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ハーモニー・オブ・ゼロ  作者: ヒエゾー
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006 恐怖と運搬手段

遅くなりました。

まだまだ序盤で登場人物達も少ないですが盛り上げてまいりますので今しばらくお付き合いください。

 芦屋トアは途方にくれていた。

 一通り花を刈って一箇所に花の種類毎に集めていたのだが、花の量は軽く小山を思わせる物程になっていた。

 刈っている時は気付かなかったが、これだけの量を持ち帰る為の用意を全くしていなかったのだ。

 それに先程の戦闘を目の当たりにし、この世界の過酷さを思い知ったのだ。


 先程の戦闘。

 フラドが何やら呟いた後長杖の先端に幾何学模様が現れ、蛇口から水を流したように流れ出したかと思えば、地面でバシャバシャと水たまりを作らず足元でとぐろを巻き出した。

 それは水の原理とは全く異なる異様な光景で、まるで透明なホースがそこに存在しているようにそこに有った。

 しかしその透明なホースの中の水はよく見ると激流の如く透明なホースの中を流れている。


 そんな不思議な光景を警戒しながらも周囲を回っていた五匹の赤い犬達はジリジリと距離を詰めている。

 相変わらず残りの一匹は森から少し出た辺でこちらの様子を伺っている。


 フラドは最後に「ロア・グ・アークト」と一声発すると長杖を自身の周囲から頭上に掲げながら水流を周囲へ三度回す。

 当然水流の鞭はフラドを中心として遠心力の助けも借りぐるぐると周りを取り囲んでいる赤い犬達目掛けていく。

 水流は鞭の様に勢いをつけて周囲に居た赤い犬達へ打ち込まれるが、本来打ち込まれて弾き飛ばされると思われた水流の鞭は赤い犬達をすり抜ける様に通り過ぎてフラドが腕を止めると中空へ霧散していった。

