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ハーモニー・オブ・ゼロ  作者: ヒエゾー
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025 早河麗とラジェリィ

 部屋に入ったトアはベッドに腰掛け、フラドとラジェリィは備え付けの椅子に腰を掛けると話を始めた。


「貴方達はこの後どうするのかしら?」


「うんむ。わしらは転移の宝珠に魔力が溜まるまでこの世界に留まるつもりだのぅ」


「世界を渡るつもりなのかしら?」


「トアを元の世界に戻してやると約束したからのぅ」


 フラドのこの言葉にトアは少し安心した。

 実際問題フラドはいつも通りだったため本当に元の世界に戻すつもりが有るのか分からなかったのだ。

 フラドの事を良く分かっていなかったという事も在るかもしれないが、目に見えるもので無い事も問題だ。


「ふんむ。信じていなかったようだのぅ、トア?」


「い、いや。そんな事ないよ?」


 トアの目はバタフライでも泳いでるかの如くユラユラと彷徨う。

 その姿をジトッとした視線で見つめるフラドは一つ溜息を吐き話を続ける。


「今はまだ半分も溜まっておらんが何事も無ければ前にも言った通り三年足らず位かのぅ?順調にいっておるのぅ」


「それは良かった。流石フラドだな!お前ならやってくれると思ったんだ!」


「わざとらしすぎるわよ芦屋君」


「うぐっ…き、気の所為って事で……。それより気になっていましたけど、ラジェリィさんって何処かで会ったこと有りましたっけ?」


「そう言えば言っておらなんだのぅ」


「そうね。芦屋君が目を覚ましてからは体調の事以外特にお話してなかったわね」


「ん?何の話です?」


 ラジェリィとフラドの話しを不思議そうに首を傾げる。


「私は早河麗ですわ」


「はっ!?いやいやいや!早河さんは一六年前に亡くなった筈でって、何で早河さんの名前を知ってるんです!?」


「ですから私が早河ですわ。あの時――」


 それから早河ことラジェリィが話し始めたのはトア自身が知っている内容とそれからの事だった。


 一六年前。

 当時トアは一七歳の高校二年。

 夏休みを控えて学生達は浮かれ、部活に精を出しては時折耳に届くセミの鳴き声が夏の暑さをより暑苦しく感じさせていた。

 トアも例に漏れず夏休みの予定を頭の中で考えながらウキウキした気分で数人の友人達と下校していく。


 校内は冷房もついていない為教室はムシムシと暑苦しくお世辞にも勉強が捗る環境とは言い難い。

 授業中にも構わず暑さで机に突っ伏す者、暑さから逃れる為に下敷きをうちわ代わりに自身を仰ぐ者等様々だ。

 そんな暑苦しい教室内でさえ涼しいかったと思える程真夏の炎天下は暑かった。

 暑い等と言葉さえも涼しいと思えるほど既にワイシャツは汗でベチョベチョに濡れすぼっている。

 出来る事ならばクーラーがガンガンに効いた室内でキンキンに冷えた麦茶を片手にテレビでも見ていたいが、家にたどり着くまではまだ時間がかかる


 そんな事を考えて下校していると数人居た友人達とは別れた後で、後に残るのはトアと優等生というポジションが良く似合うキリッとした目元が特徴でツヤツヤした黒髪を揺らして歩く早河麗の二人だけだった。

 高校の徒歩圏内と言う事だが、中学の学区は隣だった為二人が昔なじみと言う訳ではない。

 トアは同じ中学の友人達が受験する高校ではなく隣町の高校を受験していた。

 別に中学時代の学友達と仲が悪かったという訳ではなく、当時熱中していた陸上に力を入れていた学校だったと言うだけの話しなのだ。


 トアと麗は二人揃って取り留めのない話しをしながら帰路についていたが流石に炎天下の中三〇分も歩けば休憩したくなった二人は途中にあるコンビニへ寄ると二人揃って入店する。

