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ハーモニー・オブ・ゼロ  作者: ヒエゾー
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004 拒絶と日銭稼ぎ

「は?」


 唐突に何を言い出すかと思ったら実験台?どういうことだろうと考える迄も無く嫌な響きのする言葉に怪訝な表情を浮かべるトア。

 

「あぁ、実験台って言っても、血を分けてもらうとかそういった物で特に危害を加えるものって物でも無いから心配しないで良いよ」


「血?一体何のために?と言うか普通の人はどういった仕事をしているんですか?」


「生きている人間で覇闘気を微弱ながら検知出来ない事なんて初めての事だからね。

それを調べるって事もそうだが、新鮮な血液で覇闘気が含まれていない血から血清なんかが作れたらそれはそれで御の字って事なんだがね?」


「はぁ……(この人当たり障りないような事言ってるけどいまいち信じられないんだよな・・・)」


 身の危険をひしひしと感じているトアであったが意外な所から援護が入り驚いてそちらを見やることになった。


「くっくっく、それは冗談だが覇闘気が無い人間を実際にこの目で見るのははじめてのことでね。

兎も角だ、あんたを剣闘士ギルドで登録したとしても仕事を与えることなんて出来ないから、すまないけど他を当たってもらえるかい?」


 始めこそ伺うような態度をとっていた彼女だったが、明らかに拒絶を込めた視線を向けていた。

 町を一歩外に出るとそれだけで魔物が闊歩しており、自身を覇闘気で守ることが出来る者でも危険なのに、その覇闘気を検知も出来ない人間等足手まとい以外の何物でもなく魔獣にとって安全な餌でしか無いのだ。


 この世界において覇闘気を検知出来ない人間どころか生物や無機物においても存在していない。

 覇闘気の扱いは物心が芽生えた子供の頃から始め、同時に魔物の事を叩き込まれる。

 この世界では、それ程までに覇闘気を検知出来る事は当たり前の事だった。


 そして態度はともかく、このギルド長としての判断は当然だった。





 その後ギルドを後にしたトア達は一先ず他に金銭を稼ぐ為の方法を模索すべく町の中を探索し始めた。


「しかし覇闘気が無いからって雑魚扱いの挙句、門前払いとは…」


「まぁ無いものは無いで仕事の一つや二つ何とかなると思ったんだがのぅ」


「勿論俺がこの世界以外の人間だから無いのは仕方ないんだろうけど、仕事くらいはなぁ…」


「うんむ。とりあえず町の中で何か探してみんとのぅ」






 フラドの言葉に頷き通りを進む二人は剣闘士ギルドの向かいの通りに見える武器屋に向かって歩みだした。

 佇まいは町中の建物と同様に木を基調とした二階建ての建物で一階部分は石造りになっており、入り口の上には武器屋を意味する剣と斧を形どった標章がかけられていた。

 中に入ると雑然とした店内に所狭しと様々な形状の剣や斧等の武器が並んでいる。

 一部は樽に剣先を突っ込む形で鞘に収められたまま乱雑に入れられていた。


 そんな店内の奥にカウンターらしき場所から入り口に立つトア達に目を向ける男が気だるそうな雰囲気を払い近寄ってきた。


「いらっしゃい。どんな武器をお探しで?そちらの御仁は見たところ結構な体躯をお持ちなようですので、戦鎚や大斧などが宜しいかと思いますが…」


 そう声をかけてきた主人はトアに目を向け頭の先から爪先までを見た瞬間やや困ったような表情をし何かに思い至ったように話を続けた。


「隣の方は少々体躯が細身ですので、短剣や弓などが良いかと思われますが如何でございますか?」


 主人が一通りオススメを売り込んだ所でフラドがトアに向けて視線を向けた。


「そうだのぅ…ではそちらの小ぶりのショートソードを見せてもらおうかのぅ」


「ショートソードでございますか?

少々手に余るのではないかと思いますが…こちらでございます」


 主人は自身の勧めと違う選択にトアの体躯を見て訝しげな表情を浮かべたが、直ぐに気を取り直しショートソードが並ぶ棚へ案内した。

 主人の感情が表情にだだ漏れな事に内心で呆れているトアが、武器の購入を進めている事を不思議に感じていた。


「フラド?ショートソードなんてどうする気だ?」


「どうもこうもお前さんが使うに決まっておるだろうのぅ」


「はぁ?」


「この世界はお前さんが思っておるより安全ではないのだから、己の身を守る術も学ばねばならんからのぅ」


 そう言うとフラドは主人に進められるショートソードを見ながら、雑談を交えながら話を進めていった。


「時に主人よ。この者に何か仕事を与えたいと思っておるが何かないかのぅ?」


 突然仕事の話を振られた主人はトアを見やるが、直ぐに視線をフラドに戻して話を続けた。


「ここ最近町の周りで魔物の群れが多発しておりますので、剣闘士や武器防具なども大量に必要になり鍛冶師なども不足しておりますが、そちらの方のような方では…お力になれず申し訳ございません」


