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ハーモニー・オブ・ゼロ  作者: ヒエゾー
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026 きな臭い空気と今後

少しラジェリィの過去話しが長くなってしまったのでお話自体は余り進みませんでした。

 早河麗が目を覚ますと周囲は人で溢れかえっていた。

 柔らかい光を放つ無数の光も気になるが、やはり代わる代わる自分を覗き込んで祝いの言葉を述べる人達の存在が気になる。

 長期の休みに家族と海外へ旅行へ出かける事は有っても、そこで仲良くなった人達が居た記憶等無いし、まして会った記憶の無い金髪碧眼の美女と美男子が入れ替わり立ち替わり嬉しそうな顔で語りかけるのだ。

 気にならない訳がない。

 それに何より麗をに対してラジェリィと呼んでいるように聞こえる。


 麗はいつものように声をあげて聞き返そうにも口が思うように動かない。

 それどころか腕や足は勿論首から下が繋がっていないのでは無いかと疑ってしまうほど力が入らないのだ。


 そこで視線を動かして確認して気がついた。

 自分の身体が縮んでいることに。

 始め麗は発狂するように声をあげると周りの美男美女達は何事かと集まって来ては自分を抱きかかえたり背中をポンポンと軽く叩いたりされた。

 抱きかかえられた時の暖かさとポンポンと心地よいリズムで叩かれる背中の感触で理解してしまう。

 昔母親にされた事と同じ暖かさを感じてこれが現実なのだと。

 直前まで居た不思議な空間での会話の内容を思い出した麗は、生まれ変わりを強く自覚させられたのだ。


 事故の後不自由な身体でベッドに横たわり清潔感のある白い病室で過ごしていた自分は、毎日のように見舞いに来てくれる友人の顔を最後に死んでしまった。


 麗は自分が不自由な身体から解放された事は嬉しいと思う半面、もうあの場所へ戻れない事が辛かった。

 家族、友人達と別れてしまった事もそうだが、辛い重荷を芦屋トアに背負わせてしまったと思う。

 病室で取り留めのない話しをする芦屋トアの笑顔に悲痛な表情を見れば近くに居たのに助けられなかったと芦屋トアが責任を感じていると麗は思っていた。


 それから暫く麗は泣き続けた。

 火がついたように泣く事は始めの時以降は人目を気にして静かに涙を流しては疲れて眠りにつく日々が続く。

 そんな麗を見かねた優しそうな女性は度々麗を抱きしめては優しくあやしてくれる。

 後で知った話しだが麗の周りをフワフワと飛び回っていた光は微精霊というもので、微精霊達がその女性に麗の事を伝えていたと言う。


 麗も次第に泣く回数が減っていき気づけば首も座り床を這いずり回れるようになった。

 それを期に麗は色んな所へ出かけては今いる世界について調べて初めてここが才能界システィバブという世界である事を知る。


 この世界は才能界システィバブ。

 システムと言う力が生物にスキルを与えている。

 スキルを利用して人々が生活している世界であることが分かった。

 そして自分自身がエルフという種族で、精霊と心を通わし種族特有の精霊魔法の使い手で有るということもわかった。


 スキルについて調べていくとステータスと言う物が有ることが分かり、そこには名前や種族といった基本的な項目と供にLVやEXPが表示されている他にHP、MP、SPとゲージ、他にもSTRやINT、DEX、VIT、AGI、MNDといったゲームらしい項目が数値と一緒にずらっと並んでいた。

 ここまでくれば普段からゲームに慣れ親しんだ日本人の麗にはどういった物か等分かりやすいもので有る。

 優等生で勉強ばかりしているようなイメージを持たれていた麗だったが、普通にゲームも漫画も読んでいたのだ。


 麗は前世の事――過去の事を忘れるように没頭し、僅か三歳と幼いながらその世界の基準で中堅どころを担える程のスキルを得た。

 まだ幼かった麗は外に出ることは許されず庭に出ては薬草なんかを採ったり調査して調合や薬草学、鑑定眼等のスキルを鍛え、台所で料理の手伝いをする過程で包丁をを利用した短剣スキルなどを獲得してはトレーニングに勤しんでいた。


