は明日に取っておくのよ」
ちなみに部長が注文したケーキの数は8個。
うち半分を明日食べると言ってるけど、どう考えても食べ過ぎだ。
「ほら、私の奢りなんだからたくさん頼みなさい」
部長は珍しく太っ腹だった。
だから私も遠慮せず3個ほどケーキを注文する。
お店の中では食べられないみたいなので、部長の家まで行くことになった。
「心配なら貴女の家でもいいわよ」
と部長は茶化して言ったけれど、茶化せるぐらい元気になったんだからその心配はないだろう。
駅までタクシーを使い、そこから電車に乗る。
「冷房が効いてて快適ね」
「そうですね。…まぁ私たちここまでタクシーでしたけど」
むしろ冷房に当たっていない時間の方が短かいんじゃないかな。
休日だからか車内はそれほど混んでいなかったので、空いている席に部長と並んで座る。
ここから部長の最寄りまで15分ほど。
のんびりと外の景色を眺めていたら眠くなってきてしまった。
「起こしてあげるから寝てなさい」
うつらうつらしていたら、そんな私に気づいた部長が優しく耳元で囁いて肩を貸してくれた。
お礼を言って素直に肩を借りる。
柔らかくて適度に温かい最高の頭置きをゲットした私はあっという間に眠りの底に引きずり込まれた。
「ふふ、ほんとに可愛い子」
だから、部長優しく微笑んだのも、それを見ていた人がいたことも、私は全く知らなかったのだ。
「あの、隣いいですか?」
その声に視線を上げると、この付近の女子校の制服を着た女の子が目の前に立っていた。
すらっと伸びた背にちょっと着崩した制服。後ろでポニーテールにした茶色がかった髪の毛に、猫目が印象的な整った顔立ち。
と、ここまで冷静に観察したところでどうぞと隣の空いている席を示す。
「ありがとうございます」
少女は律儀にお礼を言って席に座った。
別に隣に座るぐらい断らなくても良いのにと思ったけれど、その思考はすぐに撤回される。
「香菜さんの知り合いなんですか?お姉さん」
その言葉に何でこの少女が私に声を掛けたか理解した。
「ええ、そうよ」
この子はどうやら香菜の知り合いのようだ。
それもそこそこ特別な関係の。
だってさっきから、というより初っ端から私を見る目が明らかに尋常じゃないもの。
香菜のあの鎖骨の跡を思い出し、私はにやりと笑った。
「ねえ、この後時間ある?」
少女が面食らったように身じろぎをした。
「うちに来ない?」
幸いなことにケーキは余るほどあるから1人増えたところでどうってことないのだ。