007 生産と交渉
遅くなりました。
最近見直しと修正でどんどん時間が取られています。
誰かもう少し上手い書き方が有ったら教えてください。
薬草を刈ってきた翌日、トアとフラドはトアの部屋で作業をしていた。
二人揃って回復薬の作成中である。
昨日少量の薬草を道具屋で安値で売り払い回復薬の作成方法を書いた紙を貰った二人はそれを元に作業を進めていたのだ。
「わしも昔違う世界で作った事は有ったが、こんな手順ではなかったがのぅ」
「そうなのか?薬を作るのにどんな違いが有るんだ?」
「うんむ。例えばわしの居た世界では魔石を粉末にして薬草と供に磨り潰し、適量の水と合わせる事で作っていたのだが、この世界では薬草を沸騰させたお湯に浸し冷めた所に磨り潰した薬草を更に投入するこの製法は少々二度手間な気がせんでも無いのぅ」
そう言いつつも二人の作業は進んでいく。
程なくして二人は二〇本の瓶を作成していた。
緑色の液体が入ったマニキュアの瓶程の大きさの瓶が二〇本机の上に並べられていた。
様々な道具には少量残った回復薬の液体が付着し、何処かのマッドな研究室の様な雰囲気を醸し出していた。
「これが回復薬か…」
「うんむ。道具屋の店主が正しい製法を記していたのならば間違いなく、これが回復薬だのぅ」
「どうやってこれが回復薬かどうか確認するかだな」
「それならば問題ないのぅ。」
フラドは薬草刈に使っていた短剣を腰から抜くと自身の指を薄く傷つけた。
勿論そんな事をすれば痛いし血が出るというのにフラドは一切躊躇しなかった。
「ちょっ!何してんだよ!?」
「こうやって少し切った所に回復薬をかければ分かるのよのぅ」
フラドは瓶に入れなかった余った分を指にかけた。
するとみるみる内に傷が閉じていき指につけた傷は綺麗サッパリ無くなっていた。
回復薬はその効果を発揮したということで、回復薬の完成を意味していたが、それを確かめるのにももう少しやり方が有ったのではないかと思うトアの責めるような視線を何処吹く風で涼しい顔をしていた。
「回復薬が出来たことは良いんだけど、もうあんな事はするなよ?」
「ではどうやって証明するのよのぅ?」
「そこは町中なら滅多なことでは怪我なんてしないけど、怪我をする仕事が無い事も無いだろ?」
「それそうだが、どうする気なのかのぅ?」
「そこは任せてもらえるか」
「まぁ、良かろう。お前さんに任せるよのぅ」
朝食を食べてから部屋で作業を行っていた二人だが、慣れない作業の為時間がかかっていた事も有り、終わったのは昼を少し過ぎていた。
二人は少し遅めの昼食を摂ると町へ出かけていった。
「それでこれから何処へ向かうのかのぅ?」
「あぁ、剣闘士ギルドへ向かおうと思う」
「剣闘士ギルドはお前さんを要らんと突っぱねた組織であろう?
そんな所に行ってもまた門前払いを食らうだろうにのぅ」
何気に酷い一言にトアは若干顔を顰めるが自身も気がかりな事なのでトアは何も言い返せない。
「そんな目は止めて欲しいんだがのぅ…」
「まぁとりあえず行ってみるだけ行ってみよう」
町は、このところの魔獣の襲撃が増えている事も有り剣闘士達が慌ただしくしている。
そして剣闘士ギルドの中でも剣闘士達は日々の生活の為、家族の為命をかけて依頼をこなしていた。
中央通りを抜けて剣闘士ギルドに足を踏み入れるトアとフラド。
そんな二人の事を覚えていたのか受付嬢のサンドラさんは目を丸くして二人を見ていた。
前回と同様に掲示板やギルド内で情報交換を行っていた粗野な見た目の剣闘士達はトアとフラドを鋭い目つきで睨みつけている。
そんな剣闘士の視線も二度目ともなればそんな物なのだと割り切るように無視して受付へ進むトアとフラド
「こんにちはサンドラさん」
「こ、こんにちは剣闘士ギルドへようこそ。
フラドさんと……えっと…」
「…トアです」
名前を覚えられていない事にショックを受けたトアだったが、日々何十人と剣闘士を相手にしている受付嬢が名前を覚えていなくても仕方無い。
顔を覚えて居てくれただけでも優秀な受付と言えるのだが、やはりトアとしては少し悲しかったりする。
トアの悲しそうな瞳を見てしまいサンドラさんは少し申し訳なく感じたのか少し気まずそうな表情だ。
「こほんっ…剣闘士ギルドへようこそ。
トアさん、フラドさん」
先程までのやり取り自体を無かった事にでもするかのようにな物凄く眩しい笑顔を浮かべてサンドラさんが歓迎の挨拶をやり直した。
「それで本日はどの様なご用件でしょうか?」
「え?」
「本日は、ど・の・様・な・ご・用・件・でしょうか?」
表情はにこやかなのに思わず聞き返してしまったトアの目にはとても笑っている表情には見えなかったのだ。
と言うかちょっと恐い…
「……ちょっと教えて欲しい事が有るんです」