 赤い犬達は己の身に衝撃がこなかった事を不思議に思うような素振りを見せ立ち止まっていたが、再度周囲を回るように有るき始めた。

 その行動がいけなかったのか、水流の鞭が通り過ぎた部位がズズッとズレだし水平にスライスされた形で崩れだした。


 赤い犬達は何が起こったのか理解できずに痛みを感じると供に短い悲鳴を発し命の灯火を散らしていく。

 それは魔法という物が無い世界だからこそ当然の事だろう。

 初めて見た魔法で実害が無さそうな水で有ったことも有った為避ける必要は無いと判断したのだ。

 事実こちらを警戒して離れて見ている個体は何も脅威を感じておらず五匹に指示を出していなかった。

 その結果は今トア達の周囲でスライス状に倒れて絶命している赤い犬達が物語っている。


 魔法。

 それはこの闘神界フォルビスタには存在しない力。

 初めて見る魔法が炎の様に一目で脅威たり得たならばその選択肢は回避や撤退も考えられていたが、現れたのは水だった。

 この世界でも勿論水は存在し、大雨や津波等の自然災害規模の物ならば警戒していたが人が作り出した程度の水だ。

 バケツで水をかけられても少し濡れる程度で死ぬわけではないし注意はすれど警戒する程の物では無いと思ってしまっても仕方のないことだろう。

 しかしフラドが作り出した水流の鞭は透明なホース状の鞭で、その中では水流が高速で流れている。


 現代の地球でも『ウォーターカッター』と言うものが有り、物体を水の圧力を高めて針の様な細さで一気に放出すると物体を切り裂く事が出来る。

 原理は同じで言わばこれは鞭のように太く見せているが、実は水流の鞭の内部を目で追いきれない程の速度で高速移動させている水流の刃だったのだ。

 勿論物体に当たった直後通り抜ける為にその体積を極限まで細くしたため打つのではなく切ると言う現象を引き起こしていた。


 そんな初めての攻撃に対して対応出来る筈もなく小手調べとして送り出された赤い犬達の結末を見届けた個体は警戒を露わにし森の中へ去っていった。


 しばらく逃げていった個体の方向をじっと見ていたフラドだったが、遠くから遠吠えが聞こえた後表情から緊張が抜け落ちていつもの顔に戻っていた。


 トアはそれを間近から見ていたのだ。

 それは戦闘等と呼べるものではなく、一種の殺戮劇の様なものだった。

 トアにとっては腰が抜けるほどの思いをした魔獣を相手にフラドは一歩も引かず初めて見る『魔法』と言う物で敵を軽く殲滅したのだ。


 トアは自身が置かれている状況に恐怖していた。

 この世界の魔獣と呼ばれる存在は人の生活を脅かし日常と隣合わせの存在で有るのだ。

 その存在がいる中で自身が生きていけるのか、そして今現在目の前で起こった戦闘。

 実際フラドが居なければあのような獣相手に勝てる様に訓練をした経験も無ければ特殊な力があるわけでも無いのだ。

 フラドが居なければ今頃は赤い犬達に食い散らかされて腹に収まっていた事だろう。


 軽口の様に体力を付けろと言われていたトアもつい先程までの山登りで体力が衰えていたことに内心焦りもしていたが、気楽に考えていた所が有った。

 しかし現実は理想とは程遠かった。

 一刻も早く体力を付け、自身の身を守れるようにならなければ、この世界で生き残れず元の世界へ帰る事など出来る筈が無いことが良く分かってしまったのだ。


 そして同時に敵として襲ってきたが生き物の命を謎の力でいともたやすく葬ることが出来るフラドの事も恐い存在だと思ってしまい血の気が引いていくのを感じたトアだった。


 しかし現実は残酷で、生きるためには仕事をし無ければならず先ずは目の前の二つの花の山を何とかしなければならずフラドに助けを求める事にした。


「フラド。

この花の山なんだけど、どうやって持ち帰るんだ?」


「そんな事、こうやるに決まっておるのよのぅ?

…サーチスタート……」


 そう言ってフラドは左の拳を花の山に向かって向け何か呟くと左腕に着けた腕輪から花の山に向かって幅広のレーザーのような物が当たる。


「……ターゲットロック…ヴィジュアライズ」


 すると眼の前の花の山が光の粒子の様になって腕輪に吸い込まれる様に跡形もなく無くなってしまった。


「なっ!何したんだ?ってかどうなって?」


 大混乱である。

 目の前に有ったはずの物が綺麗さっぱり消えてなくなってしまったのだから当然の事だろう。

 しかしフラドは何処吹く風だ。


「どうもこうもシーラスの花の小山を仕舞っただけだのぅ。

先程もお前さん用に買ったショートソードもこうやって仕舞っておったのを見ておらんかったのかのぅ?」


「え?一体いつの間に…と言うか仕舞った?消えたように見えたけどどうなってんだ?」


「ふむ…まぁお前さんも此処で暮らしていく以上荷物を持つ事も増えるだろうしのぅ…」


 そう言いながら腕輪を口の前に語りかける。


「リアライズシステム・オン……コード『パンドラボックス』…ポイントZ0.01セット。

リアライズ」


 フラドが左腕の腕輪に語りかけた後左腕を前にかざすと腕輪から光の粒子が腕輪から十センチ程前に集まり腕輪の形を形作っていく。

 光が消え去った後には腕輪が出現し、自由落下に任せて地面に落ちる前にフラドが右手でキャッチした。


「ほれ。これをお前さんにやろう」


「…これは?」


 当然の疑問である。

 いきなり光が集まったかと思ったら腕輪が出てきたのだ。

 しかもよりにもよってフラドとペアルック。

 何が悲しくておっさんと同じものを身に着けなければならないのだという思いも有るがそれよりも手渡された腕輪がフラドの腕輪と同じ効果を持つものなら複製したのか、『アイテムボックス』的な何かなのか知っておきたいと考えたトアだった。


「うんむ。

これは科学とやらが発展した世界で見つけたんだがのぅ。収納カバンの様なものだのぅ」


「収納カバンかー。便利な物を持ってるんだな」


「どんな原理で動いとるのかは知らんがのぅ。

便利だと思い幾つか買っておいたのよのぅ」


「へー。で、どうやって使うんだ?」


 地球においてはオタク文化に広く触れていたため相手うボックス等の便利なアイテムや魔法の知識を持っていた為に目の前のアイテムをすんなり理解する事が出来ていた。

 また先程までの花の山に途方に暮れていた事も、魔獣に襲われた恐怖よりも目の前に出された新しいおもちゃを見せられた子供のように目を光らせて忘れてしまったトアが興味津々の様子で腕輪の説明を求めた。


