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ハーモニー・オブ・ゼロ  作者: ヒエゾー
28/34

028 配達とジュニア

 支援者ギルド。

 そこは剣闘士ギルドとは別の機関だ。

 剣闘士ギルドを『武力』を売る場所とするなら支援者ギルドは『雑用』を売りとしている様な場所である。

 要するに魔獣討伐や護衛等の危険が伴う仕事は剣闘士ギルドが、それ以外の採取や輸送等の比較的危険が伴わない仕事の殆どが支援者ギルドの仕事となる。

 最も重要な機密文書の輸送や貴重素材の採取となるとその限りではなく剣闘士が対応することがある。


 その支援者ギルドへトアとフラドは訪れていた。


 目的は『グレート回復薬』の配達だ。

 本来ならば本当に必要としている人間を助ける為に使って欲しいと考えたトアは宿場町ハビーリでのみ販売や寄付をしていた。

 だが、宿場町ハビーリ付近で起きた魔獣被害の鎮圧に討伐隊が組まれていた。

 要塞都市マケラストからも討伐隊へ部隊を派遣していた。

 討伐に参加した部隊は思わぬ魔獣の奇襲に合うも水戸シルバーことフラドに救われた事で部隊の全滅は免れた。

 だが部隊の被害が皆無だった訳ではない。


 要塞都市マケラストにも回復薬自体の備蓄は当然有る。

 その為通常の怪我の治療は間に合っているのだが、内蔵への損傷を治す為の回復薬は備えていなかった。

 そこで最近内蔵の損傷まで治すと話題になっていた宿場町ハビーリの『こんびに』で販売されている『グレート回復薬』が話題に上がった。


 トアが倒れている間に要塞都市マケラストから宿場町ハビーリへ使者が訪れ支援者ギルドに販売依頼が届けていたのだが、宿場町ハビーリも魔獣被害にあっていたせいで町中に在庫は残っておらず、本人もそれどころではなかった為、一先ず使者は要塞都市マケラストへ帰っている。

 そしてトアが復調した昨夜ケートから支援者ギルドに依頼が届いている旨を聞いたのだが、今日まで作成しなかったのは単純にトアがまだ本調子ではなかった為だ。


 支援者ギルドの作りは剣闘士ギルドと似た作りになっているようでカウンターも扉をくぐった側に有った。

 トアはそのままカウンターへ向かう。


「すみません」


「あらぁ?あらあらぁー?可愛らしいお客さんねぇー」


 精一杯背伸びしてカウンターに身を乗り出すと間延びした感じで受け答えする女性がそこに居た。

 緑がかった髪色でゆるいパーマがかかった腰まで達する長い髪をそのまま垂らしている。少しタレた目元が印象的な綺麗な彼女はカウンターで必死に身を乗り出しているトアを見て小さく微笑んでいる。


「ケート話を聞いて依頼を受けに来たんですけど」


「依頼ぃー?どの依頼かしらぁー?」


「グレート回復薬の発注依頼を受けたんでその依頼を受けに来たんですよ」


「その依頼ねぇー。その依頼ならぁー数日前に要塞都市マケラストに届けてほしいって事だったわよねぇー?」


「そうです。これを要塞都市マケラストへ届けてもらいたいんです」


 トアはそう言うとカバンから一〇本の『グレート回復薬』を取り出してカウンターへ置いた。

 それらはトアが目覚めた後にフラドが容器を作りラジェリィが作った物だ。

 要塞都市マケラストへ『グレート回復薬』の配達を依頼する為だ。

 基本的に回復役の多くは宿場町ハビーリで販売するようにしている。

 目に届く範囲で必要としている人に販売するようにしているのだが、討伐隊に参加していたマケラストの部隊にも被害が出ていたというのならば、町を守る為には必要な事だと配達することに決めていた。