「どう言った事でしょうか?ギルドに関しての一般的な事でしたらお答え出来ますよ」
「そうですね。剣闘士ギルドでの回復薬の買い取り金額と、毎日の死傷者数とかですね」
「回復薬自体今は在庫が少なくなっているので、一本辺銀貨一枚ですね。
後は毎日の死傷者等は正確には把握しておりませんが、毎年この町でも三〇人程は死者や行方不明者が出ております」
「という事は月当たり大体二から三人はという事ですね…」
「正確には違いますが、年に一度乾季の頃に魔獣が大量発生する時期が一番被害が多くなるのでそれ以外は月に一人居るか居ないか位ですね。
ただ…」
闘神界フォルビスタの一年は一〇月でひと月が四〇日も有る。
すると一年は元の世界より三五日も多い事になる。
しかし、この世界の一日は二二時間しか無い為実質は四〇時間程少ないだけになる。
それでも月に二人から三人も死者や行方不明者が一つの町から出る事は中々多いのではないかとトアも思うが、魔獣の大量発生する時期というのも気になる単語だ。
サンドラは続けるように口を開く。
その綺麗な顔には悲壮感とも取れる眉根の皺と伏せられた目つきが現れていた。
「最近魔獣の出現頻度の増加で今年は既に例年の五倍にも被害が膨れ上がっています」
「え?ご、五倍ですか?」
トアは信じられなかった。
例年の五倍だと少なくとも月に一〇人以上の死者や行方不明者が居る事になる。
この町の規模は大きくない。
それなのにその規模の剣闘士達の死亡や行方不明者数ではこの町に剣闘士が殆ど残っていない事になる。
しかしこの世界の剣闘士ギルドはギルド同士が連携し、剣闘士を送り込んでいる為、実質のこの町の剣闘士の被害は二倍程度に抑えられている。
「そうです。日々の負傷者数も例年の五倍程で、毎日回復薬が品切れになています」
「それは…具体的にはどの位の数の負傷者が出てるんですか?」
「町の護衛兵に大半が抑えられているので回復薬自体の数は少ないですが、二〇本が直ぐに売り切れてしまいます。
それでも帰ってくる剣闘士の大半が小さくない怪我を負って帰ってくるんですよ。
今現在残っている剣闘士が五十名程で、内三十六名が負傷して帰って来る始末です」
「そんなにですか。
八割もの剣闘士達が…」
「そうですね。このハビーリの町では三百名程の人口なので剣闘士の数自体は多いのですが、ギリギリで依頼をこなしている状態ですね」
八割の剣闘士が回復薬が手に入らず負傷して帰ってきては怪我を治して再度依頼を受けている。
それを聞いたトアは現状に絶望しつつ脳内で回復薬の販売と生産を急ぐ必要が有ると考えていた。
「剣闘士の数を考えると今の状況は歓迎出来ませんね」
「少なくとも派遣されてくる衛兵達にまわしている回復薬をもう少し剣闘士達にまわせれば被害を抑えられるんですけどね…」
「そういう事でしたら、一つご相談が有るのですが如何でしょうか?」
回復薬の不足。
つまり需要が大きく供給が間に合っていないのならばトア達が回収してきた薬草を回復薬にして販売出来れば資金の確保と町の剣闘士達の生存確率を上げることが出来ると結論づけた。
プランナーの仕事とは市場調査とプランの提示が主な仕事内容である。
それならば今得た情報からはどれだけの収益が見込めるのか用意に計算出来たのだ。
「えっとどういう事でしょうか?」
サンドラとしては剣闘士でも無い人間に今の現状をどうにか出来るとは思えないのか不思議そうな表情をトアとフラドに向けつつとりあえずどの様な内容なのか聞いてみる事にした。
「簡単な事です。
先日俺達で薬草の採取を行ったのですが、回復薬を買い取って頂けませんか?」
「えっと、トアさんは剣闘士ではないので、フラドさんからという事でしたら可能ですが、実際に効果を見てからでないと判断しかねます」
「勿論効果を確かめてもらう為に五本程お譲りします。
それを元に判断してもらえたら良いです」
そう言いつつトアはフラドから渡されたカバンから回復薬を五本取り出す。
勿論パンドラボックスから出しているのでカバンはあくまでフェイクだ。
受付のカウンターに置かれた小さな小瓶が五本。
それを見てサンドラさんは手に取りじっくり見ている。
「これは…分かりました。
では本日の帰還者の負傷者に使用して効果を確かめてみます」
「それでは俺達はこれで失礼します。
また明日来ますのでよろしくお願いします」
五本の回復薬をサンドラに渡してトアとフラドは剣闘士ギルドを後にする。
ギルドから出るとトアは大きな溜息をついていた。
「はぁー…き、緊張した…」
「中々の手腕だったのではないかのぅ」
「あぁ、ありがとう。
それにしても剣闘士ギルドって思ったよりも被害が出てたんだな」
「それはそうであろう?