 そして月日が経ち、この世界で六歳になる頃麗の持つ精霊魔法の属性がきっかけで麗はエルフの里を追い出され、人間の国へ渡った。

 勿論六歳の子供が生きていくには辛い世界であることは間違いなく、モンスターと言われる凶暴な獣や盗賊に襲われては鍛えたスキルでそれらを退けていった。


 里を追われる頃までに麗のスキルは間違いなくこの世界の基準で上位に位置するレベルに達していたのだ。

 それでも六歳の子供が一人で旅をするには過酷で夜にゆっくり休むことも出来ず心身ともに疲れ果てていた。

 そんな状況にもかかわらず人間の国へなんとかたどり着いた麗であったが里に近くに有った筈の国は炎に包まれていた。

 古い神の怒りに触れたという事でその国は焼かれたのだという。


 頼りにしていた人間の国は炎に包まれ、途方に暮れて居たところ麗は人間に捕まった。

 謂れのない罪を着せられ投獄されたのだ。

 罪状は古い神の怒りを買ったエルフとしてだ。


 たどり着いたばかりで疲れていた麗は逃れる為必死に抵抗したが、同じくらいの強さを持つ人間達に囲まれれば為す術は無かった。


 幾日も鎖に繋がれ疲弊していく麗を救ったのはフラドだった。

 不思議な光を纏ったフラドは飄々とした雰囲気で麗に語りかけるとフラドは麗を連れて牢獄を脱出した。


 フラドが言うには探している者が居た為追ってきたのだが、逃げられた後だったという。

 そしてその者の逆鱗に触れたという罪で投獄された者が居るという話しを聞き牢屋へ忍び込んだのだということだった。


 侵入した城でフラドが調べた結果何の関係も無いエルフの子供が捕まって拷問を受けているという話を知った。

 フラドは自分が追っていた者の犠牲で罪のない者が囚われて居ることに憤り助けたという事だったが、麗と何の関係も無いという訳ではなかったようだ。

 詳しく話しを聞き、フラドと麗は行動を供にすることにし、世界を渡り今の闘神界フォルビスタにたどり着いたという事だ。


 その後フラドは別の世界に居る可能性が有るという事で三年後世界を渡ったが、その時トアと出会い今に至るという事であった。


 麗はその三年間この闘神界フォルビスタで今までのスキルを活かし薬の調合で生計を立てていたという。





 ここまでを掻い摘んで一気に話した麗ことラジェリィは一つ息を吐き出していつの間にか備え付けのテーブルに置かれていたティーカップに口を付けた。


「え、えっと…。本当に早河、なのか?」


「そうよ。今はラジェリ・イプセンという名前だけれど、早河麗よ」


「本当、なのか?」


「えぇ本当よ」


「………」


「急にこんな話をされても信じられない事は分かるのだけれど……」


 そう言葉を続けようとしたところで、トアの頬を雫が伝う。

 その姿に驚きラジェリィは言葉を止めてトアをじっと見つめる。


「…かった。助けられ、なくてごめんっ!」


 堰を切ったように溢れ出す涙を拭わずトアはラジェリィから目を離さずに謝る。


「全く。私が心配していた通り芦屋君は自分のせいにしてたのね?」


 ため息を吐きつつ呆れた表情をするラジェリィだが、その口元は微笑んでいるように見えた。


「あの時の事故は私の意思で起こったことで、芦屋君は関係ないわ」


「それでもっ!俺はあの時……すぐに追いつけた、はずだったん、だ」


「それでもあれは私の意思だったんだから芦屋君は何も悪い事なんて無かったわよ」


 ラジェリィは申し訳なさそうな表情で涙を流し続けベッドに腰掛けるトアの隣に腰掛けた。


「毎日毎日病室へ来て今みたいに申し訳なさそうな表情をしてる芦屋君に重荷を背負わせてごめんなさい。あの時の事はもう気にしないで欲しいわ」


「でも!」


「でもも何も無いわ。元の私はもう居ないけれど、私は今ここに居るもの」


「………」


「あの事故の後芦屋君は毎日のようにお見舞いに来てくれて私を元気づけてくれたことはとても嬉しかったのよ」


「あれは……」


「罪の意識からってことは知ってるわ。でも私が嬉しかった事は確かよ。だから気にしないで?」


「………」


 困ったような表情で隣に座るラジェリィを見つめるトアと優しく微笑むラジェリィ。

 トアの手を優しく包み込むとラジェリィは満面の笑みを浮かべる。


「ん、んんっ」


 そんな微妙な空気が流れる室内に咳払いが払い除けた。


「そ、そのお前さん達が感動の再開を果たしたのは分かるが話を続けても良いかのぅ?」


 気まずそうな顔でトアとラジェリィに声をかけたのはフラドだった。

 トアとラジェリィの二人は互いに至近距離で見つめ合っている状態で、手まで握っている。


 フラドの言葉にトアは握られていた手を引っ込める。


「あ、フ、フラド?!」


「全く…。もう少し空気を読んでも良かったんじゃないかしら?」


「そうは言うがのぅ…。お前さん達あの後もっと気まずくなっておったんではないかのぅ?特にわしがのぅっ!」


「そうかしら?少なくとも私は芦屋君に感謝を伝えるだけのつもりだったわよ?」


「お、俺も何かするつもりなんて無かったぞ!た、ただ死んだはずの早河と話せて……」


「どもるところが怪しいのぅ。まぁ構わんが、続けても良いかのぅ?」


