029 配達準備と価格高騰
前回の話しがかなり短かったので、文字数は少ないですが追加です。
「さて。マケラストに行くことを決めたのは良いが、準備が必要だのぅ」
「準備って?ポーションなら既に作ってあるだろ?」
「何を言っておる。はぁ…」
「良いかしら?芦屋君。この世界…いえ、私達の世界で遠くへ荷物を届けに行く場合は車に乗り込んで途中どこかで宿をとるとかコンビニやレストランで食事をすれば良いのだけど、この世界ではそうはいかないのよ」
「あ」
簡単な話しだ。
この世界は元の世界とは違いコンビニなんて物は勿論、ファミレスや宿屋が点在している訳ではない。
つまり食料や装備などの旅支度を整えなければすぐに餓死することになるだろう。
まして今は冬が近く夜には気温が下がって下手をすれば凍死するかもしれない。
そんな事すらトアは考えていなかったのだ。
「そうだった…。なら必要な物をさっさと整えないとだな」
「そうね。二〇日分の食料と防寒具、薪と仮設テントの用意と装備を整えないといけないわね」
「(ちょっと荷物を届けにとはいかないんだな)」
依頼を受けるのは良いが、先は長そうだとトアは溜息を吐く。
しかしそうしていつまでもゲンナリしている訳にもいかない。
依頼先のマケラストの怪我人は恐らく既に息絶えてしまっているかもしれないが今後の事を考えるとそうもしていられないのだ。
「ではラジェリィは食料を、わしは装備と防寒具を揃えようかのぅ。トアはラジェリィと行って購入した食料を受け取ってから簡易テントと薪の調達を頼もうかのぅ?」
「わかったわ。よろしくね芦屋君」
「あぁ。じゃぁ行ってくる」
トアとラジェリィは二人で食材を販売している市場へと足を向けた。
フラドもラジェリィ達と別れて防具屋へ向かう。
トアとラジェリィは薪を調達しようと宿場町ハビーリに併設されている伐採場へと移動し、そこで支配人らしき人と交渉を始めていた。
「そうです。出来れば二〇日分程の薪を頂きたいんです」
「薪ですか?今木材の値段が高騰しているんですが大丈夫ですか?」
「木材が高騰ですか?」
「この町が魔獣の襲撃を受けたんで防衛を整えるのに使ってるんです。ご覧になりませんでしたか?」
この前の襲撃から町中では復興活動が続いている。
町の周辺が活気に満ち溢れて慌ただしくなり、申し訳程度だった柵の強化をしているのを先程から町のいたる所で見かけていた。
むしろ良く申し訳程度の柵で魔獣の襲撃を防げていたと褒めたくなる。
それも衛兵や剣闘士達の努力の賜物だ。
昼夜問わず町の防衛に勤め、今は防壁建設の作業員達の護衛に勤めてくれている。
復興に護衛に大忙しだ。
町の周囲を覆う為には木材や石材が必要で、それ以外に使う木材の値段が跳ね上がっているという事だった。
勿論生活用品である薪の値段もそれ程では無いにしても値上がりしている。
「それは仕方ないですね。どのくらい高騰してますか?」
「そうですね。普段の二割増し程度です」
「二割ですか。問題無いのでお願いします」
町の安全が第一である。
多少値段が上がっていたとしても町の復興に貢献出来るのならばと承諾して購入を終えた。
これでトア達が用意する物は無くなったので、後は一度宿へ戻ってフラドと合流するだけだ。
宿へ戻ったトアとラジェリィは部屋で一段落ついていた。
「ふぅ。結構時間かかったけど揃ったな」
「ふふっ、お疲れ様。それにしても芦屋君も大人になったわね」
「どういう意味だよ?」
「昔はお店の人に敬語とか使ってなかったでしょ?」
「そうだっけか?そんな前の事は覚えてないけど、流石にこの歳…には見えないけど大人にもなるだろ」
あまりそういう昔の話しをされるのは背中がくすぐったくなるのでやめて欲しいと思うが、ラジェリィの楽しそうな顔を見ているとやめろとは言い辛い。
二人は元の世界の話しを暫く語り合った。
暫くしてフラドが戻ってきた。
手には何も持っていない様子なので、トアと同じくパンドラにしまっているのだろう。
他の人に見つかると少し厄介な事になるが、手荷物を持つ必要が無くなるのは本当に助かると思う。
「おぉ。先に戻っておったのだのぅ」
「あぁこっちで言われた物は揃ったぞ」
「わしは装備と防寒具を購入した後、支援者ギルドへ寄って依頼を受けてきたのぅ」
「結局受ける事になるとはって呆れられそうな気がするけど仕方ないよな」
「まさしく呆れられたと言うか困ったような苦笑いをされたのぅ」
「それは…悪かった」
まさか断ったすぐ後に受ければ呆れもするだろう。
しかも先程はクトが手を貸してくれるという話しだったが、今回はトアとフラド、ラジェリィの三名だけだという事だから尚更だった。
「まぁそれは良いのぅ。とりあえず馬車は下に停めておる『こんびに』を使うとして、馬が必要だったから馬を二頭程購入しておいたのぅ」
「そうか車の手配とかじゃなくてこっちは馬車なんだな。そういう事はすっかり忘れてたよ」
この世界に来てから暫く経ったが、見るものや触れるものはいつも新鮮な気持ちになれる物ばかりだった。
というのもこの世界は中世ヨーロッパ風――要するに異世界ファンタジー的な世界だ。
その世界の中では全てが新鮮だったが、自身がそこに生きて何かをするとなるとやはり元の世界の知識で考えがちになる。
もしこのまま旅をする事になったとしても事前の準備に何が必要になってどうするのか等分かるわけがない。
何となく何が必要かは分かるのだが、実際に出てみて足りない物が合った時にちょっとコンビニへとはいかないのだ。
今回の依頼はフラドやラジェリィにとってはどうという事の無いものだが、トアにとってはとても有意義な物となるのではないかとフラドやラジェリィは考えていた。
勿論トアは今後の事を考えれば何がどのくらい必要になるのかを覚えなければならない為必死になるのだった。




