022 原因調査とエルフの少女
ごめんなさい嘘つきました。
まだトアの完治には至りませんでした。
次回には完治するかと思いますので、今暫くお付き合いください。
王都ダーシュト。
ノービス大陸に幾つも有る人の国の一つで、大陸北部に位置している。
トア達が居るのは大陸中央寄りに位置している為比較的温暖な気候だが、国の最北端は半島状に突き出しており極寒の大地で人が住み着けない溶けない氷に覆われた大地が広がっている。
そのため国土は広くオセアニア大陸程の面積を誇るわりに人の生息域は四割程で中央部から南、東、西に限られた国土だ。
宿場町ハビーリから北へ向かい、貿易都市ディエールを素通りした先にこの国の王都は有る。
この王都ダーシュトにフラドは来ていた。
王都には壮麗て陽の光を反射して王都を照らす象徴の白く美しいダーシュト城がそびえ立ち、周りを囲む青い城壁と相まって美しさを感じさせる。
そして王城を中心とし、貴族街、一等商業区、兵舎がその周りを囲んでおり、分厚い壁を挟んで一般市民の住居区、商業区、貧民街などがある。
勿論街全体を更に分厚い壁が備えられ、絶えず衛兵達が壁の上から街の中や外を警戒し住民の安全を守っている。
宿場町ハビーリを昼前には出発していたフラドだが、到着した頃には既に日は傾き空は茜色に染まっていた。
そして街の外へ出掛けていた者達や家に帰る人達の群れに紛れてフラドは歩いている。目指しているのは一等商業区である事から内壁を越えた辺りて周りから人の姿が消えていく。
歩く事二時間。一等商業区に入ったフラドは古めかしい建物の前に辿り着いていた。
建物は石造りの洋館風で壁に蔦が巻き付いていて近寄り難い雰囲気を醸し出しているが構わずフラドは門をくぐって入っていく。
身体の隅々。内蔵や脳まで原因不明の病に侵されたノアはベッドの上で意識が朦朧とする中激しい痛みに耐えていた。
「トアさん。水を変えてきたですから布変えるですよ」
「………」
トアの身体は血の着いた布で覆われている。
全身いたる所から血が滲み出し、所々皮膚が裂けて血を流していた。
勿論目や耳、鼻、口からも血が流れまともに機能していない状態のためケートの言葉にトアが反応することは出来ない。
部屋の扉を開けてケートが入ってきた。手には水を張った木製の桶と小綺麗な布の束を持っている。
トアの身体の血を拭うのと、巻き付けている布を交換する為の新しい布と身体を拭く為に水を変えてきたのだ。
フラドからトアを託された時はそれ程だったが、丸一日で容態が悪化している。
ケートがトアのケアを疎かにしていた訳ではなく、反対に鼻血や血涙、耳血を流し出したら直ぐに水で濯いだ綺麗な布で血を拭いポーションを飲ませたり、栄養をしっかりとって貰うために栄養価の高い食事を与えていたのだ。
健診な看護にも関わらずトアの症状は悪化しており、フラドから渡されたポーションは一時間程前に底をついてしまっていた。
「トアさん頑張るですよ!!もうすぐフラドさんも帰ってくる筈です!」
「………ん?」
布越しに手を握るケートの体温と感覚を感じるも何を言われているのかも分からず声だけを漏らすトアの姿を悲しそうな表情でケートはただ見ている事しか出来ない。
それでもどうにかトアの身体を覆っていた古い布を外し綺麗な水で濡らした布で全身を拭っていく。
もうケートにはそれくらいしか無かった。
実は一時間程前に最後の一本を使ってから暫くは何事も無く回復した状態になっていたのだが、三〇分程経った所でトアが吐血してしまっていた。
そのためケートは以前トアから分けてもらったグレート回復薬を使って治そうとしたのだが、結果は症状が悪化してしまっただけだった。
こうなってしまっては後はフラドが戻るのを待つしか無い。
額に汗を浮かべてトアの布を新しくし終わったケートは既に血が滲み出して赤く染まりつつある布越しにトアの手を静かに握る。