 何やら不味い雰囲気を醸し出していたトアは気まずい雰囲気で明後日方向に視線を移す。

 ラジェリィはそんなトアの顔を見た後フラドへ視線を向けて頷いた。


「ではこのまま続けるかのぅ」


「あ、あぁ」


 頬を掻きながらぶっきらぼうな返事を返したトアは視線をフラドへ向けて話の続きを促す。


「トア。お前さんの身体に今異常が起きておるとは思うが、宝珠に魔力が溜まり次第約束通りお前さんの世界に連れて帰る。それまではこの世界で自活しなければならんのぅ」


「それは今まで通りって事か?」


「うんむ。ただ、この国からは離れた方が良いかもしれんのぅ」


「え?何でだよ?今の所順調にいってるのに生活基盤を変えたらまた一から初めなきゃならないんじゃないのか?」


「それはこの国の周辺がきな臭いからだのぅ」


「っ……きな臭いって?」


 一気に目を細めて真剣な表情になったフラドに気圧されたトアは言葉の意味を理解出来ずに聞き返す。


「うんむ。この世界にわし達が来る数ヶ月前からだがの周辺では魔獣被害が頻繁に発生するようになったのは知っておるのぅ?」


「あぁ」


「それがどうやら他国の手引きらしくてのぅ。もっとも明確な証拠は無いんだが、南の帝国が軍備を整えておるという話を仕入れたんだのぅ」


「単に魔獣被害が増えたから自国防衛の為に軍備増強してるって話じゃないのか?」


「そういう話ならば良かったんだがのぅ……。軍備増強を初めた時期が魔獣被害が増加する少し前だったという話しだんだのぅ」


「でも、魔獣って人間と争ってたんじゃ?」


「芦屋君が分からないのも無理はないと思うけれど、南の帝国は昔から魔獣の研究が盛んに行われていて、最近では魔獣を調教する研究が行われているって噂が有ったのよ」


 この世界、闘神界フォルビスタに置いて昔から人間と魔獣が争っているのはよく知られている。

 そしてこの話はトアもこの世界に来た時にフラドから聞き、町で過ごす中で自然と仕入れた情報であった。


「なっ!そん、そんな事が出来るのか?」


 その常識を覆す研究がされていると聞けば真偽を疑うのも仕方ない事だろう。


「うんむ。事実だのぅ。そもそも魔獣には知能は無いとされておるが、この前の討伐戦の折に二足歩行型の魔獣がおったんだのぅ」


「異世界なんだから普通なんじゃないのか?」


「この世界の生態系は私達の知ってる動物、と殆ど差異が無いのよ。犬型の魔獣は四足歩行、鳥型の魔獣は羽で空を飛ぶけれど腕が生えていたりするわけじゃないわ」


「熊とかは二足歩行もするんじゃないのか?」


「うんむ。そういう魔獣もおるにはおるが、前に出会った魔獣は人狼そのものであったのぅ」


「人狼って、ワーウルフとかいう感じの?」


「そうだのぅ。わしのおった世界でもワーウルフという名前の魔物が酷似しておったのぅ」


 この世界の生態系に詳しい訳では無いトアは訳がわからないという様子で首を傾げているが、フラドとラジェリィの様子からただ事では無いという事だけは伝わった。


「その帝国が戦争を仕掛けるからこの国から移動するって事だよな?」


「うんむ」


「何とか止められないのか?」


「ほぅ?」


「駄目よ!芦屋君」


 トアは何でも無い様な雰囲気で戦争を批判する言葉を口にし、それを興味深そうに見つめるフラド、焦ったような口調でラジェリィはトアを止める。


「え?だって戦争なんて下らない事だろ?沢山の人達が苦しむだけじゃないのか?」


「それはそうだけど、芦屋君は戦争になんて関わっちゃ駄目よ」


「そうだのぅ。お前さんは簡単に言うが戦争を起こすのは簡単だが、止めるのは難しい事だのぅ。それをお前さんはやろうと言うが、お前さんに出来るのかのぅ?」


「俺には出来ないかもしれないけど、フラドなら出来るんじゃないのか?」


「………」


 その瞬間フラドの目つきがキツくなりトアに突き刺さる。


「芦屋君、それは……」


「お前さんはわしに人を殺せと言うのかのぅ?」


「っ……それ、は……」


 甘い考えをフラドは一蹴する。

 他力本願でフラドを頼ろうとしたトアの言葉はその場を凍りつかせるには十分であった。

 トアは現実を知った瞬間だった。

 戦争を止めようとすれば色々な方法が有るが、少なくとも何人かの人間を殺す方法が一番シンプル且つ楽な方法だった。

 つまり戦争をフラドに止めてほしいという事は人を殺してきてくれと言っているようなものだ。


「良いかトア。戦争を止める事は容易ではないのぅ。自分に出来ない事を他人に任せる事は悪いことでは無いが、人の命を奪う行為を簡単に口にするものでは無いのぅ」


「悪かった。どうにか戦争を止めたいと思っただけだったんだ。忘れてくれ」


「分かれれば良いのぅ。兎に角冬が過ぎる前にはこの国を後にするが良いのぅ?」


「あぁ」


 呆れた顔でフラドはトアを見ると、気まずそうな表情をしたトアは視線を泳がせる。

 隣に座るラジェリィはトアの顔を覗き込むと嫌な予感を感じずには居られなかった。


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