命を張っておるのだしのぅ。誰でも出来る仕事にそれほど高い依頼料は出さんものだのぅ」
「それもそうか…
でも悪かったな。勝手に回復薬をタダで渡して」
「それも必要な事だったのだろう?」
「勿論だ。
一本だけ回復薬を渡してもそれ以降本物かどうかなんて相手は分からない訳だから、それなりに高価な物を複数個渡す事で相手の信用を得るのは大切な事だよ」
「なるほどのぅ。
まぁ、その辺りはお前さんに任せるのぅ」
小さな信頼の積み重ねがチームワークにおいて非常に重要な事だとトアは考えていた。
それはゲーム会社時代に培った経験からだ。
どんなに腕の立つプログラマーで有っても、どんなに魅力的な絵を描けるグラフィッカーで有ったとしても、納期に間に合わせない、プランナーやディレクターの指示を全く無視するような者達の事など誰も信頼しなくなり、仕事を回したくなくなるのだ。
だからこそ信頼を得る為にも損をしてでも信頼を積み上げる事にしたのだ。
「あぁ、回復薬の効果自体はフラド、あんたが身をもって見せてくれたから大丈夫だろう。
後は明日を待つだ……」
剣闘士ギルドを出た後宿に向かって有るき出そうとした。
だが、そんなトア達の前に、正確には剣闘士ギルドへ慌ただしく向かってくる集団が目に入る。
「ほらっ!さっさとついて来い!屑拾いの同行を許してんだから」
「全く…グズグズしないでよね」
「はぁはぁ…」
剣闘士らしき男女が二人と見るからに重そうな荷物を背負った荷物持ちらしき女の子が一人。
身体と同じくらいの大きさのカバンを背をっている為その歩みは遅く、それが剣闘士の男女には煩わしく思っている。
ただ、剣闘士達は自分達が荷物を持つ事など全く考えていない。
勿論自分達の移動速度が落ちる事で攻撃力が落ちる。
それではパーティが全滅してしまう事になり、それこそ本末転倒である。
だが、見逃せない事が一点有る。
荷物運びの女の子の左腕と左腹からは血が流れている。
「ぐっ…」
女の子の顔色は非常に悪く、青白く弱々しくフラフラとした足取りで二人の後をついて歩いている。
しかしそんな女の子の体力も町に入った事に安心したのか遂には限界を迎えて剣闘士ギルドに入る前に荷物に押しつぶされるように前のめりに倒れ伏した。
「ちょっとー。使えないわねー」
「あぁん?何だよ、こんな所でへばっちまったのかよ。もう良いから荷物だけ寄越せ。
こんな仕事も出来ないんならお前の取り分は無しだからな」
仲間で有るはずの女の子が倒れてしまったにも関わらず、剣闘士の二人はつまらないものを見るかのような視線で女の子を見つめた。
そして倒れた女の子の心配等せず戦利品の入ったカバンだけを片手で担ぎ上げ剣闘士ギルドへ入っていった。
残ったのは血を流し、顔を青くしている女の子と周囲で迷惑そうな目で剣闘士二人の後ろ姿を見る町の人達と女の子を心配そうな目つきで見つめる人達だ。
「っおい!大丈夫かっ!」
そんな町の人達も女の子が怪我をしているにも関わらず手を貸すような素振りは見せもしなかった。
ただこの様な事が日常茶飯事なのか潮が引いていく様に元の風景に戻っていく。
トアはカバンに手を突っ込み回復薬を取り出すとうつ伏せに倒れていた女の子を抱きかかえ仰向けにして傷に回復薬をかけていく。
怪我をしていた左腕と左腹の傷はみるみる治っていくが、失った血は帰ってこない。
トアはフラドを見つめるとフラドは頷きを返した。
「とりあえず宿に連れて行くかのぅ」
とりあえず回復薬で怪我は治したが顔色の悪い女の子を道端に捨て置くなんて事はトアには出来ない。
だが休ませようにも町に来て日が浅い二人は自身の泊まる宿で休ませることにした。
評価を頂きました。
ありがたい事です。
沢山の方々の目に触れてコメントや登録をして頂けると幸いです。
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