その時トアの部屋の扉が勢いよく開け放たれた。
「待たせたのぅケート!」
現れたのはフラドだ。
実に二四時間で往復二週間程かかる道程を行き来しただけでなく、トアを助ける為に王都から友人を連れてきていた。
その姿はこの世界でよく見た金髪碧眼で少し目元が釣り上がった気の強そうな一〇代の少女だ。
ただ、耳だけが先が尖っておりトアの知識ではエルフと言われる種族であった。
本来この世界には人と魔獣の二種族しか存在していないが様々な理由により、フラドの様に旅をしている者や次元の狭間に落ちたものが極稀に居るという。
「それでこれが貴方が連れてきたという人かしら?」
「うんむ。部屋を変えたりしていなければ間違いなくトアだと思うが、顔まで布を覆っていては確信出来んのぅ…」
「フラドさん!良かったです。渡してもらった薬が無くなったのでグレート回復薬を使ったら症状が悪化してしまったです」
「それでこうなってしまったという事だのぅ。では後はわし達に任せてお前さんは休んでおれ」
「いえ!わたしもここでお手伝いするです」
「気持ちは嬉しいけどこのミイラは私達に任せて休んでなさい?貴方の部屋で休ませてあげたら?」
「うんむ。それはいい考えだのぅ」
「………分かりましたです」
フラドと謎の少女を残して肩を落としたケートは静かに部屋を後にする。
「トアさん……」
小さく呟いたケートの言葉は虚しく廊下に響く。誰もその声に反応することなく。
一方部屋に残った二人は早速トアの様子を確認していた。
「道中一通り話しは聞いたけど、これは酷いわね。さっきの女の子が言ってたけどグレート回復薬ってのが原因って訳じゃ無いの?」
「うんむ。それはわしも考えたんだが、小さな怪我や三ヶ月程前に腕に大きな怪我を負った時に同じ成分の回復薬で治っておるしのぅ…」
「まぁ良いわ。とりあえずこのミイラが死ぬ前にポーション使って治しちゃって。その間に私が『見て』みるわ」
少女に指示された通りパンドラからポーションを取り出したフラドがトアの口元へポーションを持っていく。
「っ!!」
「何か分かったのかのぅ?」
少女はベッドに横たわる血にまみれたトアの様子を眺めて固まった。
少女が驚きに目を見開き固まっている少女に向かって問いかけるが、少女は身動き一つせずトアを見つめている。
その様子を不思議に思い首を傾げるフラドだが、手に持ったポーションの液体をトアの口に流し込んでいく。
「ごはっ!げはっげはっ!!」
トアは口に入った液体を思いっきり吐き出して咳き込んだ。
もっともそれだけ色んな箇所から血を流している人物がまともに飲み込める筈が無かったのだ。
そうなると口移ししか無いと考えフラドがポーションの瓶を口に含もうとした途端フラドは動きを止められる。
「ちょっとフラド!!どういう事?!何で芦屋君が此処に居るの!」
「うんむ?どういうとはどういう事かのぅ?」
トアの横でしゃがみこんでいるフラドの襟首を掴み上げる少女に驚くがフラドは何の話しか分からずポーションの瓶を持った状態で首を傾げる。
「何で日本で過ごしてる筈の芦屋トア君が此処に居るのかって事!」
トアを『見た』エルフの少女は驚きと怒りにフラドへ声を荒げた。
「お前さん達知り合いだったのかのぅ?」
「知り合いも何も私を看取ったのが彼よ。それがどうしてこんな世界に居るのかって事が聞きたいんだけど?」
気の強そうな瞳を細めて問の続きを促す少女の気迫は中々の圧力を持っているが、フラドには何故これ程この少女が怒っているのか分からず素直に続きを話し始めた。
「うんむ。わしが旅をしていた時に知り合ったトアに頼まれたと思い込んだわしが、この世界に連れてきたという事だのぅ」
「…貴方……なんて事を。貴方が抜けてる事は知っていたのだけどこれは予想外だったわ」