「ならぁー。これを持ってマケラストへ行ってもらえるぅー?」


「あ、いえ。配送をお願いしたいんですけど」


「あらあらぁー?困ったわねぇー」


 受付の女性は頬に手を当てて首を傾げ困った表情をしている。

 お姉さんが何に困るのか分からないが、意味が分からないトアの方が困った顔でお姉さんを見る。


「この前この町に魔獣の襲撃が有ったでしょー?その時の影響でぇーこの町の剣闘士は事後処理に出払ってるらしいのよぉー」


「は?えぇ?という事は発送出来ないって事ですか?」


「てっきりぃー貴方の後ろの人が護衛の人かと思ったんだけどぉー」


「わ、わしがトアの護衛!!」


 汚いボロローブ姿の初老の男だがその肉体は鍛え抜かれた強靭な存在だ。

 他の人が見れば護衛や傭兵に見えても仕方ないだろうがそれをフラドもそう思って居たかどうかは別の話しなのだ。


「あー。この人…フラドは護衛とかじゃないんですよ」


「それはごめんねぇー。でもそういう事だから今はマケラストへは届けられないのぉー」


「そうですか……」


 困った顔をしたトアを申し訳なさそうな顔で受付嬢は見る。

 トアはフラドと支援者ギルドを後にする――ところで支援者ギルドの扉を開いて入ってくる影があった。


「あれ?トアさんです?」


「トア?に見えなくもないけど、トアの子供か?」


 ケートとクトだった。

 トアの身体が縮んだ――免疫促進薬を服用した時にケートは居合わせていたのだから見た目が一〇歳そこそこにしか見えなくなった事を知っているが、クトはその場に居合わせていなかったのだから知るはずも無い。



「トアに子供なんて居たんだな。坊主名前は何ていうんだ?」


 その為クトは訝しげにトアを見るとトアの子供か何かと勘違いしたようだ。


「えっと…トアです」


「ですです!トアさんはトアさんです」


「トア?同じ名前かー。ならジュニアだな。よろしくなジュニア」


「ジュ、ジュニア……」


 安直な名前だが本人なのだからトア以外には言い換えれない。

 なら致し方ないのかもしれないとトアは割り切った。


「で?ジュニアは一体全体何してんだ?」


「……いえ、マケラストへ回復薬を届けたいんですけど護衛の為の剣闘士が居ないって言われたんです」


「何だそんな事か?それなら俺が届けてやるよ」


「本当ですかっ?!」


「勿論フラドもくんだろ?」


「わ、わしもかのぅ?!」


「ったり前だろ?オレしか護衛が居ないとか何かあっても対処できねぇぞ」


 当然のようにクトが言い放つ。

 確かに要塞都市マケラストへ行くのに護衛が一人で荷物を運ぶというのは自殺行為にも等しい。

 道程は五日と短いがそれでも一人で五日を守り切るのは不可能な事だ。

 だからこそフラド屈強な見た目のフラドに白羽の矢が立つのは仕方ない。


「あ、いやそれでしたら剣闘士のスケジュールに余裕が出来るまで待ちますよ」


 そこでトアは焦りを覚える。

 フラドが屈強でとてつもなく強い事は理解しているのだが、この世界で魔法を使っている所を見られる訳にはいかないと考えていたからだ。


「そうか?まぁ坊主がそう言うなら構わねぇが必要になったらまた声かけろよ?」


 ニカっと白い歯を見せて笑うクトにトアは苦笑いを浮かべる。

 別に苦手という訳でも無いのだが、隠さなければならない事が多いとクトという素直な人間に嘘をつくのは気が重かったのかもしれない。


「分かりました。またよろしくお願いします。それでは失礼します。ケートちゃんもまたね」


「おうっ!」


「またです」


 そしてトアとフラドは宿へ戻っていった。





「そう。そんな事があったのね。そういう事なら私達が運べば良いんじゃないかしら?」


 宿に戻ったトアはラジェリィを交えて相談をすると意外な答えが返ってきた。


「え?俺達だけで?」


「えぇ。フラドが魔法を使ってる所を見せられないのならそれが一番良いと思うのだけど?」


「うんむ。正直護衛と言われた事には驚いたが、それが一番かもしれんのぅ。何ならわしだけでも行ってこれるが数時間で行き来すれば流石に疑われてしまうからのぅ…」


「なら俺達で届けるか?」


「うんむ」


「そうねそれで良いわ」


 そうしてトア達はマケラストへ向かう事にするのだった。

 支援者ギルドで受付のお姉さんが言っていた事を実行するだけなのだが、こうもあっさり決まるとは思ってなかったトアだった。


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