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ハーモニー・オブ・ゼロ  作者: ヒエゾー
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033 命の価値と空元気

「ありがとう芦屋君」


 ラジェリィはトアから手渡された手ぬぐいで手首を冷やしていく。

 手ぬぐいは冬も間近に迫った冷たい川の水でキンキンに冷えていた為、手首のしびれと熱を奪い去っていった。


 ラジェリィはトアに剣術指南するために組み手を行っていたのだが、トアの膂力に腕が悲鳴をあげていたのだ。


「覇闘気って凄いのね」


「そうなのか?まぁ少しは筋力とかついたと思うけど、偶然手に入れた力でやっとこの世界の平均に追いついたって事かな」


「芦屋君………残念ながらその考えは間違っているわ」


「え?って事は覇闘気を手に入れてもまだ平均以下なのか……異世界怖い所だな…………」


「それも間違い。貴方の力は異常に高いんじゃないかしら?」


「え?高い?」


 トアは驚きを隠せない様子でラジェリィを見た。

 それもそうだろう。

 トア自身は覇闘気を扱えるようになったからといってもまだ熟練した使い手でも無ければ、その効果を十全に発揮することが出来ないでいたのだ。

 それがこの世界でも異常なまでに高い能力を授かったと言うことに驚きを隠せないでいた。


「私も元の世界では普通の大人達を相手にしていたからそれなりに自信は有ったのだけれど、少し自信を無くしたわ」


「そっか、そうなんだな」


「あまり嬉しそうじゃないのね?」


 トアにとって覇闘気はただ授かっただけの力だ。

 勿論苦痛を伴って手に入れた力だが、偶然が重なって手に入っただけの力を褒められても嬉しくは有るが素直に喜べるものでは無い。

 やはり男の子ならば最強の勇者とか言うものに憧れを抱くものだが、偶然手に入れた力ではなく苦労の果に手に入れた力を持ちたいとは思うだろう。


 そんな事を考えていたためかトアの表情は喜びに染まるより苦笑いをしている様に眉がさがっていた。


「いや…な。特訓とかはしちゃいるんだけど、偶然手に入れた様な力で強くなってもな?」


「はぁ……。偶然にせよ何にせよ手に入れた力である事に変わりは無いわけだし良いのではないかしら?」


「それはそうなんだけどな」


「貴方が元の世界に帰るためには必要な力の筈よ?」


「身を護るってだけなら大きすぎる力って事になるんじゃないか?俺は別に降りかかる火の粉が払えればそれで良いと思ってるんだけど…」


「今の芦屋君の力は凄まじい物が有るわね。ただ、力は凄まじいけれど技術が伴ってないわ。それでは力に振り回されているだけ。大きすぎる力でも扱いきれない力を持っていても無力なだけよ」


「………」


「降りかかる火の粉を払う為にも偶然手に入れた力をちゃんと使いこなせるようにならないと元の世界に帰るなんて出来ないわ。あと、そんな言い訳みたいな事言う必要無いわよ?」


「え?」


「芦屋君が例え魔獣であったとしても命を奪うことに忌避感を覚えているって事は分かっているつもりよ?」


 ラジェリィは真剣な顔つきから意地悪そうな顔でトアを見つめる。


「昨日あまり寝てないでしょ?」


「……………はぁ………。何でもお見通しか……」


「当たり前でしょう?いつも一緒に居たのよ?雰囲気が違ってる事くらい分かるわ」


 ぽつりぽつりとトアは自分の心の内に秘めた思いを吐き出した。


「俺な、この前町が襲われた時に何も出来なかったんだよ」


「それで?」


「その時も足が震えて漸く動けたのは知り合いの女の子が襲われそうになってた時だったんだ」


「……………」


「それまでにも俺を庇ってくれた兵隊さんが居た。その兵隊さんは他の兵隊さんに助けられたみたいだけど、襲われてた人達も居たんだ。俺はそんな人達の助けの声を無視して見殺しにしてきたんだ」


 悲痛な顔で俯いたトアは町が襲われた時の事を振り返った。

 ケートを助ける前にも魔獣に襲われていた人達に遭遇していた。

 当時のトアには何の力も無く既に襲われていた人達を助ける事なんて出来なかったのだ。

 早河の事件以降人の命に拘っているトアには考えられない事だったのだが、事実強大な力の前に足が震えてただ息を潜めてやり過ごす事しか出来なかった。


 それでも漸くケートを助け、魔獣を討伐出来たがそれも偶然の賜物だった。

 少しでも計画が狂えば、タイミングが悪ければトアは死んでいた。


 そして昨日フラドとラジェリィに庇われながら魔獣の群れと相対していた際向かってきた魔獣に全力で抵抗した。

 その結果魔獣の命を奪うことになった事を後悔していたとラジェリィに懺悔した。


「そう。芦屋君には力が無かった事は事実だわ。だからこそ手に入れた力は使える様にしないといざという時助けられる命も助けられなくなるし、芦屋君自身を守る事が出来なくなるわ」


 相変わらず俯いたままのトアはゆっくりと視線をラジェリィに向けた。

 その姿はまるで叱られる子供が親を見つめる視線である。


「降りかかる火の粉を振り払って命を奪うのは芦屋君に力が無かったから。だからこそ力の扱いに慣れて命を奪わない戦い方を身につければ良いのではないかしら?」


今回は前回の話しが短めでしたのでその追加分です。


次回更新は金曜の深夜を予定しています。

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