はぁと大きな溜息を吐きながらフラドの襟元から手を離す少女は頭痛がするのか頭を抑えて頭を振る。
「それより原因が分かったのだけど、何でまだポーションで治してないのよ」
一先ず怒りを冷めさせた少女だが、違う苛立ち混じりに無茶を言ってのける。
少女はそんな無茶なと思うフラドの手からポーションを奪い取ると勢いよく瓶を咥えて口に液体を流し込んだ。
そのままトアの口に自身の口を当てるとトアの鼻を塞ぎゆっくりと口に含んだ液体を流し込んでいく。
トアはいきなり唇に柔らかい感触を感じたことで驚くも差し込まれた舌と鼻を摘まれた事で息を止める。
正直現状の状態でトアにまともに思考出来る能力が無くなっているが、生存本能とも言える事なのか少しずつ舌越しに流し込まれていく液体を飲み下してく。
そう時間もかからず全てを飲み干したトアの身体から滲み出していた血は止まり、身体のいたる所に開いていた裂傷や穴はビデオの逆戻りの様な異様な光景を見せて閉じていく。
それでも失った血が戻る事は無いため長時間続く痛みと疲れによってトアは意識を閉ざしていった。
口を離すと二人の唇が離れる事を惜しむようにとろっとした糸が引いて消えていく。
少女はトアの顔を覗き込み症状が緩和していくのを見て安堵した様子になると少し頬を朱に染めてフラドへ向き直る。
「さっきの続きなのだけど、原因は芦屋君の身体と覇闘気よ」
「どういう事かのぅ?」
「はぁ…。貴方それでも多次元を渡り歩く大魔法使いなの?」
「う、うんむ。そう言われてしまっては何も言い返せんのぅ…」
少女の鋭い突っ込みにバツの悪そうな顔をするフラドに追い打ちをしていく。
「良い?芦屋君は何も持ってないの。つまり世界に対しての免疫を何一つ持たない状態というわけよ。人間が新たな大陸を移動して風土病にかかったりしやすいのはその土地に対して免疫が無い病に侵されやすくし、人間にとって無害な野菜や肉が人間以外には有害な毒になる事もあるわ」
「つまり、この世界の人間に備わってる免疫が無いトアにとって覇闘気は猛毒だったと言うことかのぅ?」
「そうよ。どうして世界に対しての免疫を持っていないのかは分からないのだけど…。転生や召喚なら世界への免疫が付くはずなのだけ、ど…貴方さっき連れてきたと言ったかしら?」
「うんむ?そういった筈だが、問題があったのかのぅ?」
「問題も大問題よ。貴方あの世界から召喚陣を通さずに連れてきたって言うの?もしそうならわざわざ死なすために連れてきたような物よ?」
「そうであったのか…そうとは知らなんだのぅ。すまなんだなトア」
「そういう事は本人が起きた時にでも言って上げなさいよ」
「そうだのぅ…。して、治療法は何とかなりそうなのかのぅ?」
「それは心配しなくて良いわ。私はこれから調合にかかるから二日有れば大丈夫だと思うわ。」
「ではわしはトアの面倒を見ていようかのぅ?」
「貴方は必要な薬品を持っていたら出して欲しいのだけど、持ってないなら採取してきて欲しいわ。この世界の物で代用出来る筈よ。後これ以上覇闘気を摂取させない食べ物や水を与えて造血薬を与えていれば少なくとも直ぐに死ぬことは無いはずよ」
「そうなるとわし一人では手に負えんのぅ…。ここはケートに頼る他ないかのぅ」
「あ、さっきの女の子?あの娘この世界の子かしら?」
「どうかのぅ?ケートの出自については聞いたことは無かったのだが」
「まぁ良いわ。後で貴方の部屋で薬の調合をするからその時に『見る』わよ。とりあえずは私はここで今できる事をしておくから、貴方は素材の提供と無い分の確保をよろしくお願いするわ。貴方が帰ってくるまであの子には少し休んでもらいましょう」
「うんむ。では早速用意するかのぅ」
一通りの素材とポーションをフラドから奪い取ると少女はフラドを部屋から追い出しトアの頬に触れて優しく微笑みかけた。
「芦屋君は私が助けるから今は休んでいてね」




