タカシ、起床
いったいどれくらいの間、眠っていたのだろうか。
タカシが目覚めたとき、球体状の機械はすでに停止していた。
どれくらい未来まで、来てしまったのだろう。漠然とした不安がタカシをおそう。とにかく外の様子を確認してみよう。
扉のロックを解除し重たいドアを開ける。
「嘘だろ」
思わず、言葉が漏れた。タカシの目に飛び込んできたのは、見慣れた薄暗い部屋ではなく、鮮やかな緑と青だった。
耳に飛び込んできたのは、機械の音ではなく、鳥の鳴き声。
鼻に飛び込んできたのはオイル臭い部屋のにおいではなく、新鮮すぎる澄んだ空気だった。
いったいどれだけ眠ったら都会が森になるのだろうか。人工物がある気配も一切無い。どうしたものか。
タカシはのどが渇いていた。徹夜をしていたのでおなかも空いていた。
とりあえず、食料と水の確保から始めるか。近くに川がありそうな気配もないな。
あたりを見渡せる高台を探すか。街がどこかにあるかもしれない。探している最中に水や食料も見つけられる可能性もあるし、道もみつけらるかもしれない。
タカシの期待は即座に裏切られた。
いくら歩いても高台はおろか、斜面すら見当たらないのだ。
ならば、木に登るしかないか。
周りを見渡し登りやすくかつ背の高い木を探す。タカシに木登りの経験などないが、非常時なので死に物狂いで登った。
人間、必死になれば意外と何でも何とかなるものだ。
木の頂上から、あたりを見渡す。
どこまでも果てしなく平坦な土地だった。遠くにかすかに山が見えた。
いったいどれくらいの距離があるのだろうか。山があるということは川があるかもしれない。川があると言うことは水と食料が確保できるかもしれない。
タカシは、山を目指すことにした。