「そうか…いや、すまんのぅ。

とりあえずそっちの小ぶりのショートソードを一ついただこうかのぅ」


 そうして武器屋でショートソードを購入して店を出たトア達は続いて防具屋に足を向けていった。







 二人して昼食を取るために近くの居酒屋に入って席に着いていた。

 別に昼間から一杯ひっかけようと言う訳ではなく、この世界では一般的に昼夜問わず庶民や剣闘士などに食事処として利用されることが多いのだ。


 あの後二人は武器屋に続いて防具屋や露天などでも仕事の話を聞いていたが、良い話がもたらされる事は無かった。


「それにしてもまさか異世界でもこんなに就職難だとは思わなかったよ」


「就職難と言う程でも無いが、実力に伴った仕事をしておるものが大半だからのぅ。

お前さんのように何もないでは話にならんのだろうのぅ」


「うっ、技術職系って訳じゃなかったからな……」


 トアはこの世界に来る前にはゲーム会社でプランナーとして様々なゲームに関わり、チームを管理していた事からしても人をまとめる役割としては力を持っていたが、技術職でなかった為今更ながら悔やんでいた。

 但し、この世界にはゲームなどという物は当然無いわけで絵を描いたりプログラムを組めたとしても意味をなさなかった訳だが。


「しかし俺の知ってる異世界物って言ったら召喚されたやつにはチート能力が備わってて俺TUEEーって感じか、まさかの異能を持ち合わせているとかだから、町中の人に引っ張りだこにされるとか期待してたんだけどな」


「異世界召喚では有るまい故詮無きことだのぅ」


「ん?どういうことだ?」


「つまりお前さんはわしが連れてきたから異世界転移であって、異世界召喚とは別物という事だのぅ」


「ん??」


 微妙に話が噛み合っていない事も有り、トアが混乱しているのを他所にフラドは話を続ける。


「異世界転移とは世界と世界を超重力場で繋ぎ、その中を通って世界を渡るんだが、その際世界間の重力場の時間を凍結させる事で生物の構成を変化させずに通る事が出来るんだのぅ。

対して異世界召喚とは魔法陣により超重力場で繋ぎその中を通して召喚するんだが、当然生物は超重力場で素粒子レベルまで分解される。

召喚した世界に来た時には生きとるとは言えん。


その為に魔法陣に導かれた時、肉体を再構築する事で世界に固定することが可能となるのだのぅ」


「分解ってっ!そんな危険な物だったのか!

でもそれってバラバラになるのと普通に通る差ってことじゃないのか?」


 トアは異世界召喚でなく異世界移動だった事にこの時安堵を覚えたが次の言葉で愕然とする。


「いや、異世界召喚されたものは、一度素粒子にまで分解された後魔法陣にて再構築される際に世界の成分で補強されるから、お前さんの言うように異能を持っていたり超人並の能力を有しておる事が多い」