 曰く収納したい物をレーザーによる識別、解析を行い、物体を仮想データに変換。

 変換した仮想データをヴィジュアライズする事で腕輪のライブラリに保存する事が出来ると言う事らしい。

 フラドが言うには腕輪に内蔵ライブラリには限りが有るとの事だが、それも星単位の物量を数個分は仕舞えると言うのだから驚きを通り越して感動してしまうトアであった。


「星を数個分も収納出来る腕輪とか…

規模が大きすぎてすげーな」


「そうであろう?わしもこれを見つけた時は心が踊ったものよのぅー。

さて残りのユポンの花を回収して町へ戻るかのぅ」


 そう言って先ほどと同様に花の山を回収していくフラド。

 腕輪への興味は尽きないが今は魔獣が闊歩している領域を少しでも早く離脱する必要が有ることも確かなので腕輪をポケットに仕舞いフラドに続いた。





 日が山の向こう側に沈む頃フラドとトアは町に戻ってきていた。

 道を歩く人々は帰路を急ぐものや仕事を終えて酒場へ向かう者達を横目にフラドとトアは道具屋へ訪れていた。


「おおぉ!本当に薬草を採ってきてくれたのですね!」


「うんむ。量は少々少ないがどうかのぅ?

出来れば製法を見せてもらえると今後の旅で必要な時に役立つのだが…」


 フラドとトアは道中で話し合い決めていたのだ。

 摘んできた花の一部を道具屋へ卸し、残りは自分達で作って捌いて稼ぐことを。


「そうですね…良いでしょう。

製法についての本も販売されておりますしね」


 この世界の剣闘士達でさえ命の危険が常に付きまとう世界では薬学知識は非常に役に立つ知識であり、庶民達も少なからず怪我をする機会が多い。

 そんな世界では魔獣に関する本や薬草、戦闘知識等を記した本が一般的に出回っている。

 勿論本は全て手書きの物となる為一冊一冊が高値で取引されているのだが、大きな町には図書館が存在しており、そこでは庶民でも高価な本の知識を得ることが出来るのだ。

 そしてこの町には図書館が無い為知識を手に入れる方法としては本屋で購入する他無いが広く知られている知識ならばと言う判断をした主人は製法を教えてくれる事にしたのだ。


「ありがとう御座います。助かります」


「しかしあの場所には魔獣の群れが住み着いている噂が出ておりましたが無事なようで何よりです」


 おいー!何故それを早く言わない!!と内心叫んだトアだったが結局いく事になっていたであろうと思い直し、一瞬目を大きく開いただけで元の表情へもどした。


「いえ、赤い大きな犬の様な魔獣に襲われましたが、フラドが何か凄い魔…」

「いやー。何頭かの魔獣に襲われたが何とか薬草を少しだけ確保して逃げ帰ったのよのぅ。

それよりも夕食を摂りたいので製法を教えてもらえるかのぅ」


 トアの言葉を遮るようにフラドが作り話をする。

 フラドはトアの目を一度だけ見ると回復薬の製法について教えてもらえるように話を続けた。


 結局幾つかのシーラスの花とユポンの花を腰に下げたカバンから取り出し道具屋で売り払い回復薬の製法を記したメモを道具屋の主人から貰い受け店を後にした。


 店を出たトア達は拠点にしている宿屋へ足を向ける。


「フラド。何で嘘なんてついたんだ?」


「その事か…うんむ。

宿へ戻ってから話すとしよう」


「…?」


 フラドから説明は無かったが、フラドが使ったのは魔法だと考えている。

 魔獣に襲われた恐怖から話を聞く所では無かったが、嘘をつく必要が有ったのかトアの頭を疑問が埋め尽くしていた。


 少しすると拠点である宿屋へ戻ってきたトア達だが、酒場へは向かわずトアの部屋へ直行した。


 トアはベッドへ、フラドは備え付けの椅子へ座り小さなランプの明かりが二人を照らし出す中フラドが話し始める。


「この世界はお前さんの世界では無く、闘神界フォルビスタだと言った世界だのぅ。

この世界には覇闘気と言うものが地脈を流れそれを活用して人々が生活をしておる。

此処までは良いかのぅ?」


「あぁ。正直覇闘気ってのがよく分からないけど大丈夫だ」


「うんむ。わしはこの世界の住人では無い。

魔法世界ロスナワーズから来たのよのぅ。

そこでは様々な魔法が使われており、人々の生活には欠かせない物となっておる。

だが、この世界には魔法は存在しておらん故に魔法の存在が公になれば混乱が起こるよのぅ。

少なくともわしとお前さんはどうなるか…」


「なる程。この世界には無いはずの魔法なんて物が存在すればこの国が混乱を起して魔女狩りならぬ、魔法使い狩りが行われる可能性が有るって事だな?」


「うんむ。そうならぬように出来る限り魔法は使わんし、腕輪も見られぬようにダミーのカバンでごまかしたのよのぅ」


「分かった。

フラドの魔法については話さないよ」


「頼んだのよのぅ」


 少しこの世界の事を聞いた後二人は揃って酒場へとおりていった。

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