一夜の逢瀬から始まる恋
一夜限りの相手だと思っていた。
だから初対面の彼女に惜しげもなく裸体を晒したし、いつもの自分からは想像もできない嬌声も平気で上げた。
まぁそこにはお酒の力もあるんだろうけれど、今思い返せば後悔しかない。
そしてその後悔はもう会うことはないと思っていた人物を前にして、ピークを迎えていた。
(…うそでしょぉ…)
最初は見間違いかと思った。だって、あの時の彼女、私を組み敷いてあんあん鳴かせていたその人と印象がかけ離れていたから。
それに、あの時は大人っぽい服装だったし、少なくとも歳下だとは思わなかったのだ。
まぁ、今よくよく見れば思ったよりも幼い顔立ちをしているし、着ている物もよく似合っている。
対面に座る彼女も私を見上げてあんぐりと口を開けている。
まさか再開するとは思わなかったと書かれた顔に、ほんとにねと心の中で同意する。
「まじか…」
彼女の口が動くと同時に、そんな囁きが耳に届いた。
その言葉にも心の底から同意する。
(でもね…)
それと同時に、私は深く絶望した。
何故なら…
(未成年って犯罪じゃん…っ)
私の目の前に座る彼女は、ここら辺でも有名な私立の女子校の制服を着ていたから。
ズルッと、吊革を掴んでいない方の肩に掛けていたバッグがずり落ちた。
***
「はぁ…」
キーボードから指を離し、大きく息を吐く。
出社してからも今朝の出会いが頭の中をグルグルしていて仕事に集中できない。
「でっかいため息ねぇ」
甘いものでも飲んで気分転換しようと席を立った時、不意に後ろから声が掛かった。
「部長…」
「なあに〜、嫌なことでもあったの?」
振り返ると、相変わらずブラウスのボタンがはち切れそうになっているナイスボディな上司の姿があった。
「愚痴ぐらい聞くわよ〜」
間延びした特徴的な喋り方のこの上司、山塚部長は私の高校の先輩でもあり、今勤めている会社の直属の上司でもある。そして、ぼんきゅっぼんのどエロいボディと推定Fカップの豊満なお胸の持ち主でもあり、私が密かに揉ませて頂きたいと思っている相手でもある。
「いや、人様に聴かせられる内容じゃないんで」
「ふーん、そう言われると余計に気になっちゃうわねぇ」
ニヤリと意地悪く口角を上げる部長。
うーん、いなし方を間違えた。
「まあ今度お酒飲ませて聞き出す事にするわ」
なにやら物騒なことを言って部長は自分のデスクに戻っていった。
(部長も原因のひとつなのに…)
ワンナイトラブに至った経緯を思い起こし、部長の後ろ姿を恨めしく見つめる。
あの日、部長に付き合ってベロベロに酔った私はタクシーで送っていくという部長の言葉を断り、酔いを覚ますために歩いて帰っていた。だけど途中でやんちゃなお兄ちゃん達に捕まり、困っていたところをあの子に助けられ、色々あってラブホにゴーしてしまったのだ。
今考えると本当に考えなしだったと思う。助けてくれた人を誘ってラブホ連れていって…我ながら救いようがない。
まぁ、やってしまったことはどうにもできないし、割り切るしかないんだけれど。
明日から車両変えよっかなぁなんて考えながら、私はいそいそと自販機の元へ向かった。