「は?って事は召喚されたら超人で移動するとそのままってことか?」


「そういうことだのぅ。

正確には異世界転移出来るうる術を持つ者はそれ相応に力を有しておるが故だがのぅ」


 フラドは当然の事のように首肯しているが、何の能力も持たずにそのまま移動してしまった事への絶望を感じ口を開けたまま固まってしまった。

 危険と言われる世界において超人能力や異能も持たずただの人が自身の力だけで行きていかなければならない事を思い後悔と焦りの中で思考が停止してゆくのだった。


 トアが思考停止している間にも料理が並べられ一通り揃った所でトアの思考が戻ってきた。

 やはり人間食欲には勝てないのだ。


 食事を済ませて一息付いている時後の席に座っていた剣闘士らしき鎧姿の集団からひときわ大きな声が聞こえてきた。


「昨日町の外に出ていた商人が言ってた事だが、また街道の近くに魔物の群れがいたらしいぜ」


「その話俺も聞いたぞ。何でも赤毛のワイルドウルフ(野生狼)の群れが支援者の集団を追いかけて行ったって言ってたぞ」


「私もその話聞いたわ。小川沿いに薬草を取りに行っていた支援者の集団が襲われたって言ってたから、逃げてた連中を見たのね」


「ん?俺が聞いたのは赤毛のショートホーンボア(短角猪)の群れが支援者を襲ったって聞いたんだがな?」


「まぁ発見報告でも夕暮れ時だったらしいから見間違えたのかもね?」


「よくある話だな」


「にしてもここ五月は頻繁に魔物の群れが現れるようになったな」


「そうね。お陰で道具屋の回復薬が品薄で低級回復薬ですら高騰してるから懐に優しくないわよね」


「そうだな。以前なら中級回復薬や下級回復薬もそれなりの値段だったのにな」


「仕方ないな。低級回復薬の原料のシーラスの花や中級回復薬の原料のユポンの花を取りに丘の上に行くにも剣闘士の数が少なすぎて護衛にすら回せないからな」


 剣闘士達は昼食を取りながらお互いが得た魔獣の情報を交換していたが、最近の魔獣の多さにうんざりしながらこれからの方針を話し出した。


 この話を伺っていたトアとフラドは互いに目を合わせ大きく頷いていた。





 所変わって二人は事実を確かめるべく道具屋へ赴いていた。

 元々仕事の話をしに向かうつもりであったが、支援者と呼ばれる剣闘士の支援を行う者たちが材料を卸している事をフラドから聞いていた為後回しにしていたのだ。

 道具屋は比較的店内が狭く、商品も壺や瓶が数個程度ずつしか棚に並んでいない。

 店主の後ろに大きな棚が有り、びっしりと壺や瓶、箱が見えるため、店内に並んでいる商品はディスプレイとしての意味合いなのだろう。


「それで回復薬が品薄って話は本当の事なんですか?」


 初対面の相手や店員さん相手に敬語になって話をするトアだが、これは日本人の性なのだろう。欧米のようにいきなりフレンドリーにハグをしたり出来るような性格などトアには考えられない。


 そして色々と雑談しつつ本題を切り出したトアに店主は首肯と供に愚痴をこぼした。


「ここ五ヶ月程前から魔獣が活発になっており、何度も魔獣の群れが確認されておりまして、被害が絶えないのです。

魔獣被害を減らすために剣闘士様方や要塞都市マケラストから聖騎士の方々が討伐に派遣されておりますが、頻度が多く手が回っていないのです」


「前はそんなに頻繁じゃなかったのですか?」


「そうですね。五ヶ月前より前は半年に一度小規模な魔獣の群れが目撃されることもありますが、基本的には町の剣闘士ギルドだけで対処出来るくらいの頻度でした」


 驚いたことに五ヶ月前と比べると魔獣の頻度が一〇倍以上になっており、月に三件ものハイペースで魔物の群れが現れるようになっているとの事だ。

 これにはダーシュト王国も手を焼いており、近隣の要塞都市マケラストから防衛の為の兵を割かねばならない程であった。

 勿論要塞の警備が手薄になること自体あまり良い状況とも言えなく、王都より兵を派遣したり剣闘士ギルドへの要請を行っているがここレンチ公爵領における魔獣の頻度が急激に増加している為要塞都市マケラストの兵を動かさざる負えなくなっているのである。


「その為、討伐に剣闘士の方々が出払っており支援者の方々だけでは材料の確保が出来ず回復薬自体が品薄になっております」


 期待していた答えが聞けたことで目的が決まったとトアがフラドへ振り向き目を合わせるとフラドも首肯して応えた。


「そういう事でしたら私達が材料になる薬草の確保を請け負いたいと思いますがいかがですか?」


「お二人ででしょうか?

勿論材料を売って頂けるとなればこちらとしても助かりますが…」


 歯切れの悪そうな店主の言葉は当然でトアの事を見ての事だった。

 見るからにひ弱そうで正直魔獣に襲われて終わりだろうなと思われているのである。

 だが、品薄状態で今後もこの頻度で魔獣が合わられ続けるとマズイのも確かであるから期待と不安を込めた目をトアの後ろに居るフラドに向ける。


「うんむ。安心すると良いのぅ。わしが着いていく」


 フラドの見た目はボロボロのマントを羽織ってはいるがその衣服の下からは隠しようもない筋骨たくましい体躯が伺える。

 そのフラドから力強い言葉を受けた店主はトアとフラドに材料の調達をお願いするのだった。


 そしてトアとフラドは薬草の材料シーラスの花とユポンの花を求め異世界に初めてたどり着いた場所へ行くことになった。

投稿してから今年最後の投稿だと気づいたので一言。

皆様良いお年を。

これから少しづつ盛り上がる展開にしていきたいと思いますので、今しばらくお付き合いください。

ヒエゾーでした。

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