 店内はクーラーが効いておりそのまま涼しくなるまで居座りたい気分になるのを抑えて少し雑誌等を立ち読みして涼むと飲料水を二つ買って外へ出る。

 汗が引くまで涼んだ二人は二人揃ってコンビニで購入してきた飲料水で喉を潤していく。

 この暑さの中で失った水分を補給しようとトアは一気に飲み干していくが麗は一口飲むと嬉しそうな顔で再度口を付けるて三分の一程飲むと満足してカバンにしまう。


 一息ついた所で二人は帰路に戻ろうとしたが、熱を冷ました身体に冷たい飲み物を一気に飲み干したトアは尿意を感じコンビニへ戻る。

 トアがトイレに行っている間に麗もコンビニで涼めばいいと提案するも短時間位ならばと外で待つことにした。


 コンビニの外に出た所で麗に声をかけようとしたトアは先程別れた場所へ視線を向けるが麗が居ない事に気付き視界の端に車道へ走っていく麗の姿が目に入った。

 麗の視線の先には子供が立ちすくんでおり、通りの向こうからはガードレールに何度もぶつかり火花を散らして子供に向かっていくトラックが見える。


 麗は眼の前の横断歩道で立ちすくんでいた子供に向かって走っていき、突き飛ばした。

 非情にもトラックは麗を跳ね飛ばすと赤信号が点灯している十字路へ直進し、横っ腹に乗用車が突っ込みもつれ合ったまま電柱と正面衝突して漸く動きを止めた。


 突き飛ばされた子供は膝を擦りむいて泣いていたものの通行人に無事保護されていたが、麗はトラックに跳ね飛ばされた事で通りに弾き飛ばされ横たわっていた。

 全身を激しく打ち付けられていた為キリッとした目つきは無く、弱々しい物に変わり、綺麗に着こなした制服もぐちゃぐちゃになって仰向けに倒れている。


 トアは直ぐに駆けつけた。

 数メートル程離れた所に居たのだから当然と言えば当然の短い時間だったが、麗に駆け寄ったトアの顔には心配と後悔が入り混じった物になっている。


 麗の姿を見つけた瞬間全力で走り寄っていたらトアの脚力ならば追いつけていた筈だった。


 それが出来なかったのは、実は麗の姿が目に入ったトアは数秒その場で足し竦んでしまった。

 それは時間にすればとても短い時間だったが致命的な時間だった。

 人としては正しい判断で、行けば死ぬかもしれないと言う恐怖を感じない者は滅多に居ないだろう。

 その恐怖に足が竦んでその場から動く事が出来なかった。

 特別仲が良かったと言う訳では無いが、気を許して話せる間柄だった友人が死ぬかもしれないのにそれを止めるどころか助けに動く事すら出来なかったトアは必死に意識が薄れゆくボロボロになった麗を励まし続ける。


 そして救急車が到着するまでに様態が悪化し意識が無くなり呼吸と心臓が止まった麗に五分以上誰とも変わる事なく救命処置を行いつづける。

 救急車が到着した後直ぐに病院に搬送され緊急手術が開始された。

 手術時間は八時間にも及び日付が変わっていたが、付き添ったトアはその場で終わるまで待ち続けた甲斐もあり手術は無事に終わったが、麗は首から下は後遺症で動かない身体になった。


 麗の意識が戻ったのはそれから三日後でその時に後遺症が発覚し、麗の両親は絶望に涙を流していた。

 そんな中で訪れたトアへ感謝を告げる麗のご両親だったが、トアの心は感謝の言葉を告げられる度に傷つき自身を呪う日々が始まりを告げた。


 トアは夏休みが始まっても麗の元を訪れ甲斐甲斐しく世話を焼いていた。

 麗の世話はそれほど難しい事は無く、花瓶の水を変えたり話し相手になったりするだけだったが、それでも麗は自分の事よりトアを気遣って明るく務める時が続く。

 そんな時も長くは続かず一月後には麗の様態が急変し麗はトアの目の前で息を引き取った。


 余談だがこの事が原因でトアは心を病み熱中していた陸上への情熱も冷め退部している。

 これは全国へ行けるだけの実力を持ったトアの足が有ったにも関わらず友人一人さえ助けに行くことが出来なかった事が起因しているがトアは単に熱が冷めたとしか言わず部を去ることになった。

 この時期からトアが自身の身を顧みず助けに行く切欠になったりもする。





 ここまでがトアが知っている麗の最後だ。

 麗は不思議な空間に居た。

 自身が経っているのか横たわっているのかも分からず眼だけを動かして周囲を伺うと今の状況が分からず混乱に陥っていた。

 麗は現状を確かめる為に再度目を動かして周りの様子を伺うと手に何かが触る感覚がした。


「き、きゃあ?!」


 慌てて触られた手を胸元で抱きかかえる麗は自身の行動に驚き抱きかかえた手をマジマジと見つめる。


『アハハハ!お姉ちゃん面白いね~!ちょっと触っただけなのにきゃあだって!』


 抱きかかえた手から触られた感触が有った左側へ視線を向けると、そこには子供が居た為麗は目を大きく見開いた。

 その場所に子供が居たと言う事に驚いたのではなく、視界に写った子供の姿が麗庇って弾き飛ばした子供に姿が似ていたのだ。

 それもその子供は麗の腰の辺でしゃがんでいた。

 子供が垂直にしゃがんでいた為麗自身が横たわっていた事が分かるが起き上がろうと腰を起こすも地面の感触が無いため上手く立ち上がれず結局は諦めて腰を起して女の子座りで誤魔化した。

 そんな麗の様子を気にするでもなくその子供は無邪気に笑いかけると話し始める。


『お姉ちゃんは地球って言われる世界でアタシを助けてくれたからなっ!』


「え?どういうことかしら?」


 何が何やらと言う感じで考えが纏まらない麗に追い打ちをかける様に言葉を続ける。


『アタシは才能界システィバブの神様だよ~!崇め給え!えっへん!』


「神様?と言うか先程の説明は無いのかしら?」


 麗は少しずつ頭痛がするのを感じながらこめかみを人差し指で抑えていくがこのよく分からない空間に一人ではなく人?が居たという事に少し安堵していた。


『それでアタシを助けたお礼として死んじゃったお姉ちゃんをアタシの世界で転生させてあげるねっ!』


「ちょ、ちょっとどういう…」


『って事でいってらっしゃ~い!』


 何の説明も無いまま唐突に現れた自称神は麗が理解するのを待たずに一方的に話を打ち切ると視界が霞む感覚が麗を襲いかかった。

 完全に意識が途切れる寸前背筋がゾッとするような感覚を最後に麗の存在がかき乱される様な苦しみ、痛み、辛さ、悲しみ、寂しさと供に完全に意識が途切れる。





 麗が次に目を覚ました時、見たこともない景色の中に居た。

 柔らかい光を発しながらふわふわと無数に舞う光。

 海外の名所を見て回る旅番組に出てきた巨木を思い起こさせる程立派な樹木。

 暖かく柔らかいふかふかな背中の感触と微笑みかける多数の瞳が麗に向けられていた。

 そしてその瞳の持ち主達の耳が長く金髪碧眼の美男美女達だった。

今回は早河麗ことラジェリィの回でした。

次回もう少しだけ続きますがお付き合い頂けますようよろしくお願いします。

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