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早春物語  作者: 綿花音和
9/31

動き出した時計

 お昼休み私は、校内の図書室にいた。読書も好きだったし、本の匂いをかぐと落ち着くので、考え事をするのに利用している。

 図書室には顔なじみの司書の先生や友人がいた。軽く挨拶して、いつもの席に腰をかけ、緊張しながら下駄箱に入っていた手紙の封を開ける。


 鈴木美夏様へ


 突然の手紙にびっくりしたと思います。ごめんなさい。僕は芳原(よしはら)兼人(かねと)といいます。

 この手紙は、異性としての告白が目的ではありません、率直に言うと、僕はあなたに興味があります。人として関心があるのです。失礼な言い分かもしれません。

 

 僕は、鈴木さんの家庭教師の芳原直人の弟なのです。

 兄はあなたを教え始めてから、みるみる変わっていっています。僕は非常に不思議に思いながら、興味を持って経過を見守っています。


 もし鈴木さんがよかったら、一度でいいから会ってお話する機会を設けて頂けないでしょうか?

 僕のEメールアドレスを記載しておきますので連絡を下さると嬉しいです。

 勝手な言い分の手紙を最後まで読んで下さりありがとうございました。


 芳原兼人より。

 

 手紙は簡潔なものだった。ラブレターでなくて拍子抜けしたのと、意外な事実にびっくりして私は呆然としていた。芳原先生に弟さんがいて、しかも同級生だったなんて。どうしたらいいのかな。

 一件面倒そうな問題が降ってきたが、不思議と心は凪いでいた。弟さんに会うこと、それはきっと悪いことではない。先生のことをもっと知ることが出来るかもしれないと期待を持った。


 昼休みの終了の鐘が鳴り、気持ちを切り替える。以前は、悩み事があると気になってしょうがなかった。だが最近はずいぶん改善したように思う。

 しっかり授業を受けることこそ、私に出来る最善のことだ。先生だって一生懸命準備して教えて下さっているんだから。

 教室に戻ると心配そうな顔をした加奈子と森君が近寄ってきて、

「美夏戻ってこないかと思ったよ」

 と加奈子。

「鈴木は授業をサボったりしない」

 森君は自分のことのように得意げに言った。

 加奈子は私に対して信頼を寄せてくれていたが同時に弱さも知っている。

 森君は彼女のように幼なじみではない。だが私のことを理解しようとしてくれている。それに何故か私の強さを信じてくれているようだ。不思議ではあった。


 ガラガラと音がして担任の光岡先生が教室に入って来る。普段どおり粛々とした授業が展開し、また数学の理解が深まった。

 先生が家庭教師についてくれてから、普段の授業も分かりやすくなった。


 私は芳原先生に会って大きく生活が変わった気がするけれど、先生も少しは変わったのだろうか? この出会いに意味があったのなら心から嬉しく思う。



  



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